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―スカーレットナイト コックピット―
「宰相自ら、ああいう言い方をするから、フリーラスは、なかなか地球圏の人には受け入れてもらえないんだけど――」
スカーレットナイトのコックピットでライブ放送を見ながらミナム・クライナは、カラムに話しかける。
「ヤマタイ帝国の中には、―俺たち、私たちは国際法規の中でできる研究しか許されていない――そう感じている研究者は多いでしょうね」
自身も一人の科学者としてドラゴンの交配の研究をしているカラムが科学者の立場で、ミナムに対し課題を口にする。
「そういう人達は、フリーラスが、他国との貿易を許されず、自給自足しかできない引き籠り国家であることをイメージできないのかもしれない――エノダ宰相が言ってるほどの自由はフリーラスにはありませんからね。資源のない国家は。すべてを人工的に創るしかない――」
ミナムがぽつりとこぼす。
「もしかして、彼を宰相に据えた事を後悔していますか?」
カラムは、顔を伏せてしまったミナムの顔を覗き込むように聞いてみる。
「三国統一論―は、今のところ、彼だけが公言しているだけだから、国としては静観の構えであることは変わらないんだけど――
そんな危険な国は潰してしまおうという動きが出てくることも想定した上で―
でも、フリーラスにはニュータイプ部隊がいるから、簡単に捻りつぶすことはできない。
―というメッセージを、今回の大会でアピールできれば、参加する意味はあると思う」
「そういえば、シオリ様を宰相が口説いていたことには、ちょっとだけ驚きました」
シオリ・クライナは、エノダ宰相がインタビューで答えた通り、フリーラス王国第三王女――つまり、第二王女ミナムの妹である。
「シオリには、もうずっと会っていないけど、今度の大会で久しぶりに会えるなぁって、漠然と思いました。まだ、ぜんぜん実感はないけど」
「私はミナム様の傍を離れることはできませんが、ツミキにシオリ様の元に行ってもらいましょうか」
「正式に、フリーラス王国選手団が結成されれば、嫌でも毎日顔を合わせることになりますから、会うのは、その時でいいですよ」
「実戦の経験はないとはいえ、ゲームプレイヤーとしては、フリーラス王国内では断トツのトッププレイヤーですから――選ばれてもおかしくはないとは思っていました。」
カラムは、映像の中で顔写真が出されているシオリ・クライナを指差しながら、ヨウコ・サカグチというインタビュアーに少し興味をひかれていた。
そのヨウコ・サカグチは画面の向こうで、エノダ宰相へのインタビューを続けている。
「―ニュータイプは、生まれた時からニュータイプであるという研究結果には、驚きました。
実は、今日は、地球圏のトッププレイヤーであるレオン・イチノタニ選手にもインタビューをしています。彼は、全力で銀メダルを取りに行くと答えています。ニュータイプとオールドタイプの決定的な違いは何なのでしょうか?」
「そうですね。決定的な違いは、魔法が使えるか否か―ではないでしょうか」
「魔法―ですか?」
「そうです。竜を操る。空を飛ぶ。炎を創り出す。電気を放ち身の回りを包み込む。重力を無視して物を移動させる―それらは、どれも『魔法』と呼ばれているものですよね」
「ニュータイプは、ハリー・ポッターのような魔法使いということですか?」
「わかり易く例えるなら、そうです。箒や掃除機にまたがって空を飛ぶことはさすがにできませんが、ここにいるスミレ・ヴァイオレットは、竜騎士の一人で、自在に竜の意思をコントロールすることができます。オールドタイプの私ではできないことです」
「竜―ですか?」
「まぁ、竜も馬も一緒だという人もいますから、魔法の例えとしては、イメージしにくかったですね。それでは、手を触れずに念能力だけで物を移動させることができる―と言えば、魔法の存在を信じていただくことはできますか?」
「いえ、私は、宰相が嘘を言ってるとは申していません―」
「そうでしょうか?」
「はい―」
「では、私の話を証拠もなしに信じてくださるのですか?」
「それは―」
「ここで、ニュータイプが魔法を使うことができるという証拠をお見せしましょう」
エノダは、SPとしての立ち位置を忠実に守っているスミレに視線を合わせる。
「スミレくん、いくつかニュータイプとしての技を見せてほしい―」
「力と言っても、私は力技とテレパシーしか使えませんが、よろしいのでしょうか?」
「このスミレくんは、特に分子レベルの物質分解と、物質修復・結合能力に優れている。 サカグチさんに見せてあげなさい」
「はい―宰相の許可をいただけたのであれば、隠す必要もありません」
スミレは軽く会釈をすると、ふわりと宙に1メートルほど浮きあがってみせた。
「では、サカグチ様にも、同じ視点を差し上げましょう」
「え?私を―ーですか?」
その言葉を発する途中で、ヨウコの身体が、スミレと同様、床から1メートルほどの位置に移動した。
「どうですか?足下に固い物質がある感覚はありませんか?」
「はい―確かに透明ですが固い何かを踏み締めている感覚があります」
「それは、私が凝固させた空気の層です。私の足下にも同じものがあります。こうやって、物理的に空気や風を操り、対象となる人や物に干渉する方法が一つ――そして――」
「あ…」
ヨウコの足下にあった物理的な空気の層が消える感覚があったが、ヨウコは、そのまま空中に浮いていた。
「電波や電磁波、音波のような、精神波というもので、対象物を支えることが、今やってる方法です。この方法で、どのような物でも好き勝手に動かすことが可能です」
「確かに、何かに触れてる感覚はまったくありません」
「では、あなたに命令します」
スミレは、ヨウコに指を突き付ける
「その姿勢で手のひらを上に向けてこれから渡すペンを受け取ってください」
そのスミレの言葉通り、上を向けたヨウコの両手の平に、十数本のペンが瞬間移動で載せられた。
「確かに受け取りました―」
「それを分解してください」
「分解――ですか?」
十数本のペンは、ヨウコの両手の上で、一瞬で溶け、スライムのような液状の物質に変質してしまった。
「そのスライムを、握ってください」
ヨウコの意思を無視して、ヨウコの手はスライムを握ったまま畳まれてしまった。
「ちょっと、スミレさん――」
「できました――手を開いていいですよ」
その言葉に促されるまま、しかし今度は、ヨウコ自身の意思で、自分の手の平を開くことができた。
「私からのプレゼントです―あなたの記憶を辿らせていただきました――ここに来る前、あなたは、息子さんのGプラにイチノタニ選手のサインを書いてもらっていましたね」
「はい―そんなことまでわかるんですか?」
「これでも、ニュータイプの端くれですから。不得意ではありますが、このようにテレパシーも扱えます。ここでエノダがESPシールドを外さないのは、私が同じ部屋にいるからなんですよ」
「ESPシールドですか?ところで、これは――」
「私の専用機のGプラです。機体の名称は、ヴァイオレット・ウォリアー。その名の通り、戦士タイプの機体です。いらないとは思いますが、私のサインと―――もっといらないと思いますが、宰相のエノダのサインを書いておきました。息子さんに渡してあげてください
けっこうなレアものですよ」
そう言いながら、スミレは執務室の床に、宙に浮かせていた足を戻した。同じように、ヨウコも床に降り立った。
この放送を観ているもう一組の眼。ヨウコの一人息子のリュウキも、この二人のインタビューとスミレのパフォーマンスを観ていた。
自宅で、オンラインゲームの『Gユニット・クエスト』に参加しながらではあったが。
「なんか、フリーラスの連中って手品師みたいだね」
オンラインゲーム仲間の、ハンドル名『プチアリス』がリュウキに、そっと呟く。
「僕もそう思った」
「あのTHKの人ってリュウキくんのお母さんだったよね」
「うん」
「カッコいいよね、リュウキくんのお母さん」
「そうかなぁ?とりあえず、スカートじゃなかったんで、ホッとしてるけど」
「だって、あのエノダだよ―」
「うん、そうだね。カッコいいかも―」
「あたしだったらさ、あんな風に超能力を使われたら、手足バタバタさせて、『やだ~おろして~ばけもの~下ろせよ~ばか~このやろう』って、泣き喚いていると思う。うん、絶対そうしちゃう自信がある」
「それって、いつも冷静に敵をせん滅しまくりアリスらしくないね」
「リアルとヴァーチャルは全然違うよ」
「そういうもの?」
「リュウキは、リアルもヴァーチャルも一緒な感じ?確か、本名がプレイヤーネームだよね」
「名前は、一緒だけど――」
「性格を偽れるほど起用じゃなさそうだもんね」
「そうかも――」
「ニュータイプって魔法使いなんだね」
「ゲームの世界なら、石を投げれば魔法使いに当たるくらい大勢いるけど、リアルだと、ちょっと珍しいよね」
「あんなのが、あと6人もいるんだってさ―あたしは、あんなふうに、おもちゃにされるんだったら、一緒に遊びたくはないなぁ」
「ヴァーチャル空間では、普通にできることがリアルでは、全然できなかったりするよね」
「そうだけど、リアルで魔法が使えないからって不便はしてないよ」
二人きりでのんびりとクエストを楽しみながら、リアルタイムで、テレビ放送を観ていたリュウキとプチアリスは、クエスト攻略の手を止めて、ヨウコのインタヴュー放送を観る事に集中した。
「エノダってさぁ」
「ビッグマウスだよね」
「うんうん、エノダってさ―耳も大きいけど、口も大きいよね」
「それは同感」
「三国統一とか絶対無理だよね」
「うんうん、100%あり得ないよ」
「三国統一計画のことは聞かないのかな?」
「たぶん、聴かない―っていうか、聴けないと思う。でも―」
「でも?」
「エノダから言い出したら、突っ込みまくってやるって、母さんは言ってた」
「そっかぁ、そうだよね」
「そういえば、あのスミレ―?の機体、リュウキは使う気ある?」
「ペンから創ったGプラだよ」
「リュウキは、そのドールが、オキニなんでしょ―絶対、あんなの使わないよね」
「いやぁ、それは手に取ってみないと―」
「あのさ、あのさ―」
「もしかして――」
「あれ、あたしにくれない?」
「ニュータイプ専用機と言っても、Gプラだよ」
「なんか、あのデザインも色も、超絶あたしの趣味にぴったりなの――」
「一応、僕がもらうことになってる―」
「だよね、だよね。そうだよね。うん、確かにあれは、リュウキのだから――あたしのじゃないわけで」
「アリス――」
「そうだ!!」
「え?」
「あたしとバトルやって、あたしが勝ったら、あれを貰うってことで―手を打たない?」
「え?」
「ほら、そうと決まったら、テレビなんか観てないで、バトルの準備をするよ」
「ちょっと―だって、今、クエスト中―」
「そのクエスト放り出してテレビを観てたんでしょ―もういいでしょ―このクエストは明日、またやり直そう―ってことで、キャンセル―ポチ!」
「アリス―」
「さ、これで、クエストも終了したし―バトルの準備もできたから―さっさとやろう」
「え?ちょっと待って――」
「待ったなしって言ったよね、さっき、あたし―」
「いや、言ってないし―」
「変だな、言ったはずなのに―じゃ、待ったなし―行くよ」
「待って―」
「だから、待ったなしだって言ってるのに―」
「僕が勝った時の報酬を決めてない―」
「へ?」
「へ?じゃなくて、僕が勝ったら、どうするかって話―決めてないじゃないか」
「そうか、君は気づいてしまった――のか」
「だから―あの―」
「気づかなければ幸せだったのに―」
「いや、あの―」
「大丈夫、君は負ける―だから、安心して負けていいよ」
「ちょっと―」
「それくらい、あれが気に入ったの。ずるいよ、リュウキばっかり、お母さんカッコいいし、イチノタニ選手のサイン入りとかも、もらってるし―」
「それはまぁ、ラッキーだったから―たまたま、母さんが―」
『おぉ、さっそく使ってくれてるのか?』
「え?イチノタニさん?」
『ピンポーン!、非番の軍人は、超暇人なので、遊びにきました~』
「はじめまして!サインありがとうございました」
『リュウキくんがクエスト中で話しかけづらかったけど、クエストマークが解除になって、フリートークモードになったからね、挨拶に来たんだ。そっちに行ってもいいかい?』
「それは、大丈夫ですけど―」
『んじゃ、行くよ。そこで待ってて』
そして、瞬時にイチノタニの機体が、リュウキとプチアリスの眼の前に現れた。
「デートの最中だったか?お邪魔しちゃったかな?」
「イチノタニ選手ですか?GUNDASH地球圏ナンバーワンの?」
プチアリスが、目をキラキラさせて近寄る。
「地球圏を強調されるのは、なんというか―」
「GUNDASHミニもやってるんですね」
「さっきも言ったけど、暇人なのでね―」
「独身なのに、暇人なんですか?」
「はいはい、独身なのに暇人なんです」
「そうですよね。暇人じゃなかったら、GUNDASHミニとか絶対やらないですよね」
「あの―それは―」
「暇人、ばんざいですね」
「はぁ」
「あ、あたし、ハンドル名『プチアリス』って言います。フレンド申請していいですか?」
「あ、いいけど―」
「送りました―これから、あたしがピンチになったら助けてください。よろしくお願いします」
「あの―イチノタニさん―」
「なんか、元気な彼女だね」
「アリスは、いつも、ああいう調子なんです。でも、全然、悪い人じゃないんで――」
「フリーラスの人っぽいね」
「え?」
「あれ?バレてました?」
「フレンド申請のアカウント―確か、この番号は、初期配布のアカウントだったはず―元々、このゲームの開発者はフリーラスの企業で、βテストの時の番号―で間違いない。フレンド申請、承認しましたよ。よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
「アリスはフリーラスの人なんだ―もしかして、ニュータイプ?」
「そんなことないよ―あたしは、ゲーム好きなオールドタイプの一般市民」
「嘘じゃないよね」
「フリーラスの人間だってことは、聴かれなかったから言わなかっただけ。だから、嘘を言ってたわけじゃないよ」
「だから、あの―スミレの機体を欲しがったの?」
「それは、さっき言った理由だよ。フリーラスかどうかは、関係ないよ」
「わかった。あのGプラはアリスにあげる」
「サンキュ―リュウキなら、そう言ってくれると信じてた」
「イチノタニさんが、せっかく来てくれたから、良かったら3人でできるクエストやらない?つきあってくれたら、あのGプラあげる」
「断る理由はないね―いいよ」
「と言うことになりました。このエリアのクエストで3人パーティで挑めるのがあるんです。良かったら、こっちのパーティに入ってもらえますか?」
フリーラス王国大使館―
「三国統一計画のことは、聴いてくれないのかな?」
「今回は、こちらからは、その質問はしないことにしていました」
「ニッポン国、そして、ヤマタイ帝国としては興味ある話題ではないのですか?」
「三国統一計画について、ここで発表したい内容があるのであれば、ジャーナリストの一人として正確に伝えるつもりです」
「それは、非常にありがたい」
「では…」
「まず、私は、こうやって母国語が日本語である3つの国が、それぞれ独自の憲法を抱き、異なる法律の下で生活を続けることに非常に違和感を感じています」
「フリーラス王国という国が、ヤマタイ帝国から独立して20年―なぜ今、統一を叫ぶのですか?」
「それは、フリーラス王国が、20年かけて一つの成熟した国家として、一つの答えを出すことができたからです」
「一つの答え―それは、ニュータイプ計画の成功のことでしょうか?」
「コロニー自治区であっても、安全かつ幸せを国民に与えることができるということを我々は証明したかったのです」
「それならば、その安全かつ幸せな環境を維持し発展させれば良いのではないでしょうか?
今、それぞれの国で大きな災害も危機も起きていない状況で、3つの国を統一すると声高に言う必要があるとは思えません。統一をすることで、フリーラス王国は大きなメリットがあるだろうことは容易に推測できますが、ヤマタイ帝国、そして、ニッポン国に利益を産むことはない計画なのではないでしょうか?」
「確かに、鉱物資源の採掘をすることができない。そして、どの国からも鉱物資源を輸入することすらできない我が国は、どこかの国と協力する道をずっと検討してきました」
「それは、独立する時の条件に、フリーラス王国―自らが提案した条文ですよね―その足かせがきつくなったからと言って、また、ヤマタイ帝国の庇護下に戻りたいという身勝手な理論は、到底、どの国も首を縦に振る事はないと思うのですが、このことを逆の立場で考えてみたことはありませんか?」
「戻って来いとは、おそらく口が裂けても言えないでしょうね」
「そして、なぜ二国ではなく、三国なのですか?」
「日本国という小さな島国が、二つに分裂したのは79年前でした。宇宙開発を積極的に進め、税金を増やし大きな予算を組もうとする施策と、狭い領土を大切に、そして限りある資源を大切にという施策の二つの選択肢が提示されましたが、当時、それを議論した政府は、どちらか一つを選択することができずに国は二つに割れました」
79年前、地球圏にあった日本国という島国は、北と南に分裂をし、それぞれに政府を持つこととなった。
この国が二つに割れた時、センダイ・シティに皇居を遷し、当時の北海道と東北地方の一部が、ニッポン国の国土となった。
そして、残った国土のすべては、宇宙開発を主軸とした政策を提言したブラッド財団が束ねることとなり、大統領を戴く帝国主義を取る事で、宇宙という広大な土地の支配権を得ることを望む国になる為に大きく舵をきった。
資源を輸入に頼っていた日本国は、宇宙に乗り出す事で、資源の自給自足を狙い、ヤマタイ帝国と名を変えて、今、極東アジアに存在し、さらに、地球圏、火星圏にスペースコロニーを建設し、大気を確保し、生活と生産の拠点作りを積極的に進めている。
「特に今、ヤマタイ帝国の存在が危ういものとなっています。帝国主義の名の元に宇宙に進出していくことが、日本国を由来とする三国以外の国から疎まれていることを、おそらく、ここヤマタイ帝国の施政者たちは気づいているはずなのです。帝国主義は誤りであったと気づくべきなのです」
エノダの声に力が入る。
「しかし、知恵も力もあり、何よりも宇宙を人類が生活できる場所にするのだという信念に基づき、このヤマタイ帝国が、この太陽系を開拓して来たからこそ、今の国際間のバランスが保たれているのです。
ヤマタイ帝国が、宇宙進出を決断した時、それに追随する他国は皆無であったと記録にも残っています。
旺盛なフロンティア精神を持ち土地を切り拓いてきた国や組織が、その土地を支配することは当然のことだと、宰相は、お考えにはなりませんか?」
その言葉は、ヨウコ自身の言葉というより、ヤマタイ帝国の教育思想であった。
「三国以外の他国の眼を気にする必要があります。巨大化した組織・国家は、常にその立場を監視される宿命を背負います。そうなると、他国からの攻撃を恐れるようになり、自然と軍備の増強を図らなくてはいけなくなる。
それは、あらゆる攻撃から国を守るためのオプションを備えなくてはいけないからです。その為に、帝国主義―つまり植民地支配をやめ、現時点で、他国への割譲や委譲といったコロニー自治区の整理をしなければならないということです。」
「それは、ヤマタイ帝国の支配下にあるコロニー自治区を、フリーラス王国でも利用したいということですか?
それとも、巨大化した母国―ヤマタイ帝国の脅威を取り除きたいという恐怖心から来る思想なのですか?
もしも、宰相がおっしゃることが事実であり、他国がこのヤマタイ帝国への攻撃を考えているとすれば、一旦、分裂をした3つの国が再度、一つの国になってしまうことのほうが、より大きな他国への脅威となってしまうのではありませんか?」
ヨウコの冷静な質問にエノダは、落ち着いた声で答える。ESPシールドに覆われた顔が笑みを称えているのか、厳しい表情となっているかは読み取ることができない。
「私は宰相となっておよそ5年間ですが、ニッポン国とヤマタイ帝国以外の国と外交を重ねてきました。
そういう意味では、あなたより他国の施政者の考えにより近く接してきています。辺境の小さなコロニーで生産された物を受け入れてくれる国も増えてきました。」
「その他国が受け入れたモノとは、今まで人が禁忌としてきた領域に踏み入り、生への尊厳を蔑ろにして創造したものがほとんどだと聞いています。それを否定することができますか?」