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テレビ出演を終え、控室で喉を潤しているレオン・イチノタニは、控室をノックする音にすぐに気づいた。
「どうぞ、鍵はかかってないですよ」
「では、失礼します」
「きみは?」
「お忘れですか?」
「さっき別れたばかりだ。忘れてはいないよ」
レオンの控室に入ってきたのは、先ほどレオンにインタビューをしたヨウコ・サカグチだった。
「全力で銀メダル狙いですか?」
「オタクらが書いたシナリオだろう?不満をぶつける相手が違うんじゃないか」
「ごめんなさい。と、それを言いたくて来ました」
「なるほど…じゃあ、今からシナリオのないインタビューでもやるかい?」
「それも悪くないですけど」
「ん?仕事抜きで、食事でもってことか?」
「さすがに、それは職権濫用になっちゃうでしょ―軍人さんと違って、この後、二つも取材の仕事がありますし」
「ははは、軍人とアナウンサーだ。芸能人でもアーティストでもない。職権濫用にはならないよ」
「もっとも、ヨウコ・サカグチさん、あなたはたしか、ここの看板アナウンサーの一人だ。アイドルアナウンサーの立場じゃ、一介の軍人とデートしてるとこをファンに見つかったら問題だろう?」
「う~ん、どうかな?でも、ファンに見つかったら問題なのは、イチノタニさんのほうでしょ」
「それは問題ない。さっきのインタビューで言ったとおりファンがいないってことだけは事実だからな」
レオンは、特に『だけ』に力を込め、そして、この時初めて、少しだけ笑顔をみせた。
「この国で2番に意味がないことは、あんたたちのほうが良く知ってるはずだろう?」
「ええ、そうですね。とにかくトップをねらえが国策だから」
「それで…役者でもない一介の軍人に三文芝居をやらせておいて、アナウンサーさんが謝罪にきました。それで用事は完了ですか?」
「いやな言い方をするんですね」
「まぁ、立ち話もなんだから、座るといいよ。」
「じゃ、お言葉に甘えます」
レオンから促されヨウコは控室の空いてる椅子に腰を下ろした。
「あの…」
少しの間があって、うつむき加減だったヨウコが顔を上げる。そして、レオンに視線を合わせる。
「なんですか?」
「あの…サイン…貰えますか?」
「え?」
「すいません、頼まれちゃって…今日、イチノタニ選手に会うんだよって言ったら、もらってきてくれって言われて、それで…」
「頼まれものですか?」
「あ、はい…あの、でも、全然、断ってくれてもいいんです…そう説明します」
「断ったりはしないけど…ところで、誰からの頼まれものですか?俺のサインなんてオークションに出しても、買い手なんかつきませんよ」
「えと、あの…」
「同業の方ですか?」
「いえ…息子なんです」
「息子さん?」
「はい、5歳になります。リュウキって言います。それで、あの…」
ヨウコは手にしていた少し大きめのバッグからプラモデルを一つ取り出した。
そのプラモデルは、レオンがGUNDASHの試合の時に使用するレオンカラーのシルバーで彩色されたドールの形をしていた。
「これに…リュウキくんへ…って書いてもらえますか?」
「凄いね、スポンサーロゴまで描いてある」
受け取ったドールのプラモデルをじっくりと見ながら、レオンは破顔した。
「今となっては、もしかしたら唯一のファンかもしれないし…でも、こんなに綺麗につくったGプラをサインで汚しちゃっていいのかい?」
「はい、GプラのGUNDASHミニ大会には別の機体を使うって言ってるので、これにサインを貰えたら宝物にするって言ってます」
「そういう事なら喜んでサインしますよ」
「ほんとうですか?ほんとうにいいんですか?」
「断る理由はないですから」
「うちの局から、あんな失礼なことを頼んでおいて、絶対、怒ってるんだと思っていたから…」
「怒ってないですよ。今の時点で勝機がないのも事実ですし、2年近く彼女に勝つために自分なりの研究もしてきましたが、機体の性能差は縮められなかった」
「あんな機体、レギュレーション違反もいいとこです。あれじゃカートレースにF1マシンで参加するようなものですよ」
「はは、確かに…でも、GUNDASHのトップカテゴリをカートレースですか?」
「あ…また失礼なことを…」
「リュウキくん…スペルは、R・Y・U・K・Iで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。そうか、イチノタニさんは、Rじゃなく、Lなんですよね」
レオンは、サインペンを取り出し、手にしたドールの右足背面に『For Ryuki』左足背面に『Leon Ichinotani』と書き記した。
「竜と獅子、こうやってみると、なかなか強そうだ。リュウキくんは、GUNDASHミニ大会の選手なんですか?」
「はい…これ2年前に作って、ずっと大事にしてたんです」
「二年前…3歳の時?」
「私に似ず、手先が器用な子なんです」
「旦那さんが、器用なんじゃないですか?」
「そうだったかもですが」
「旦那さんはGプラを作ったりしないんですか?」
「リュウキの父、ゴロウ・スミノエと言いましたが、4年前に亡くなりました」
「ゴロウ・スミノエ?」
「はい、あのスミノエ少佐です。ニュースにもなりました。殉職して大佐になりましたが」
「そうですか…あのスミノエ少佐に美人の奥さんがいるって噂は聞いていましたが…」
「美人じゃなくて、ごめんなさいね」
ずっと、緊張した顔でその場にいたヨウコの相好が崩れた。
(4年前か…あの作戦で命を落としたスミノエ少佐の奥さんだったとは…きつい表情はちょっと苦手だけど笑った顔は魅力的だ)
「噂どうりですよ」
「未亡人ですから…でも、あの人の忘れ形見を一人前にするまでは、まだ死ねないですからね。いやな仕事もいっぱいがんばらないと」
「フリーアナウンサーの仕事って、いやですか?」
「フリーアナウンサーは、とっても素敵な、誰にでも誇れる仕事です。でも、今回のように、相手を不愉快にさせてしまう前提のインタビューなんかもしなくちゃならない。ある意味、軍隊といっしょかもです」
「そういう事ならちょっと納得です」
「次は、あのフリーラス大使館に行って取材です。なんで、あんな火星圏の新興国の田舎代表に会わなければいけないのか…その後は、フリーラスに行けとか…言われてもいます。今回の仕事、ちょっと後悔しています」
「フリーラスって…あのカラム・スカーレットに独占インタビューでもするんですか?」
「たぶん、絶対無理なんです。上からはアポなしで突撃取材とか、王宮に侵入してコメント取れとか言われてますが、相手は、王室警護の親衛隊の隊長ですよ。そんな犯罪まがいの取材なんかできませんよ」
「犯罪まがいっていうか、立派な犯罪ですよ」
「ですよねぇ、ああ、憂鬱」
「リュウキくん、GUNDASHミニ大会のプレイヤーなんですよね。今度、一緒に戦いたいって、伝えてください」
「イチノタニ選手も『ミニ』の大会に出てるんですか?」
「F1ドライバーだって、カートの草レースに出るじゃないですか。それと一緒ですよ」
「リュウキ、絶対喜びます」
「ただ、手加減とかはできませんよ、ご存じだと思いますが、俺は不器用なので」
「良く知ってます。今、リュウキにメールします」
言いながら、ヨウコは慣れた手つきで、手にした携帯端末を使ってメールを一本送信した。
すると、すぐに返信が届いた。
『写真ありがとう。レオン選手そこにいるの?』
ヨウコは、着信したメールの画面をレオンに差し出し、
「こんなこと言ってますよ」
「返信早いですね」
「たぶん暇を持て余してるから。いるよ…って返しときますね」
さらに、間髪入れず返信が届く。
『レオン選手の生写真も欲しい』
「あの…すいません。私が言わせてるんじゃないんです」
苦笑しながらも、ヨウコは少し嬉しそうにレオンに着信画面を見せる。
「俺の写真とか普通、欲しがりませんよ」
「うちの子、普通じゃないので。レオン選手のファンだってことが、まず普通じゃないですし」
「そうですね…どれだけ、俺のファンが少ないのかってことですよね」
「あは…失礼な親子でごめんなさい。じゃ、撮ります」
そう言うと、ヨウコは、レオンの隣に立って素早く1枚の写真を撮影すると光の速度でメールを返信した。
『あの、母さんの写真は、いらないんだけど…売るほどあるし』
ツーショット写真を受け取ったリュウキからのメールの返信は、そっけないものだった。
「って言ってるんで、撮りなおします」
ヨウコは、さらに1枚、レオンのワンショット写真を送信する。
『ありがとう…母さん、やっぱり大好き』
返信には、そう書かれていた。
「納得してくれたようです」
「リュウキくんが、喜んでくれたなら良かったです」
「では、私は、これで失礼します。無理なお願いしてしまって…でも、ありがとうございます」
「俺が参加してるGUNDASHミニ大会のアカウント教えておきます。リュウキくんに伝えてください」
そう言いながら、レオンが自分の携帯端末をヨウコの携帯端末に接触させる。
軽快な音が響いてヨウコの携帯端末の画面にレオンのプレイヤーアカウントが表示される。
ヨウコが素早く、そのアカウントをリュウキに転送すると、ほぼノータイムでレオンの携帯端末にフレンド申請の着信が届いた。
「返信早いですね」
「ゲームの事は早いんですよ。勉強もこれくらい熱心にしてくれればいいんですが」
レオンの携帯端末に二つ目のフレンド申請が届く。
「迷惑じゃなければ…ですが」
苦笑いしながら、レオンがフレンド申請の承認ボタンを押す。
「ありがとうございます。お暇な時、一緒にゲームしましょう」
「俺は今も暇ですよ」
「嬉しいお誘いですが、さっきも言った通り、私は、この後、取材が二つ入ってるので、そろそろ失礼します」
そう言い残して、ヨウコは立ち去ってしまった。
レオンは、ヨウコの立ち去った控室の出入り口をぼーっと見ていたが、自身で口にした通り、今回の取材のために公休を取っていたレオンは、特にすることもなく、なにとはなく、携帯端末に映しだされているニュースサイトを眺めてみた。その画面に表示された一つの記事のタイトルに興味を引かれた。
『フリーラス王国、VRーEスポーツ大会参加の選手団7名を発表へ』
(二年前は1名だった。今年は7名か…GUNDASH競技へのエントリーは団体戦にも参戦…噂は本当だったということか)
ふたたび、フリーラス王国ー王女宮ー
「ところで、ミナム様…GUNDASH競技…今年は団体戦にも参戦ですか?人選はこれから?」
「何を他人事のように言ってるの?チームリーダーはカラムなんだから、チームメイトを決めるのは、カラムに決まってるじゃないの」
「ええ、まぁ知ってて言いましたけどね」
「大会本番まで、あと2か月。時間はあるから国内選抜大会を開催してもいいですし、カラムがスカウトで引っ張ってきてもいい、とりあえず時間もないから、選抜の方法だけは今決めましょうか?」
「そうですね…」
「やっぱり難しい?」
「エノダ宰相も、なんか、こそこそ多くの人に会ってるみたいですし、あの性格ですから、いきなり、7人揃った~ばんざい喜べとか言いそうじゃないですか―それに、私に任されたとしても同じことですが、人選はGユニットのパイロットと、ニュータイプ研究所にいる養成士官…片っ端から当たってみるしかないと思いますよ。おそらく、公募では、まともな人材は出て来ないでしょう」
「できれば、国内選抜大会はやりたいけど…そのほうが国内的にも盛り上がるし、実力勝負ということもアピールできるし…ただ、フリーラスに公式のGUNDASHチームもプロリーグもないから、国内での団体戦開催は無理ですね」
「私に任してもらえるなら手っ取りばやくGユニットのパイロットから、6人選びますよ。
にわか仕込みになりますがGUNDASHのルール説明は私がなんとかします。その後で、お披露目大会を1か月後くらいに開催して、その後は、適当にオンラインで戦ってくれるチームを見つけて、模擬試合か練習試合をすることになるでしょうね」
「一応、来週、発表するってことにしてるので、なるべく早く」
「わかりました。Gユニットの隊長クラスに連絡します」
「ツミキは、決まりでいい?」
ミナムが、ぽつりとつぶやく。
「まぁ、本人がOKすれば…」
ここで、ミナムが挙げた名前…ツミキ・サンダースも、フリーラス王国のニュータイプ士官の一人である。
そのツミキ・サンダースは、フリーラス王国宇宙警備隊の隊長を務め、宇宙海賊や他国の宇宙軍と接触することの多いポジションに就いている。
「呼んでみますね。警備隊のメンバーで使えそうな隊員がいればツミキに誘わせればいいですから」
カラムは、ツミキ宛てにショートメールを送信する。
そして、すぐにツミキから返信が届く。
「『あんたが来なさい』と返信が来ました。ミナム様、行きますか?」
「そうですね。久しぶりにツミキに会いたいから私も行きます。ところでツミキは今、このコロニーの近くにいるのですか?」
「どこに行けばいいか聞いてみます」
カラムがツミキに返信メールを送ると、すぐに返信が届く。
「『犯人を追跡中だから座標送る』と言ってます。今、ツミキがいる座標は宇宙港の外…生物コロニー付近のようです」
「では、カラム、ツミキのいるところに連れて行ってください。私が説得します」
「宇宙港の外で領空侵犯を犯した犯人を追跡中らしいですが、任務の妨げになりはしませんか?」
「それなら、カラムも一緒に追跡隊に加わればいいわ」
「確かに、それが手っ取り早いですね。行きましょうか」
カラムは、携帯端末を手に取りドラゴンコールボタンをタップする。
1分もかからず、バルコニーに一匹のドラゴンが到着した。
カラムは、ドラゴンライドライセンスを持った竜騎士でもあり、常に相棒のドラゴンと行動をともにする。
「ミナム様、体重の管理は怠っていませんね。重量オーバーは規則違反ですから気をつけてくださいね」
「カラムの体重を超えないようにすればいいんでしょ。全然、簡単ですよ」
「二人乗りの場合は二人の質量合計が120kgを超えないことを法律で決めたのはミナム様ですからね。ちゃんと守ってください」
「わかってます」
「では行きます」
カラムが、ドラゴン…相棒の名前は『レッド・ウィング』という…の背に跨り、ミナムもカラムの背に身体を密着させる。
そして、二人を背に乗せたレッド・ウィングが、バルコニーから飛び立つ。
コロニーの中の移動手段は、電気自動車と移動する電動歩道が基本であるが、馬とドラゴンによる移動も許可されている。
コロニー内で飼育を許されたドラゴンの頭数は少なく、ドラゴンライド・ライセンスを持つ者は、ごくごく一部であり、許可されているとは言っても移動に使用しているのは、王室の一部の者と、竜騎士として任命された軍人の一部。そして、ドラゴンを育成させるドラゴン・ブリーダーだけである。
フリーラス王女宮はコロニーの中央に置かれているため、宇宙港までの距離は直線距離で約18km。レッドウィングの飛翔速度は、通常のトップスピードで毎時90kmであり、12分ほどで着くことができる。
「まだ、メンバー発表の日までは7日ほどあるから、そんなに急ぐ必要もないし正直言うと団体戦に出場すること…まだ少しだけ迷っているんです」
「団体戦出場はミナム様が、お決めになったことですから、とりやめとなっても私は反対はしませんよ」
「まだ、手の内は見せたくなかったんです」
「エノダ宰相に何か言われましたか?」
「二年前の大会では、フリーラス王国がGユニットを開発できる技術を持っていることをアピールする場にしたかったというのが、そもそもフリーラス評議会の方針だったことはカラムに説明したけど…」
「確かに聴きましたよ」
「ニュータイプを出場させるつもりはなかったということも説明したけど…」
「ニュータイプ以外の者にスカーレットナイトを操ることはできませんよ」
「そうなんだけど…」
「それでも、一般兵士を乗せて出場させたかった」
「結果的には、フリーラスが開発したGユニットは、ニュータイプ専用機…量産販売はできないという評価になってしまっている。高いだけで使い物にならないと言われてしまう。あのヤマタイ帝国のドールという、生産コストが極めて低く、かつ高性能の機体はないのかと言われてしまう」
「それが事実なのだから、どうしようもないですよ。F1マシンは走る場所とドライバーを選びますから…それと一緒です」
カラムは、レッドウィングの手綱を操りながら前をしっかり見つめ背中に密着した状態で話しかけるミナムの言葉に応える。
「そういえば、ツミキは生物コロニー付近にいるって言ってたけど」
フリーラス王国が建設をした生物コロニーでは、惑星や衛星とは異なる人工物であるコロニー特有の特質を生かし徹底的に計算された気象コントロールによって、絶滅危惧種の生物を管理・繁殖させている。
その生物の中には当然、希少な生物も多く含まれていて、コレクションの目的で海賊の標的になることもしばしばであり、フリーラス王国宇宙警備隊は発足当時、この生物コロニーを主に守護する部隊として編成された。
今では司法警察として生物コロニーに近い位置に置かれた基地に待機し犯罪発生を含む有事の際には、その事件、事故解決のため、その跳び抜けた機動力を生かした迅速な処理をこなす特殊部隊としてに任務に当たっている。
同時多発犯罪にも対処できるように、この組織に所属する警備隊員は常駐メンバーと非常駐メンバーで構成され、軍隊所属の軍人や公安警察所属の警察官も非常駐メンバーとして組み込まれた組織となっていて、この組織の規模はフリーラス王国の公の組織の中でも特に大きなものとなっている。
その宇宙警備隊の常駐部隊のエースと呼ばれているのが、フリーラス王国のニュータイプ第二世代の代表格である、ツミキ・サンダース隊長なのである。
「ツミキ隊長……スクランブルで飛び出してきましたが、あいつら、撃っちまってもいいんですかね?」
既にターゲットの射程距離に近づくことができた宇宙警備隊の隊員…ムツゴロー・クラモチがGユニットのコクピットから自身の上司であるツミキに伺いを立てる。
視認できる距離にあるターゲットは、民間の輸送船警備に使用される戦闘機タイプの宇宙船2機だった。
「とりあえず、威嚇射撃であいつらの反応を見てみるよ」
その言葉と同時に、ツミキの乗るGユニット…黄色を基調にカラーリング処理を施した『シャイン・マジシャン』から一条の電磁砲が発射された。
『そちらの機体は、フリーラス王国の領域を侵犯している。すなわち、武装を解除し、こちらの聴取に応じる義務が発生している。返事をし武装解除すれば良し。それ以外の行動を取る場合は撃墜することとなる』
『あああ??…撃墜する…そう言ったのか?』
『そうだ…』
『とりあえず返事はした。しかし、武装解除はできない』
『なるほど…理由を聞いてもいいか?』
『俺は海賊に襲われて逃げてきた民間の警備会社の社員でしかない。俺を追いかけて、付け狙っている連中がいる以上、自分の武装を解除するわけにはいかない』
『海賊に襲われた理由は?』
『そんなことは、あいつらに聞いてくれ』
『なぜ、この領域に侵入した?』
『追いかけられて、無我夢中で逃げてきた。迷い込んだだけだ』
『わかった…では武装解除は取り下げよう。民間警備会社と言ったな?どこの国の所属であるか回答しろ』
『ニッポンだ』
『ニッポン?地球圏の国ではないか?なんのために火星共栄圏に来た?ここは輸送船の航路からは遠く離れている』
『輸送船が追われて、この領域に追い込まれたのだ』
「隊長、あいつらの機体照合ができました。ニッポンの可変タイプの軍用機です」
「可変タイプ?」
「最新型ですよ、隊長。あいつら偵察が任務なんじゃないんですか?」
『軍用機が輸送船を護衛するのか?輸送船の積荷はなんだったのだ?』
「隊長、今、この領域付近を航行する予定の輸送船のサーチと、主だった海賊船の位置情報のサーチを第3支部に頼みました」
『火星圏コロニーに届ける日用品と生鮮食品と聞いてはいるが、積み荷の検証は、俺たちの担当じゃないからな。何が積まれていたのかは、配送伝票を確認してくれ』
『武装はそのままでいい。しかし、規則なのでな…警備隊本部へ連行する。おとなしく付いてこい』
『あんたに付いてゆけばいいのか?』
『おまえたちの機体は、俺がロックオンしてる。少しでも妙な動きをすればズドンと行くぜ。それでいいっすよね。隊長』
『…ということだ』
(カラムから?)
ツミキが、カラムからのショートメッセージを受け取ったのは、そのタイミングだった。
(今、領空侵犯の犯人を追跡中だから、そっちから来い)
カラムへの返信をさっさと済ませると、ツミキは後ろに着いたニッポン国籍を自称する2機の可変戦闘機をモニターで確認する。
「隊長、巡行速度を指定したほうがよかぁないですか」
『巡行速度を、秒速100kmで固定しなさい』
『心配しなくても、抵抗するつもりはありませんよ』
『素直に付いて来さえすれば取り調べはさっさと済ませてあげますよ』
「隊長、今、データが届きました。別動隊が、海賊に襲われた商船を保護し海賊の機体4機を撃墜。3機を確保」
「嘘ではなかったということか…」
「まぁ、吐かせてみないとわかりませんけどね」
「今のところ巡行速度は守っているようだ。このまま、本部へ戻る……いや…おい…何をしている…」
2機の可変タイプの戦闘機が飛行機形態からロボット形態へ変形したのだ。
「隊長さん…あんたが、罪悪の鬼と呼ばれるニュータイプってことで間違いないっすね」
「私を知ってるのか?」
ツミキは、さほど慌てることなく、冷静に言葉を返す。
「宇宙パイロットであんたの悪名を知らねえ奴はいねぇっすよ」
「それは光栄だ…で、何がしたい?」
「リアルバトルをしたい…」
「ははは…いい答えだ。まぁ、誰の挑戦でも受けると公言してるからな。お前さん達のようなバカの扱いには慣れている」
「そっちも二機、こっちも二機。ツー・オン・ツーでやらせてもらえるか?」
「何でも良い…さっさとかかってこい。今さっき、連絡があって、これから野暮用に出かけなくちゃならないんだ。こんな草バトルなど、さっさと済ませなきゃならん」
「んじゃ、お言葉に甘えますぜ」
ニッポン籍の可変タイプGユニットの一機からビームが発射された。
そのビームはツミキの機体…シャイン・マジシャンの電磁バリアが吸収してしまう。
「私の機体にビームは無意味だ。予習してこなかったのか?」
「今のは、ほんの小手調べだ」
敵の機体が再度変形して戦闘機形態になる。と同時にシャイン・マジシャンの機体に向かって突進してきた。
シャイン・マジシャンに超接近したところで、ロボットアームを二本突き出し、その二本に握られたビームソードですれ違いざま斬りつけてきた。
が、シャイン・マジシャンは、敵が繰り出したビームソードのエネルギーを一瞬で奪い取り無効化してしまった。
「だから、ビームは無意味だ…物理攻撃の武器は持って来ていないのか?」
「噂通りの化け物だな」
「化け物じゃなく、鬼だ。言い間違えるな」
「く…」
「他に攻撃オプションはないのか?ビーム砲とビームソードしかないとは…ニッポンのGユニットの開発技術はその程度ということか?
そんなことでは、ヤマタイ帝国に支配されるのも時間の問題だろうな…」
そのツミキの言葉の途中…数発のミサイルがシャイン・マジシャンの間近に接近してきていた。
「俺たちゃあ、コンビで戦ってるんだぜ…」
しかし、接近してきたミサイルは、シャイン・マジシャンの電磁バリアに触れた瞬間に小規模の爆発を起こしてしまい、シャイン・マジシャンの機体に損害を与えるには至らなかった。
「ははは、そうやって、全ての攻撃オプションをさらけ出して見せろ。お前らの策が尽きるまで、こちらから手出しはしないでいてやろう。ムツゴロー、お前も手は出すなよ。少し離れてモニタリングしていろ」
「おっけーっす。でも、そろそろ、カラム隊長が来るんじゃないんですか?さっき、隊長が、こっち来いって呼んじゃったんですよ」
「カラムが来たら、手を出すなと言えば済む話だ…心配は無用だ」