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機動騎士スカーレットGTR  作者: 新井 富雄
第1章 ニュータイプ理論
3/4

ー3ー

 フリーラス王国【コロニー・ニジガオカ】通称城下町コロニーの宇宙港には、宇宙用軍艦・Gユニット母艦が3隻停泊している。

カラムの愛機スカーレットナイトは、この3隻のうちの1隻…艦番701番『ヒカリ』…軍用Gユニットを搭載し、この城下町コロニーを守護する艦である。

カラムの相棒…ドラゴンのレッドウィングは、フリーラス王国王女ミナム・クライナとカラムを、この宇宙港まで送り届けると、『ヒカリ』に乗ることなくコロニーの自分のいるべき場所に戻っていった。

「ツミキからの連絡は届いていますか?」

「ええ、どうやらツミキの悪い癖が出てしまっているようです」

「いつもの、『わたしは誰の挑戦でも受ける!』ってやつですか?」

「領空侵犯を犯すような不届きものに対して少し罰則を強化しないといけなくなるかもしれません」

「それか、ツミキを配置転換ですか?」

「それもいいですね…Eースポーツ強化本部の教官のポストとか新設しましょうか?」

 スカーレットナイトが格納されているハンガーまで移動した二人は、全高15mの緋色の機体を見上げる。

フリーラス王国で製造されるGユニットには、他の国が開発する人型兵器とは異なる特徴がいくつかある。

その特徴とは、まず複座が基本であり、二人以上のパイロットが乗る事を想定した設計となっていて、永久機関である発電施設を内蔵し、単機で宇宙空間で作戦行動を取る場合でも1年以上の機体内での生活が可能なものとなっている。

そのため、コックピット周辺には、簡易シャワー、簡易ベッド、携帯食料はもちろん、冷凍設備も組み込まれ多量の冷凍食品も機体内に配置された収納部分に確保されている。

つまり、キャンピングカーのように、生活するための全ての機能を有しているのである。

超軽量の合金で装甲されたフリーラス製のGユニットは、その装甲で守られた機体の各所に生活物資と保存食料が内蔵されている。

ヤマタイ帝国のGユニットは、燃費性能が悪いため常にユニット母艦と共に行動をしなければならないが、スカーレット・ナイトやシャイン・マジシャンに代表されるフリーラス王国のGユニットは、母艦への帰還を必要としない単機での作戦行動が可能となっている。

「ここから、ツミキのとこに向かうのに『ヒカリ』を出す必要はないでしょう。私一人で行ってもいいですが、ミナム様も一緒に乗りますか?」

「そうですね…どうやらニッポン籍の機体と交戦しているらしいですし…見ておくことも必要でしょう。一緒に行きます」

「相変わらず、情報が早いですね」

 二人は、簡易タイプの宇宙服を見に付けると、スカーレット・ナイトに乗り込んだ。


再びの地球――

フリーランスのアナウンサーの立場であること、ヤマタイ帝国という宇宙植民地政策を前面に押し出す国に存在すること、そして子を持つ親の立場であること。

ヨウコ・サカグチは、これからインタビューをする相手の元へ向かう車の後部座席で相手のプロフィールを再チェックしていた。

「よくアポイントメントが取れましたね。こんな大物――」

運転手を務めるアシスタントディレクター兼カメラマンの男―カウルス・スドーが、ヨウコに話しかける。

「スポーツアナウンサーとしては、興味のある人物ですからね。ちょっとだけ、夫のつてで軍のお偉いさんに便宜を図ってもらいました」

「そういうとこ、ほんとに尊敬しちゃいます」

「利用できるものは、全部利用する。誰かのためというより、自分の欲求を満たす為だからできることよ」

「さっきのイチノタニ選手も、その利用できるものの一つですか?」

「どうかな?そんなに役に立ちそうにないけど」

「リュウキくんのいい友人になれそうな気はしてますよ…まぁ、単なる俺の直感ですけどね」

「リュウキは、あれで、かなり交際範囲は広いみたいだから、友人には困ってないと思うんだけど…」

「エノダ宰相――どんな人物ですかね?」

「この3つに分裂してしまった日本という国を、もう一度一つにまとめる――もう、そんなことは絶対にできないのに…だから、単なる夢想家としか思っていなかったんだけど…」

「まさか、この単独取材にOKを貰えるとはね…俺は意外でしたよ」

「今回のインタビューは、あくまでも、今年の『GUNDASH』へフリーラス王国が、団体戦出場を表明した…そのことに限っての質問のみ…他の政治的な質問はしないという条件だけど――」

「ヨウコさんの質問次第では、フリーラスという国が、三国統一にどれくらい本気なのかを聞き出すことができるはずですよ」

「日本統一論――79年前、日本が二つに分裂してしまった後…火星圏のコロニー自治区でしかなかったフリーラスは、20年前、ヤマタイ帝国から独立を果たした。

 独立当時は、鉱物資源もエネルギー産業も何一つ持っていなかった国を、この20年で大きく成長させたグループの中心人物だった一人――」

「資源は確かに乏しかったようだけど、人材は豊富だったようですね。これらの資料が当てになればだけど」

「スペースコロニーで育成する植物や動物から超合金を創りだすという発想……失われた生命を復活させ繁殖させ、それら希少種を育成し天然の生物素材のみで金属を産みだしていく超高度な錬金術……火星の鉱物資源の採掘権を奪われた苦肉の策と公言してはいるけど…何もできやしないとタカをくくっていた母国・ヤマタイ帝国の施政者たちは、脅威を感じているはず。その技術を盗もうとする動きもあるようだし…

 フリーラス王国の王族を中心とした中枢組織が、そのプランを出しているという噂もあるし……」

「聞いてみたいこと、ほんとにあり過ぎて困ります」

「でも、今日のところは、私たちはあくまでも、フリーラス王国選手団を率いる統率責任者として、エノダ宰相と会うんですからね」

「美人の奥さんを溺愛してて、絶対に色仕掛けでは落とせないという噂も、かなり有名ですからね」

「その噂は初耳だけど……」

「さっきのイチノタニ選手のようにはいかないでしょうね」

「私は、色仕掛けで彼からサインをもらったわけじゃないけど」

「まぁ、ヨウコさんが、そういうなら、そういうことにしておきましょ」


 この日、フリーラス王国の宰相を務めるカズユキ・エダノという男に、ヨウコはインタビューをすることになっている。

 今回予定されている単独インタビューは、ネットでライブ中継された後、編集を施され、定時のニュース番組で放送される。

この時代の政治家へのインタビュー取材の形として、ライブ中継で放送電波に載せることは、事実隠蔽をさせないという意味で極めて当たり前のスタイルであり、そのことが、多くの政治家がインタビューに応じない理由ともなっていた。

一度でも公的な放送電波に載せた取材内容や演説内容は一つの大きな証拠となり放送事業に携わる企業や個人はもちろん、国際映像ライブラリーにも永久に保存される。

ただ、ライブ映像――生中継映像が電波に載るのはリアルタイムで放送された時だけであり、ライブ放送が終わった後、ライブ映像が編集されずに、そのまま再生されることはない。

 カラムが初出場した『GUNDASH』大会の映像なども政治的理由によりオリジナル映像が公共の電波に載る事はなくなっているが、オリジナル映像は、それぞれ保管されるべきところに保管されている。

そのような仕組み・ルールとなっているため表に出され記録映像として再生されるのは政治的または商業的に編集された映像となり、一般ユーザがオリジナル映像を見る機会は失われてしまうのである。

元々は、ライブ映像とアーカイブ映像の差別化を図ろうとした方式ではあったのだが、このルールによりライブ映像で起こったハプニングはアーカイブ映像からは100%カットされてしまう。


 フリーラス王国大使館に着いたヨウコは、身分証明書を警備の職員に提示する。

「宰相のエノダへの取材ですね。私は駐留大使を務めますフクシと申します。ご案内します」

 二人は、フクシと名乗る駐留大使の案内で、エントランスを通過し、エノダ宰相の待つ執務室へと通される。


「よく、いらっしゃいました。フリーラス王国で宰相を任されておりますエノダです。」

 執務室には、仮面を付けて出迎えるエノダ宰相その人がいた。

「本日は、取材に応じていただき、誠にありがとうございます。私は、THKのサカグチと申します」

「多忙な為、今日は一時間しか時間を取ることができませんでしたが、何でも聞いてください。時間が許す限り包み隠さずお答えいたします。」

「そう言っていただけると、とても質問し易いです。カメラをセッティングする時間を少しいただけますか?」

「もちろんです。できる限り、健康的な表情で映してください。火星のコロニーは食料事情が悪いという噂も消えていないようなので、そんなことはないんだということもアピールしたいのですよ」

「その仮面では顔色は映らないと思いますが最大限の努力はいたします」

「これは失敬。この仮面はESPシールドとなっているので取材の時は外せないのですよ。私はイヤなのですが、ポーカーフェイスが苦手なので、それもあって付けています」

「わかりました。スドーくん、よろしくね」

「了解です」

 アシスタントディレクター兼カメラマンのスドーが、手際よくカメラの位置を決め、プロジェクターモニターの配置を済ませる。

カメラは固定カメラが1台。そして、ハンディカメラが1台の計2台と少ないため、撮影準備は速やかに完了した。

「では、よろしいでしょうか?」

「私は、準備OKですよ」

 エノダは、にっこりと微笑む。

「ライブ放送の予定時刻まで、あと5分ほどありますが…」

「カメラを回していただけるなら、5分間、予定の質問以外の質問に応えましょうか?」

「それは、嬉しい申し出です。よろしいのですか?」

「はい、どうぞ、回してください。時は金なりです。一秒も無駄には使いたくありませんから」


「全世界の皆さん、こんにちは。放送予定の5分前ですが、私はフリーラス王国大使館に来ております。お茶の間のみなさん、午前中に放送しましたイチノタニ選手へのインタビューは観ていただけましたでしょうか?

 THKがお届けします『GUNDASH特集』本日のスペシャルインタビューの二人目は、フリーラス王国、エノダ宰相です。

今、私はエノダ宰相の許可をいただき、5分早く放送を開始することとなりました。」

 カメラ映像がヨウコからエノダに切り変わる。

「ヤマタイ帝国の皆さん、はじめまして。

フリーラス王国宰相のエノダです。よろしく、お願いします」

「では、さっそく初めの質問です。今年開催される『GUNDASH』大会ですが、フリーラス王国は、団体戦でも出場をすると噂になっています。これは事実でしょうか?」

「もちろん、事実です。まだ、メンバーの7名が決定していないので公式発表は控えておりましたが、今年の大会を盛り上げるため、必ず7名を揃えて参加します。」

「それは、とても嬉しいニュースです。前回大会で個人戦で優勝を果たしたスカーレット選手も団体戦チームには含まれるのでしょうか?」

「彼女は、大将としてエントリーする予定です。楽しみにしていただきたい」

「7名のうちの1名は決定しているのですね」

「決定しているのは、カラム・スカーレットの他に2名。つまり、3名は決まっています」

「2名の名を、この場で発表していただくことはできますか?」

「もちろんですよ。1名は、フリーラス王国宰相付きSPのスミレ・ヴァイオレット。そして、もう1名は、フリーラス王国第二王女である、シオリ・クライナ。この二人の国際大会への出場は初めてです。」

「明快な回答、ありがとうございます」

 その答えを聞きだしたところで、放送予定時刻である14時となった。

「それでは、定時となりましたので、『GUNDASH』大会について、予定していた質問をしたいと思います。

 幸運にも5分間のフライング放送となりましたが、この5分で貴重な情報を得ることができました。」

「私は、隠蔽や隠し事は大嫌いなので、なんでも正直に答えますよ」

(だったら、そのESPシールドとやらを外せばよいのに…)

 ヨウコは密かに思う。

「では、あらためまして、THKのサカグチです。本日は『GUNDASH』大会について、フリーラス王国のエノダ宰相にインタビューします」

「あらためまして、フリーラス王国で、宰相を務めておりますエノダです」

「先ほどの質問の中でエノダ宰相から3名の出場予定者が発表されましたが、今、スタジオで、その3名のプロフィールがまとめられましたので紹介いたします」

 画面がスタジオセットに切り替わり、スタジオモニターに、3名の顔写真が映し出された。

 カラム・スカーレット―前回『GUNDASH』大会個人戦優勝者。フリーラス王国王室付き親衛隊隊長。

 スミレ・ヴァイオレット―フリーラス王国宰相付きSP。国際大会での戦績はゼロ。

シオリ・クライナ―フリーラス王国第3王女。国際大会での戦績はゼロ。

「THKとしても、今回のインタビューのために、候補者を数名挙げていたのですが、スカーレット選手以外の2名は、まったくと言っていいくらいノーチェックでした」

「そうでしたか、それはたいへん失礼なことをしました」

「いえいえ、スポーツ報道部として、もっと広く情報を集めるべきであったと反省しています」

「せっかくなので紹介しましょう。後ろに控えているのが、スミレ・ヴァイオレットです。私が最も信頼しているSPさんです」

 そうエノダから紹介された女性SPが、最敬礼をしながら微笑んだ。

「スミレ・ヴァイオレットです」

 短く自身の名を告げると、先ほどいた執務室の隅に戻った。

「ご本人が、まさかこの場にいらっしゃるとは―」

「フリーラスという国は、まだまだ人材が乏しいので、できる者がなんでもやっています。

私のように、何もできない者が宰相を名乗ってるくらいですから、ヤマタイ帝国の優秀な方には是非、我が国に来て活躍してほしいと願っています。我が国は常に新しい力を欲しています」


 ースカーレットナイトコックピット―

「エノダ宰相の口の軽さは、ほんと、何度言っても治りませんね。困ったものです」

 スカーレット・ナイトのコックピットの中で、カラムがあきれ顔で呟く。

「彼が帰国したら、私から厳重注意します。でも、まぁ、彼のことですから考えあってのことでしょう。

 カラムと、スミレ、シオリと…ツミキ。

とりあえず、私たちが見つけるのは、あと3人…」

 ミナムが、名前を呼び挙げながら指を4つ折りたたむ。

ツミキが領空を侵犯したニッポン国の戦闘機体を沈黙させ、護送用のコンテナユニットに2人の侵入者を閉じ込め終えたところに、カラムの操縦するスカーレット・ナイトが着いたところであった。

「随分と捉えるのに時間を掛けたようだけど、犯罪者に手加減は無用ですよ」

「品行方正で斬り捨て御免の国際ライセンスを持ってるあんたと違って、こっちは、相手を必要以上に痛めつけたら始末書10枚提出だからね。したくない手加減だってするよ」

「取り急ぎ、用件だけ伝えに来ました」

「GUNDASHに選手として出場しろってことだろ。OKだよ。わざわざ、こんなとこまで来なくても電話一本で済む話だ――もっとも、こっちに来いって言ったのはあたしのほうだったかな?」

「忘れっぽいのね。そうですよ」

「カラム―あんたの顔を見て闘志が沸いてきたよ―個人戦とやらにも当然出させてもらえるんだろうな?」

「個人戦はフリーエントリーなので誰でも出られますよ。出ますか?」

「さっき捕まえた連中と同じように、あたしに挑戦してくるヤツらが後を絶たないんで―ここに来れば、つまり鬼に挑んだらどうなるか、教えてあげたいと思っていたところだ」

「あなたが言うようにフリーラスメンバーでメダル独占も悪くないですね」

「まぁ、なんというか、自分で呼び出しといてなんだけど、ここまで来る必要は、やっぱなかったよな」

「あなたは確かにそうだろうけど…あなたの大切な隊員たちには、これからの事も含めてちゃんとお願いをしないといけないことだから」

「あたし一人抜けたところで、この部隊の戦力は万全だ。誰一人、心配するヤツはいない」

『たいちょ~、どっか行っちまうんですか?』

 スカーレット・ナイトと、シャイン・マジシャンの2機の会話に、ツミキの相棒のムツゴロー・クラモチが情けない声を出す。

「あたしのケツも見飽きた頃だろう?あたしの代わりはお前だ。次期隊長として、この部隊を任せる。がんばってくれ」

「俺が隊長っすか?」

「他に誰がいる?この部隊を任せられる奴が…」

『ええと…イチローと、ジロー、サンジローと、コジロー、デンジロー、キイチロー、コータロー、ウラシマタローとモモタロー、キンジロー…』

「なるほど、けっこういるな――」

『いやまぁ、隊長の訓練で血反吐吐いた連中は、どいつもこいつも、隊長クラスの器量は持ってますからね』

「使える連中が、それだけいれば頼もしい限りだ」

『後のことは俺たちに任せて、隊長は思いっきり暴れてきてください』

「わかった。フリーラスの最頂点が太陽系の最頂点だってことを証明してきてやるよ」

『隊の連中みんなで応援しまくりますぜ。』

「クラモチ隊員…まだ、しばらくはツミキ隊長をこの部隊に預けます。きちんと引継ぎをして、生物コロニーを含め、この領域を守ってください」

 ミナムがクラモチに直接話しかける。

『プリンセス・ミナム…もちろんです。

 猫の子一匹たりとも傷つけさせたりしません。悪い奴らは、地獄の底まで追い詰めて豚箱に放り込んでおきます。俺ら全員、正義の鬼部隊なんで』

「頼もしいです。基地に戻ったら、直接挨拶させてくださいね」

『わっかりました。そういうことなら、早く基地に戻りましょう。隊長』

「よっぽど、あたしと別れるのが楽しいと見える…それとも、隊長昇格がよっぽど嬉しかったか?」

『同じ部隊に居る間に、隊長をデートに誘いたかったんで、心残りと言えばそこだけですね。隊長昇格は、めちゃくちゃ嬉しいっす。給料も当然、爆上がりだし、―これだけ喜ばせといて、やっぱ、新隊長連れてきたよ~ってのだけはなしにしてくれると助かるっス』

「こんなのが、新隊長候補ですが、よろしいですか?ミナム様」

「とりあえず、新しい隊長を探す必要がないことがわかってほっとしていますよ。ツミキは、隊にいる間、より多くの隊員とデートしてあげて、いい思い出を作ってください」

「デートと言っても、筋トレするのと、あとは一緒にゲームするくらいしか思いつかないけど…」

『いやいや、隊長の美しい筋肉を間近で見られるチャンスは滅多にないっすから、隊長を狙ってる連中は筋トレデート大喜びですよ』


「それでは、次の質問です」

 モニターの向こう側では、ヨウコ・サカグチのエノダ宰相への質問が続いていた。

「先ほどまでに、THKで調べたフリーラス王国から選出されると思われる選手を紹介してみましたが、この紹介した中に、残り4名に含まれる選手はいましたか?イエスかノーかで答えていただけますか?」

「残念ながら、答えはノーです」

「THKが総力を挙げて、この二年間にフリーラス王国の主要な軍人、そして、ゲームプレイヤーを当たった結果なのですが、かすりもしていないのでしょうか?」

「かすりもしていないですね。残念です」

「ということは、フリーラスでは、スカーレット選手のようなニュータイプという噂のある人物を密かに養成している…それら、ニュータイプを、今回の大会には参加させるということでしょうか?」

「随分、飛躍しますね」

「フリーラス王国の科学の力は、余り公開されていません。そういう中で、スカーレット選手のような個性を持った人物が登場したのが二年前です。あのレベルのニュータイプが、どれだけの人数いるのか?それは、地球に住む我々にとっても、とても興味深いことなのです。宰相が把握している、フリーラス王国所属のニュータイプは、いったい、何人いるのですか?」

「なるほど、地球圏の人は、ニュータイプに興味がある…それは、あなた個人の興味ではないということですか?」

「THKにも多くの視聴者からの意見が寄せられています。その多くは、フリーラス王国という日本語を母国語とするコロニー生活者が、宇宙空間に適応するため、どのような進化をしているのか?自身も宇宙へ飛び出せば、魔法のような力を身に着けることができるのか?そういう事実があるのなら報道の力で調べ公開してほしい――という興味からくる意見です」

「そういう興味なのですね――」

「はい、回答いただけますか?」

「人数については、私は当然全てを把握していますが、それをここで申し上げるわけにはいきません。申し上げられない理由は、国家機密だからです」

「それは、国の施策としてニュータイプの能力開発を行っているので答えられないという意味でしょうか?」

「先ほどの興味の中に、どうすればニュータイプになれるかを知りたいという意見があったようですが、ニュータイプは、突然変異や、後天的発現で産まれるわけではないことを明言しておきます。少なくともフリーラス王国ニュータイプ研究チームの研究事例で、後天的に超能力の発現を確認できた事例は、今のところ皆無です」

「訓練による成長や、薬物投与による肉体的成長、または脳への直接的刺激などで人体能力の限界を突破することで得られる。その類の能力ではないということですか?」

「その通りです。ニュータイプは、生まれた時から、ニュータイプなのです」

「それは、生命の誕生を政策としてコントロールする…しているということですか?」

「そうです。人だけではありません。動物も植物も、スペースコロニーという、環境を作為的に創り出すことができる空間だからできる技術の中でコントロールしています」

「それは、人体実験…ということですか?国際法規を無視して、ひとつの国家が科学者を集めて超人を産みだそうとしているということなのでしょうか?」

「超人…確かに、そこにいるスミレ・ヴァイオレットは、超人と言えるでしょう。だから、今回の大会に出場するようにと、私自身が説得しました」

「彼女もニュータイプですか?」

「フリーラス王国に、現在、ニュータイプは7名以上存在します。その中でも、能力の大小によりランク分けがされていて、現時点でのトップ7が、今回の大会の選手として選抜されます」

「人を…ランク分け…ですか?」

「はい。フリーラス王国は、民主主義国家ではなく、王の統治の元、国民の全てが幸せになることを目的として独立した国家です」

「民主主義を全否定ですか?」

「恋愛感情などという曖昧な個性・感情でバースコントロールをしてきた結果が、慢性的な少子社会を創ってしまったのだと、私は思っています」

「恋愛感情も否定するのですか?」

「完璧なバースコントロールが可能な国家により生み出された超能力を備えた新しいタイプの人類がニュータイプです。決して、偶然の進化によるものではありません。偶然を待って時を過ごしていたのでは、政治家は務まりませんよ」

「そんな民主主義―」

「だから、フリーラス王国は、民主主義国家ではないのです。超人を産み出し、超人による力で諸問題を解決するために王が存在しています」

「お言葉を返しますが、自由な研究の中で産まれた技術を生かしていくことが民主主義の素晴らしいことです」

「あなたの言う自由な研究とは足かせの付いた自由でしょう?

 自由研究の結果、科学的に証明された理論――それが、理論のままでは、何一つ形にはなり得ません」


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