三
凄まじい馬の足音を響かせ、入口から村に入り込んだ三十人のガンマン達は急に銃を撃ち鳴らして高い声を上げる。
かなりの荒くれ者だなとヘススは思ったが、実際にはその通りで、ガンマン達は辺り構わず銃を撃ったりしては、近くにあった物を壊したりしたのだ。
「おーい、村長はいるかー? 今月分の税金がまだなんで、催促しに来たんだが?」
ボスと思われる体の大きい無精髭を生やした男が荒々しい口調にて叫ぶと、シモンズが恐る恐る現れて、
「ジャツコ。実はまだ、収入が全然入っていないんだ。頼むから、もう少しだけでいいから、待ってはもらえないか?」
と答えた。
すると、ジャツコは険しい表情となり、
「ダメだ、ダメだ。こっちだってな、子分どもを食わしてやんなきゃならねぇんだ! 遅滞が続いたら、俺達だって飢えちまう。そうなるのだけは、何としても避けたいんだ! 分かったんなら、今月分をさっさと払いな!」
と怒鳴り散らす。
その声を聞いたヘススは激怒し、
「お前の耳は節穴か? 村長が待ってくれって頼んでんじゃねぇか! 話を聞けば、村の生活が如何に苦しいか判るだろ!」
シモンズの前に飛び出して罵る。
「何だ、若いの? 悪いがおめえの話に付き合っている暇はねぇんだ。そこをどいてもらおうか?」
罵られてますます機嫌を損なったジャツコも怒鳴り返すが、ヘススの顔を少し見てから、
「ん? 待てよ? おめえ、ひょっとして、指名手配されている脱獄囚か? こいつはいい獲物に巡り会えたぜ! やい、ジョージ! いい事を教えてやろう。こいつはなぁ、一ヶ月ほど前に刑務所から脱走して、アリゾナを含め西部の殆どの地域でお尋ね者になっているヘススって野郎だ。こいつを匿った上に味方に付けちまったんじゃ、おめえもそいつと同罪だぞ! しかしだなぁ、俺様とて血も涙も全くねぇ訳じゃねぇ。この男をこっちに引き渡しさえすりゃあ、こいつの首にかかっている賞金に免じて、今日以降は税金を一切取らねぇって約束してやる。どうだ、悪い話じゃねぇだろう?」
そう二人に向かって言い放つ。
しかし、
「断る! いいか、ジャツコ! この人は聞いたところによると、無実の罪で不当に服役させられていたんだ! なのに、このまま彼を渡してなるものか。追われているにも関わらず、村を助けようと私の頼みを引き受けて下さった人をくれてやるなら、私の命をくれてやった方がマシだ!」
シモンズは流石にさっきの遣り取りにて頭に血が上ったのか、最初とは打って変わり、吠えるかの如く言い返す。その彼を見ていたヘススとライアンは、自分達はすっかり頼りにされているのかと、プレッシャーを感じていた。
「ふん、おもしれぇ。なら、俺達三十人を相手にお前ら二人だけでやろうってぇのか?」
ボスたるジャツコが挑発するが早いか、ヘススは手にしていたライフルで子分のガンマンを数人射殺してしまったのである。
ジャツコが驚いて目を見張る中、
「ボーッとしてんのは、そっちじゃねぇのか?」
今度はヘススが詰問する。
「こ、こいつっ! もう我慢ならねぇ! こうなりゃあ俺達の実力、たっぷりと見せてやろうじゃねぇか! 覚悟しやがれ!」
キレたジャツコは子分達にかかれと命じ、ハンドガンを構えた荒くれ者達は一斉に二人を狙って撃って来た。
だが、奴らが放った弾は彼らには当たらず、変な所へ飛んで行ってしまう。
こちらは余談だが、プロのガンマンと称されるアウト・ローは意外と少なく、大抵の悪いガンマンはただ銃を手にしただけのチンピラだったのである。
とは申せど、向こうは三十人はいるため、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるではないが、油断は大敵だ。ヘススとライアンは自分のライフルで確実に一人ずつ倒しながら、その数を減らそうとしている。
ヘススが使っているライフルは連発式で、引き金の下にあるレバーを上下にコッキングすると空になった薬莢を外に排出できる上に撃鉄が上がって、後はそのまま引き金を絞るだけで素早く連射が可能なのである。
ウィンチェスター・モデルM73。
アメリカの銃器メーカー、ウィンチェスター社が一八六六年に開発したレバー・アクション式ライフル「モデル1866」の改良型として造られたのがこの銃で、「西部を征服した銃」として大ヒットした。
コルト・シングル・アクション・アーミーと同じく、45ロング・コルトを使う事から威力不足を指摘され、アメリカ軍には採用されなかったが、ピースメーカーを使用する開拓移民達からは重宝された。
全長1.252ミリ、重力4.300グラム、装弾数15発である。
自慢のライフルを駆使して次々に敵を倒すヘススに負けじと、ライアンも彼に続く。
彼のは単発の後填式で、一発撃っては素早く廃莢して新しい弾を入れ、撃つのを繰り返す。
スプリングフィールド・モデル1873。
アメリカ陸軍に初めて標準装備として採用されたライフルで、歩兵銃型と騎兵銃型の種類があり、両方共に、ブラックヒルズ戦争とインディアンに対する戦い等で広く使用された。一八七三年に造られた。
口径45口径、銃身長828.7ミリ、全長1317.6ミリ、使用弾薬は、45-70-405弾である。
数分も撃ち合い、敵の数も半分ほどになった。この調子なら自分達の方が勝つかも知れないと思った。しかし、ジャツコにも考えがあったのだ。
「こうなる事もあろうかと思って、二十分遅れで四十人の子分どもが来る流れになってんだ。見ろ、来やがったぜ!」
歓喜するジャツコの目が向いている方角に二人が目線を送ると、あろう事か遠くからまたしても大勢のガンマン達が馬に乗ってやって来るではないか。
「こいつは、一筋縄じゃいかねぇな」
ヘススは吐き捨てるかの如く呟いた。