滅びゆく国を見ながら…
サガフロ王国歴341年 ワカツ地方が魔物の大暴動により地図から消えた。
通常であれば聖女が女神に祈りを捧げ、その恩恵による結界で国土を守って来ていたのだが、ちょうどこの年に限って聖女が不在だったのだ。
先代聖女が亡くなられて7年、この7年で国土を守っていた結界は消失し、魔物の被害は上昇していて、国家を挙げて新たな聖女を捜索していたのだが… 間に合わずに辺境の地が魔物に飲み込まれる事となった。
そんなサガフロ王国は、魔物の脅威という共通の問題があったために多国間との戦争は無かったうえ、結界に守られているために国軍の練度は低く、迫りくる魔物の群れに国土をどんどんと失っていった。
そんな状況だったので、新たな聖女の発見は優先度の一番高い勅命となり、女神様を崇める教会と共に、貴族の令嬢から市井の娘まで広範囲に及んで捜索を進めていた。
そんな過酷な日々が続く中、王都マジックキングダムから馬車で1週間ほど離れた場所にある都市ルミナスで、私は12歳の誕生日を迎えた。
「アニー、誕生日おめでとう! 今日から12歳ね、アニーは魔力量がとても多いし、教会で働く事も出来るかもしれないわ」
「いやダメだ、教会に勤めたらこの家から出ていかなくちゃいけなくなるだろ。アニーは嫁入りするまでこの家で暮らすんだ!」
両親が微笑みながら私に話しかけてくる。
父親であるルーファスは町の治安維持をする警ら隊で働き、当家の大黒柱として稼いでいる。母親のライザは近所の畑に手伝いに行き、当家の台所を支えている。
そして私はこの世に生を受け、アニーと名付けられて両親にとても愛されて今日まで育ってきた。
私には両親にすら話していない秘密がある。
私には前世の記憶があるのだ。前世の記憶というのは5歳の時に高熱で倒れた際に思い出した… というか、思い出したのが原因で高熱が出たという方が正しいかもしれない。
前世の記憶は… それはもうはっきりと思い出せる。
両親からの虐待、実の兄からレイプされて妊娠し、両親が堕胎のためにお金を出すのは不愉快だと言いながら私のお腹を殴る蹴る… 当然流産するわよね。
まぁあんな奴の子供を産むなんて冗談じゃないからそれは良いとして、それでも日々の暴力は無くなる事も無く、17歳の時に… とうとう耐えられなくなった私はビルの屋上から飛び降りた。
もちろん遺書は書いた、両親にされた事、兄の事。スマホで録画、録音したデータを添えてビルの屋上に置いてきたのだ。
今頃あいつらはどうなったのか… それを知れない事だけが残念でならなかった。
この世界で記憶を思い出し、とても不安に駆られたけれど、そんな不安を簡単に吹き飛ばすように今の両親は私を愛してくれた。笑顔で会話しながらの食卓がこれほど楽しいものだったなんて初めて知った。そして… こんな幸せをくれた両親のために役に立ちたいと心から願ったのだ。
そんな幸せを壊したのは、教会に居ると言われている神子様に届いた神託だった。
『我が愛し子が覚醒を始めた。彼女に誠意を見せて同意を得たら聖女に迎えるが良い』
この内容の神託はすぐさま国王に伝わり、国王から配下の者たちに伝えられた。そして聖女探しは本格化し、騎士団を含む国軍から教会に所属する聖騎士、果ては町や村などの警備兵にも伝えられての大捜索となった。
そしてその日は突然訪れた。
「この家だな? 魔力持ちの娘がいるというのは」
「はっ、町の者に聞けば、ほとんどの者が声を揃えて優秀な娘だと言っていました」
「よし、それではここの娘を確保する。うまくいけば今後働かなくても良いくらいの褒賞がもらえるぞ! では行くぞ!」
家の前に現れた捜索隊5名、下部組織の者なのか言葉使いは悪く、行動も粗暴であった。
「おい! ここに聖女候補がいる事は分かっている。直ちに差し出すが良い! これは王命なるぞ!」
「なんだあんたら、家が壊れるから乱暴な事は止めてくれよ」
「なんだと? 王命に逆らうつもりか?」
「家を乱暴に扱う王命なんて聞いた事が無いぞ? それに俺はこの町の警備隊所属のルーファスだ、町での狼藉は許さないぞ?」
「そんな事はいいからお前の娘を出せ、聖女候補として王都へと連れていく」
「アニーが聖女候補? そんな事は聞いた事が無いし、要請があれば俺が連れて行くから帰ってくれ」
「ああ? 見つけたのは俺達なんだぞ? 褒賞を独り占めする気だな? よし、こいつは王命に逆らった逆賊として殺せ! それからゆっくりと娘を探せば良い」
「「はっ!」」
「なに? お前達は何を考えて…」
後方からやってきた部下の一人がルーファスの死角から剣を振り、その首を斬り落とした。
「キャアアアァァァ!! あなた達はなんて事を!」
「うるさい女だ、どうでもいいから娘を差し出せ、俺達が王都へと連れていく」
「娘を? そんな事できる訳が!」
「もういい、お前達、この家を家探しして娘を捕らえて来い。一応聖女候補だからな… 丁重にな?」
「隊長は?」
「俺はこのうるさい女を黙らせておく重要な任務だ、俺が終わったら使っても良いぞ?」
「…! 急ぎ探します!」
「ちょっと勝手に入らないで!」
部下達4人が家の中に侵入し、家探しを始めた。隊長と呼ばれた男は… 母であるライザに厭らしい目を向けて、その衣服を剥ぎ取りだしたのだ。
「キャアアアア! 誰かっ、誰かアニーを助けて!」
「うるさい! お前の娘は俺達の出世のために役に立つんだ、光栄だろう? それにお前の旦那はもう死んでいる、旦那の代わりに俺がお前の体を使ってやるよ」
「止めて! 触らないで!」
ライザは押し倒されて組み敷かれた。しかし娘のことを案じて抵抗を続ける… 暴れるその手に粘土を焼いて作った小型の壺が触れ、それを手に持ち隊長の頭に思いきりぶつけた。
ガシャーン!
「ぐああ!? この野郎なんて事をしやがる!」
「アニー! アニー逃げて!」
ライザはすぐさま立ち上がり、家の奥に向かって叫んだ。
「この野郎… せっかくこの俺が使ってやろうって言ってるのに調子に乗りやがって、死ねっ!」
隊長が抜剣し、ライザの背中から斬りつける…
「アニー! アニー…」
「隊長見つけましたぜ! って、隊長この女斬っちゃったんですか? 後で使わせてくれるって言ってたのに」
「あんまりにも生意気だったんでな、つい斬っちまった。しかし娘が手に入ったんならその褒賞でいくらでも女が買えるから我慢しとけ」
そして… 私が居間に連れてこられた時にとうとう見てしまった、背中を斬られて血まみれで倒れている母と、首を斬り落とされた倒れている父の変わり果てた姿を…
「お母さん? お父さん? なんで? なんて事をしてんのよー!」
「おっとっと、ガキの癖に手が早いな」
その後、お腹に強い衝撃を感じたと思ったら目の前が暗くなった。
「よし、これで俺達は救国の英雄だぜ? 聖女を見つけ出したからには褒賞もたんまりもらえるぜ!」
「いやー俺、隊長について来て良かったですよ!」
「よーし、そんじゃ急いで王都に向かうぞ。ああ、一応その娘が暴れたりしないよう手足を縛っとけ」
「はっ!」
「うむ、それがあ凱旋だ!」
「うう、むぐ?」
目が覚めた時、私の手足は縛られて動けなくされていて、目まくしと猿ぐつわまでされていた。
「おっと目が覚めたようだな、さすがに3日も目が覚めないから死んだかと思ったぜ。さぁもう間もなく王都につく、急ぐために馬車ではなく馬で走り続けたんだ… まぁせいぜい国のために働いてくれや」
何を言っているのか分からなかった。
国を守るため? それをするのに両親がなぜ殺されなければいけなかったの?
血まみれで倒れていた両親の姿が目に焼き付いて離れない、母親の「逃げて」という言葉が最後に聞こえた声だったが、目を閉じると幻聴のように聞こえてくる。
こいつら絶対に許さない!
私を連れていく事が仕事だというなら、この場で死んでやればこいつらはどうなる? 仕事を失敗した罰を受ける? いいや、その程度では許せない。
それに手足を縛られて猿ぐつわまでされているんじゃ自殺のしようがない。
自殺? そんなものは一度経験してるからね… 多分やれると思う。
しかし、私のそんな思いも空しく、自殺の手段を考えている時間だけが過ぎていって、とうとう王都についてしまった。
目隠しされているので、どういう経緯で城まで来たのかは分からなかったが、目隠しを外された時、そこはお風呂場の脱衣所だった。
豪華な鎧と剣を差した女性騎士が3人と、侍女らしき女性が3人。そこで手足の拘束と衣服を取られて入浴し、なにやら神官服のようなものを着せられて謁見の間に入っていった。
謁見の間… 当然そこにいるのはこの国の王であり、重鎮の貴族達だった。
「其方が神託にあった聖女か… 大神官よ、どうだ?」
「はい、物凄い神力を感じます。聖女で間違いないでしょう」
「うむ、これでようやく我が国が救われるな。聖女よ、其方の名は何と言う?」
「……アニーと申します」
本当は返事もしたくなかったが、状況が掴めないので話を進めてもらわないと困る。一体何がどうして両親が殺されたのか… その理由を聞かなければ。
「聖女アニーよ、其方は本日より大教会に入り祈りを捧げるが良い。それにあたり、其方には褒美を取らそうと思う… 何を望む? 聖女よ」
「…… では、聞きたい事がありますので、それに答えていただければそれだけで良いです」
「ほぅ、さすがは聖女だ、謙虚な事よ。では… その聞きたい事とやらを語るが良い、答えてやろう」
「では… なぜ私の両親は殺されなくてはいけなかったのですか? 今、私がこの場にいるのは… 両親を殺され、拉致され、誘拐されてこの場にいるんです。なぜですか?」
謁見の間の空気が変わった気がした。
ざわっとしたかと思えば静まり返り、私を連れてきた捜索隊メンバーも俯いてしまっている。
「なんだと? そのような命令は出しておらん! よし分かった、其方の両親に手を出した捜索隊の者達を極刑に処すことを約束しよう。其方はこれから聖女として我が国の守り手として祈りを捧げてもらう、恨みつらみは即刻捨て去り、我が国のために働くように」
なんだって? いや全然質問の答えになってないじゃない。しかも国の為だけに働け? ありえないわ! そうだ、王様の前で不敬を働けばきっと誅殺されるでしょう。自殺よりもソレ狙いで行動しよう。
両親の元に行けると思えば何も怖くないわ!
「分かりました、では祈りましょう。私の両親を奪ったこの国が滅ぶよう、恨みを籠めて祈りましょう。私の両親が安らげるよう復讐するために… それが嫌なのでしたらこの場で殺してください、私は決して許す事はありません。
神様… この国が滅ぶよう神罰を、私の祈りを聞き届けてください」
「おい! 何を言っている、陛下の御前だぞ! この不敬者を捕らえよ!」
近衛兵というやつだったか、王様の傍にいる警備の騎士は確かそんな名前だったな。
取り押さえられている最中、そんなどうでも良い事を考えていた。
それに… 止めろと言われてもやめるわけがない、私の幸せを壊したこの国を絶対に許さないから!
「ふーむ、やはり聖女といえども平民だな。国を守る立場である我らの言葉を解さんとは… 一度神殿で修行をさせた方が良いかもしれぬな」
「そうでございます、陛下に向かって不敬を働くなど… 聖女でなければこの場で切り捨てられていたもの、多少の躾は必要かと存じます」
なんだその偉そうな口は、どの面下げてそんな事が言えるんだ? 貴族って奴は。
取り押さえられながらも祈りを続ける… 多分私が聖女というのは合っていると思うから、最近時々夢の中で何か聞こえていたような気がするから。
神様… 本当にいるんなら私の祈りを聞いて!
「まぁいい、今日からこの国を守るという大義を任されることに感謝し、我が国に敬意を以って祈りを捧げるのだ。それで今回の不敬は許してやる」
ぐっ、このおっさん… 本当に偉そうで腹が立つ。
今すぐ走り寄ってぶん殴ってやりたいけど、私を押さえている騎士の力が強くて身動き一つとれない… 悔しい…
バタン!
突然謁見の間の扉が開かれた、あいにくと押さえられているので誰が入って来たのかは分からないけど、息を切らしているその雰囲気で女性だという事だけ分かった。
「何事だ!? ここは謁見の間であるぞ、勝手に入ってくるなどどういう了見だ!」
「大神殿で神子をしているエミリアです、緊急故どうぞ御無礼をお許しを。今しがた神託を授かりましたのでご報告をと…」
「ほほぅ、そうかそうか。神託にあった聖女は見つける事が出来た、これも神の思し召し… という事だろう?」
「いいえ、愛し子にたいする無礼の数々… その行いにお怒りのようです。…… あ、その方が聖女様ですね? 聖女様に対して何という事をやっているのですか!」
「い、いやこれは… この聖女が陛下に不敬を働いたので」
私を見つけたらしい神子と名乗った女性が憤慨を始めた。そして私を押さえていた騎士の力が緩むのを感じた。
ここだ、一気に振り払って王様を殴りに行こう! もしも手が届かなかったとしても、多分私は斬られるだろう。
あんた達の言う大事な大事な聖女様が失われる所をその眼で見ると良い。
あんた達が言う大事な大事な聖女様をその手にかけて殺すと良い。
「いつまで聖女様を掴んでいるのです、早くその手を放しなさい!」
神子さんが声を荒げている、なかなか強気な人なんだね… 今この場では非常に好ましく感じるよ。
「陛下、信託の内容はお伝えしましたよね? 愛し子様の同意を得てからお連れしなさいと。どうしてこのような事になっているのですか? 愛し子様、この王都まではどのように来られましたか?」
「え? 突然家にやって来てお父さんとお母さんを殺されて、私も殴られて気絶させられて… 気が付いたら両手両足を縛られてこの城に連れてこられましたけど、それが何か?」
「なんという…」
なぜかざわつく謁見の間。王様も何かばつの悪いような顔をしているし、神子様とやらは顔色を変えてワナワナしている。
ん? 今がチャンス? 王様を… 力一杯ぶん殴ってやる!
今こそ! と、走り出そうとした瞬間、誰かに後ろから抱き着かれた… 誰だ! 邪魔をするな!
振り返ってみると、先ほどまでワナついていた神子様だった。なんか泣いてる? その涙は何?
「今、新たな神託を受け取りました。愛し子様の祈りを受け取り、この国を滅ぼすという事です。神罰が下ります! 全ては国王陛下の責任で… 陛下は今後、女神様を裏切り、愛し子様を暴行した愚王として後世に語り継がれる事でしょう。愛し子様は私の方で保護いたします」
「なっ!」
神子様が宣言した後、ガラスが割れるような、ガシャーンという音が響き渡った。
そして窓際にいた貴族が大声で叫び出す…
「ド… ドラゴンが攻めてきたぞ!」
「なんだって!?」
貴族たちが声を上げたと思ったら、突然謁見の間の壁が吹き飛んで行った。壁際にいた貴族達を巻き込んで。
吹き飛んだ壁の隙間からドラゴンが顔を覗かせる… 顔だけで一軒家よりも大きい超迫力、思わず腰が抜けたかのように座り込んでしまう… その迫力、恐ろしさ。こんな生物、人間が敵う訳が無い。
一瞬静けさがあったと思ったら、突如ドラゴンが動き出した。
大口を開けて謁見の間にいた王侯貴族達に噛みついたのだ。それも大きな口で一息に… 私と神子様をなぜか避けるように。
謁見の間にいた貴族達をほとんど食べてから、ドラゴンは私と神子様を掴んで外へと出され、そのままドラゴンは飛び上がると、口から吐き出した炎?衝撃波?みたいな物でお城を破壊しました。
もう粉微塵って奴だね…
空の上から見る王都はまさに阿鼻叫喚、王都民が悲鳴を上げながら逃げ惑い、ドラゴンが連れてきたと思われる小型の翼竜が、王城にトドメとばかりに火を吹いていた。
その後、ドラゴンの手によって教会の前に降ろされ、翼竜を率いて王都を飛び去っていきました。
「なんて愚かな… 代々女神様が選定した聖女様に守って頂いていた身でありながら、このような愚行を犯すとは…」
神子様はお城があった場所に向かって手を組み、祈りを捧げているようだった。あんな奴らに捧げる祈りなんて、私には持ち合わせていないけどね。
「愛し子様、お辛いでしょうがご両親の分まで生きていって欲しいと私は願います。貴女様のそのような顔… ご両親には見せてはいけないと思いますよ?」
顔? 私の顔がなんだっていうのよ… あれ?
「私… 泣いてる?」
「お辛かったでしょう、幼いその身で仇を討とうとしたのでしょう。私にはその大きな傷を癒す術は持ち合わせていませんが、貴女様が健やかに暮らしていけるようお手伝いをする事は出来ます。どうか教会に身を寄せませんか?」
「教会に身を寄せる? それって王様が言うのと同じですよね。そんな事よりも私にはやりたい事があるんです、なので故郷へ帰らせてもらいます」
「やりたい事… というのは何でしょうか? 私も神に仕える身、愛し子様のお力になりたいと考えています」
「もちろん両親を弔うんですよ。斬られたまま放置されていないとは思いますが、気になって仕方がないんです」
「なるほど、では大至急馬車の手配を致します。愛し子様はお疲れのご様子、用意が出来るまで何か食べられたほうがよろしいかと」
「あ、そういえば家から連れ出されてから何も食べてない…」
その後、私は神子様の用意した馬車に乗ってルミナスへと帰る事が出来た。
道中は神子様が用意したと思われる神殿騎士という人たちに護衛されて故郷へと向かったのだ。
町に戻った私は、まず家に帰り状態の確認。
どうやら今回の事件は、荒くれ者による強盗殺人として処理されていたらしく、私の生まれ育った家は持ち主不在という事で所有権を失っていた。
両親の亡骸は町の警備隊が処理し、町外れにある共同墓地に埋葬したとの事。
「お父さんお母さん、私どうしたらいいかな。2人にはいっぱい幸せにしてもらったのに何も返せなくてごめんね? 2人を追って死のうと思っていたけれど、やっぱり生きる事にするよ。そして私が老いて死ぬまでこのお墓は私が守っていくね」
共同墓地の隅っこに新設された両親のお墓。
少し盛り上がった土の上に木の棒が刺さっていて、その木に2人の名前が書かれているだけの簡素なお墓。でも… 私はこの簡素なお墓を守りたいって思った。これからもずっと…
そして、私は冒険者登録をして、ルミナスの町を拠点に活動する事にした。
神子様からは何度も説得されたけど、それらを断って結局王都に行くことは無かった。私にとって王都とは行きたい場所ではないので、出来るなら近寄りたくなかったっていうのが一番の理由。
それでも神子様は、せめて護衛だけはと言い続け、最終的には私が折れた感じで神子様推薦の若い神殿騎士の女性とパーティを組む事になり活動をしている。
活動と言ってもそれほど危険な事をしている訳じゃなく、近くの森から薬草や食べれる物を採集したり、たまにダンジョンに入ったりしてお金を稼いでいる。
私にあった聖女の資質は、防御や支援に適している事から、時々他のパーティからの要請で手伝いをしたりとそれなりに楽しくやっている。
それから5年、王都マジックキングダムから離れる人が続出し、教会も王都支部を閉めてルミナス教会に本部を置き、神官や神殿騎士の全ての人員がルミナスを拠点に置いた。
教会が完全に王都から撤退したという事で人の流出は加速し、今ではルミナスが以前の王都以上の賑わいを見せている。
王城の破壊から難を逃れていた王家の生き残りや貴族達。最初は崩壊した城から金貨や宝具などを回収しようと瓦礫の撤去に手を付けていたが、王城の崩壊に至った原因が知れ渡ると手伝いとして雇われていた平民などが離れていき、とうとう作業の続行が不可能なほど人手が無くなり断念した。
そして… 神子様の令により、生き残っていた王家の血筋は断罪されて処刑となった。
この時点でサガフロ王国は名実ともに崩壊とされたのだった。
ま、そんな事私には関係ないけどね。
私は両親の墓があるこの町から離れることは無いし、もう死に急ぐ事もしない。
魔物から国を守っていたという結界も、なぜか私が祈らなくても復活したらしくて安全な地域が増えたという話…
ま、私には関係ないけどね。