男の話
そこの人、少し俺の話を聞いてくれないかい?
廃れた世界。全てが灰色に見えた。この世界でモノを得る方法は貨幣のほかに対価で払う方法がある。対価に見合うモノならなんでも手に入る。金でも、女でも、夢でも、寿命でも、命でさえも。貧しい人々は家族を養うために己の寿命を対価に金を得る。労働力なんて対価じゃ暮らしていけないほど貧しいんだ。臓器や四肢を対価にする奴もいる。裕福な奴らは貧しい人々の臓器だの寿命だのを買い取って馬鹿みたいに長く生きる。笑えてくるだろ?
こんな世界で今日まで俺は生きてきたんだ。全てを対価として差し出し、家族のために犠牲となった死体がそこらに転がるこの場所で寿命を少しずつ売りながら、なんの目的もなく生きてきたんだ。俺には家族がいないから、人のために犠牲になろうとする奴らが理解できなかった。寿命を少しずつ削って、必要最低限の暮らしで今までもこれからも生きていこうと思っていた。彼女に出会うまでは、な?
彼女は阿保みたいにお人好しなんだ。家族がいない子供達を食わせるために寿命だけでなく両眼を売るほど。初めて見かけた時は聖母かと思ったよ。灰色に見えていた世界が一瞬でも明るく見えたんだ。こんなひどく優しく、愚かな彼女に惹かれたんだ。彼女の瞳を見てみたいと思った。きっと綺麗な色だったことだろう。
俺のこんな濁った瞳とは比べ物にはならないほど、透き通った色だったに違いない。
この時初めて目的ができたんだ。すぐ実行に移したよ。
「俺の眼球と、全ての寿命を彼女に。」
ありがとう、俺の話を聞いてくれて最後に一つ頼まれてくれないかい?
俺の命ももう尽きる。この路地を少し行ったところに彼女が暮らしてるんだ、どんな瞳をしているか見てきてくれないか?
きっと美しい色だろうよ。
読んで頂きありがとう御座いました。