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太陽が滅赤色になる時(改訂版)  作者: s_stein & sutasan
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1.タイムスリップ

 ミユは、就職活動真っ最中の大学三年生。ちょうどIT関連企業の人気が高かった時期だったので、皆の()()をしてIT関連の各社を精力的に回っていたが、(いま)だに内定をもらえないでいる。今も見慣れた文面の通知を受け取って、()(いき)を盛大に吐いて(うつむ)いたところだ。


 今日の通知が来た会社は、それまでの失敗を踏まえて全力で臨んだ面接が自己最高の出来で、アピールは完璧、面接官と大いに盛り上がるなど、手応え十分だった。今度こそ99.9%大丈夫と期待も大きく膨らんで、残りの会社の面接をやめようとさえ思ったほど。


 なのに、(ふた)を開けたら、いつもと同じ結果。


 これはもう天国から地獄へ突き落とされた気分である。高をくくっていた罰にしては、あまりに残酷すぎる。


 ミユは床に腰を下ろして膝を抱え、床の一点を見つめた。


 なぜなのだろう、とミユは自分の行動を振り返るが、原因が何も思い当たらない。まさか、就職活動に()いて非常識な行動や不適切な発言をしているにも関わらず、それに気づいていないのか。


 これが事実なら大いに問題であるが、ミユ自身はどうやって気づけばいいのかがわからないので、思考は空回りし、時間だけが過ぎていく。


 面接官が笑っていたのは、自分の話が面白いからではなく、(あき)れて(ちよう)(しよう)していたのだろうか。そんな仮説を堂々巡りの中へ放り込んだ途端、気分が一気に落ち込んで無気力がたちまち全身を包んでいく。


 よりにもよって、両親も姉も、神経がピリピリしている末っ子を邪魔しない名目で温泉旅行に出かけていて、明日帰ってくる予定。今こうして膝を抱えて尻で床を温め落ち込む自分を慰めてほしいのに、豪華な食事に驚き山海の珍味に舌鼓を打って、独り残した娘のことを(さかな)にグラスを傾けた後、尽きない話題でまだ談笑していることだろう。


 ミユは目だけ上げて、壁に掛かった丸時計を見る。もうすぐ23時。秒針は0を指したまま動いていない省エネモードに移行していて、時が止まったかのように思えてしまうが、長針がカクンと右回りに進むので、一歩一歩明日に近づいていることを実感させる。


 その明日も面接だが、連戦連敗の自分には希望の光が見えない。()()()姿()として見えるのは、またこうして膝を抱える自分。そんな姿がボウッと浮かんでくると、膝頭に押しつけて揺らす額が熱を帯びてくる。


『どうしよう……』


 顔を上げたミユは、壁に掛かったリクルートスーツ、床に置いたバッグ、脱ぎ捨てたタイツへ順繰りと目をやる。


「明日は、AI関連のベンチャー企業Z。初心者歓迎って言うけれど、本当に大丈夫かなぁ……」


 不安で(あふ)()てくる心の声が、静寂の支配する室内に響く。


「門前払いじゃないから、いいわよね……」


 自分で自分に同意を求める独り言を口にする。


 今の不安な気持ちを落ち着かせるにはこれしかない。彼女は『うん、大丈夫』と言葉をかみしめて(あご)を引く。



 締め切ったカーテンの向こうから時折車が通る音や足音が耳に届くが、それらがなくなると再び室内は静寂で満たされる。


 ジッとしていると、鼓膜が揺れてもいないのに頭の中では一定の周波数の音が聞こえていて心を大いにかき乱す。


 そんな不愉快な耳鳴りに耐えていると、人の気持ちを知らない胃袋が不満を訴えて、(うな)るような音を(はばか)ることなく響かせた。


 ミユは、今頃になって、夕食を食べていなかったことに気付かされた。


『ショックで食欲がないはずなのに……なんで?』


 なおも悲しげな声を上げる胃袋は、()()をこねる子供のよう。


 はぁと息を吐いたミユは、冷蔵庫に食材があることを思い出すも、調理する気力が全くない。レトルトカレーでもいいかと思ったが、ご飯を炊いておらず、今から米をとぐのも面倒くさい。


「コンビニでも行こうかしら」


 そう言って立ち上がった彼女は、突然、辺りが闇に包まれたのでギョッとする。その直後、全身が横揺れの地震でもあったかのように揺すられた。


「地震! 地震!」


 思わず声を上げてしまう。激しい揺れに足がもつれて体が大きく傾いたが、頭から床に倒れ込むのは怖いので近くのベッドに見当を付け、一か八か、体をそちらへ投げ出す。


 ドサッ!


 なんとかうまくベッドの上で体が弾んだ感じだが、どういうわけか急に血圧が低下し、続く横揺れの中でミユは意識を失った。


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