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太陽が滅赤色になる時(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
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4.赤い猫

 ミユはタイムスリップして、慣れ親しんだ街が様変わりした光景を目の当たりにした。でも、そこには誰もいない。それなのに、車は走り、電車も走り、店はシャッターを開けて客を待っている。


 彼女はいくら未来の出来事とはいえ、これを現実として受け入れることが出来ず、人の姿を求めて当てもなく(さま)()う。


 全員が透明人間になってしまったのか。それでも、相手は空気ではないので、ぶつかるはずだ。そんな空想が、歩道を歩く彼女の頭の中を忙しく駆け巡る。


 さらに気付いたことがある。人はおろか、犬も猫も見かけない。街灯に引き寄せられる虫が一匹も見当たらないから、昆虫も消えたのか。


 視界に入る光景を例えるなら、全ての生き物が死に絶えたこの世界で、交通機関は動き続け、店舗は営業を継続している。


 おそらく、自動制御装置が、闇雲にそれらを動かしているのだろう。


 これを何と呼ぼう?


 ――都市機能が持続し続けている死の街。


 その言葉が頭に浮かんだミユは、(あふ)れる涙で視界が(にじ)んでいった。


 と、その時、また遠くからヘリコプターが飛来する音が聞こえてきた。あれも無人なら、まさか人間を探しているのだろうか。そう思うと嫌な予感がしてきたミユは、無人の店舗へ駆け込み、超低空飛行による爆音と振動で人々を恐怖に(おとしい)れるヘリコプターをやり過ごした。



 彼女は足が棒になるほど歩いたが目的を果たせず、たまたま見えてきた公園に入ってベンチへ向かい、体を投げ出すように座った。ここは何度も来たことがある場所だったが、周囲の木々も子ども向けの遊具もすっかり変わっている。だが、もうそんなことに驚くのも飽きた。


 時計がなく、腹時計も怪しいので時刻は不明だが、もう0時を回った頃のはず。虫がいない防犯灯に目をやり、照らされた花々や芝生に目を移す。


『植物は生きているんだ……』


 完全に機械だけの世界になっていない証拠を目にして、彼女の冷え切った心が和らいだ。


 夜空を見上げると、星も月も隠れた曇り空。今の気持ちにぴったりだ。ここで雨でも降ってくれれば、全身を包む虚無感を洗い流してくれるだろうか。


 そんなミユの願いが通じたのか、ぽつりぽつりと雨が降り出した。


 目に雨粒が落ちるので、目をしばたたかせ、前を見る。


 と、その時――、


「あなた、雨に()れるわよ」


 足下で、女性の明るい声が聞こえてきた。


 ミユは、ついに幻聴がやってきたかと、鼻で笑う。


「聞こえてる?」


 いよいよ頭がおかしくなってきたんだと、フッと笑うと、


「ねえ? 聞いている?」


 さらに畳みかける声の主を確認するため、彼女はゆっくり足下へ視線を送った。


 すると、濃い赤色の毛並みの猫が見上げていた。ボンベイ種のような体つきだが、黒猫ではない。


「キャアアアアアッ!!」


 真っ赤な猫の出現に気が動転したミユは、手足をばたつかせ、ベンチの裏側に回って隠れ、顔だけ出す。


「やーねぇ。化け物じゃないわよ」

「ね、猫がしゃべった!」


「私よ、私」

「って誰!?」


 しゃべる猫はベンチの上に跳び上がった。


「来ないで!」

「そういうわけにはいかないのよ。だって――」


 猫は、長い尻尾をピンと立てて、ユラリと振った。


「私はあたなに報告しないといけないから」

「……何を?」

「未来で起きていることを」


 まだ理解できないミユは、揺れる尻尾が催眠術をかけているように見えたのでそこから視線を切り、自分の姿をジッと見つめる赤猫と目を合わせた。


「もしかして、猫型ロボット?」

「そうよ」

「誰が作ったの?」

「あなたよ」


 ミユは、自分の鼻の頭を指差した。


「私が……作ったの?」

「そうよ。あなたが私を」

「未来で?」

「そう」

「何のために?」

「未来で何が起きているのかを観察・記録し、過去から来たあなたへそれを伝えるために」

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