四
何とか街から脱出した三人は、月光がぼんやりと照らす荒野をまるで幽霊の如くさまよっていた。命は助かったものの、やっと自分の無実が証明されようとしていたのが奴らのせいで台無しにされてしまった事に、特にヘススは深く落ち込んでいたのである。
ライアンとリアは彼に何か言葉を掛けてやりたかったが、どうしても適切な言葉が見つからず、いや、例え見つかったとしても今のヘススにとっては気休めにもならないのに気付き、黙っている事にした。
それにしても、この荒野はどこからどこへかけて広がっているのか。そろそろ、ひと休み出来そうなオアシスが見つかってもいい頃なのに、一向に現れようとしない。ならば岩の陰で休もうかと思っていた時、三人の目の前に何やら大きなものが現れたのだ。
思わずドキッとした三人だったが、目を凝らして見てみるとそれはどうやら大きな城みたいなんだけどものらしく、石で作られている。
三人は馬から降りて各自のライフルを構えつつ、闇の中にぽっかりと開いた大きな門から内部へと入って行く。
中へ入ると流石に月の明かりは届かないので、はっきりと見えない通路を用心深く進んだ。途中、何回も落ちている物に足を当てたが、辛うじて転ばずに済んだ。
やがて、ライアンが壁にかかっている何かを見つけ、手に取ってみるとそれはランプで、有り難い事に中にはまだ油がかなり残っていたため、ライアンはマッチで火を灯し、暗かった通路はすっかり明るくなったのである。
ランプで周囲を照らしながら進んで行くと、ここで三人は急に広い所に出る。幸い、月の光が届いているのとランプの明かりで少しはっきりと見えるので、三人が周りを見回してみると、辺りには大量の兵器が放置されていた。もう少し近付いて見てみたところ、それらはかつて南北戦争にて使われた旧式のマスケット銃や、パーカッション・リボルバーであったのだ。
他にも色々とありそうだと思った三人は更に捜索を続けた結果、三人が使っているハンドガンやライフルの弾がかなりあるのを発見し、早速みんなで回収する。
ここでライアンが見た事のない珍しい弾薬を見つける。何だろうと思っていたら、
「あーっ、丁度よかった。この弾が欲しかったのよ」
と、リアが大喜びでその弾が入った箱をかき集め始めたのである。
「何の銃に使う弾なんだ? リア」
ライアンが訊ね、リアが左手に握っていたライフルを二人に見せる。
「この銃よ」
ライアンには初めて目にするライフルだったが、ヘススにはそれがスペンサー・ライフルである事がすぐに判った。
スペンサー・ライフル。
一八六〇年、クリストファー・スペンサーによって設計されたレバー・アクション式のライフルで、撃鉄を手動でハーフコックの位置にし、レバーを起こして使用済みの薬莢を排出し、レバーを倒して管状弾倉から新しいカートリッジを薬室へ送って遊底を閉鎖する。射撃の前に撃鉄をフルコックの位置に起こさなければならないため、ヘンリー・ライフルやウィンチェスター・ライフルみたいに一挙動で脱包・装填の動作は出来なかった上に、威力不足だったため、ウィンチェスター・ライフルみたいに普及はしなかった。
口径14ミリ、銃身長はリアが使っているスタンダード・モデルの場合は30インチ、装填数は7発、全長は1200ミリ、リロードには、56ー56スペンサーを使用する。
「カービンの方が見かける機会が多いけど、君が使っているのはスタンダードの方だな」
ヘススが正直な心境を口にすると、
「買う時にお店にあったのが、この一丁だけだったのよ」
と、リアが答える。
弾薬も手に入ったところで、三人は外の景色がよく見えるテラスを見つけ、そこで少し休む事にした。
ぼんやりと辺りを照らす月の光によって、テラスや建物の壁には無数の弾が当たった痕が現れ、ここもかつて南北戦争では激戦地だったのかと三人は思う。
テラスに座って、夜の荒野と空を眺めていると、さっきはまだドキドキしていた心がやっと落ち着いて来て、荒野の風と星空を満喫する余裕も出て来たのである。
ここでふと、ライアンがこう口にした。
「そう言えば、俺達ってまだ互いの事を話していなかったな」
彼の言葉を聞いたヘススとリアも、確かにそうだったなぁと思い、折角なので三人はここで各自の事を話そうと決めた。




