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太陽が滅赤色になる時(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
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3.人通りが消えた繁華街

 電柱の街灯以外に光が消えた住宅街を走ると、コンビニの明かりが見えてきた。店内から(あふ)()る光に誘われてミユが建物へ近づくと、突然、彼女の足が止まった。


(うそ)! 店の名前が変わっている!』


 店の名前どころか、看板の色まで違っている。こうなると、マリアが働いているかどうかがますます怪しくなってきた。


 今立ち止まっている位置から店内を(のぞ)いてみたが、人の姿がない。もっと近づいてレジ付近を見たが、店員の姿がない。思い切って店に入ってみることにする。


 初めて聞くピロロンピロロンというチャイム音に迎えられて店内に入り、レジの奥の扉に向かって「すみませーん!」と声をかけるも、自分の声が跳ね返ってくるだけで何も物音がしない。「マリアー!」と呼んでみたが、応答はない。


 さあ、困った。


 ミユは店内でどうしようかとうろうろしていると、ふと、姉が服のあちこちに小銭を入れたままにしている悪い癖を思い出した。


『お姉ちゃん、ごめん!』


 ミユは、一目散に家へ戻った。



 ところが、姉の部屋のクローゼットは空っぽだった。まさかと思って、両親のクローゼットも調べたがこちらも空。三人ともどうしたのだろうか。


『交番へ行って事情を説明すれば、お金を貸してくれるかしら?』


 家の鍵もどこかへ消えてしまっていたので、心配ではあったが、この緊急事態ではやむを得ず、戸締まりもせずに遠出をする。不用心なのが不安で仕方なくて何度か振り返ったが、そこは割り切り、繁華街にある交番まで駆け足で向かう。


 走ったり、立ち止まって膝に手を当てて呼吸を整えたり。それらを交互に繰り返していて気づいたことがある。


 途中で誰にも出会わないのだ。いつもなら、夜中でも何人かとすれ違うのに、である。


 急に人が現れるのも怖いが、誰もいないという方がもっと怖い。ミユは背筋が薄ら寒くなり、自分で自分を抱えた。



 しばらく走ると、ようやく繁華街の明かりが見えてきた。車が行き交う音も聞こえる。


『やっと、人に会える!』


 目覚めてからというもの、誰一人として見かけていない。自分以外に人類はもう死に絶えているなんて、想像するだけでも恐怖である。だから、その恐怖から逃れるために、一刻も早く人に出会いたい。


 ミユは、つりそうな太ももを両手で(たた)き、体がガクガクになりながら大通りに飛び出した。


「嘘……」


 辺りを見渡す彼女の四肢から、一気に血の気が引いた。


 こんな繁華街にもかかわらず、車は走っているが、人は歩いていない。


 それだけではない。


 どの車にも、人が乗っていなかったのである。



 商店街の店は、シャッターを開けて電気を(こう)(こう)と付け、ショーウィンドウに(あふ)れんばかりの商品を並べている。しかし、客はおろか店員の姿はない。


 ミユは一軒一軒店を回って人を探すついでに、店の様子を(うかが)っていたのだが、不思議なことに気づいた。


 まず、店が様変わりしている。記憶に残っている店とはずいぶん違うのだ。一番驚いたのは、生鮮食料品を売っている店が全くない。


 確か、あそこに八百屋が、肉屋が、お(そう)(ざい)()があったはず。それらが全て、雑貨店やらコンビニ店やらコインランドリーになっている。


 建物もいくつか建て替えられている。


『この町の未来の光景なのかしら?』


 辺りを窺いながら歩くミユの耳に、ガタンゴトンと電車が走る音が聞こえてきた。


 ミユは音につられて足を速め、駅へと向かう。しかし、頭に浮かんできた想像が正しいなら、恐ろしいことを認めなければいけないので、それが怖くて線路際に立ち、ホームの様子を窺う。


 やはり、想像通り、客も駅員も姿は見えなかった。


 電車がやってきた。もちろん、運転手は見えず、発車して目の前を通り過ぎていく車両に人影はない。(ぼう)(ぜん)と見送る電車には、車掌の姿もない。


 これでわかった。


 ――この街から人が消えてしまったのだと。


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