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冒険者

目を覚ますとそこは元の独房だった。鎖には繋がれていない。鉄格子の外からライラが覗いていた。


ライラ「目覚めたんスね?良かったッス!ギンシニスさん!流石ッス!!」


ギンシニス「……」



ライラから話をきくと俺は3日ほど意識を失って虫の息だったらしい。ギンシニスは能力で回復薬の代わりを作ってくれたらしい。とは言えそこまで上等な薬を作ることは出来ずある程度の傷痕は残るらしい。実際、俺の左腕には上に10個、下に9個の刺し傷の痕があった。にしても綺麗に開けてくれたな。


ライラ「強かったッスね。チベット看守。流石にあれは相手が悪かったッス。」


ギンシニス「まさか、私達の話も全て聞かれているとは思わなかった。」


モンジィー「たがよ、あいつどっから聞いてやがったんだ。」


ライラ「調べたところによるとチベットの能力は射程範囲を無限に広げられるらしいッス。単純な殴る動作であってもその圧力は弱まる事なくどこまでも飛んでいくらしいッス。この世界の何処に逃げても正確な位置がバレていればあの人の攻撃を避けるのは困難ッス。」


ギンシニス「あの時私が糸を張ったのは階段からの出入り口のみだった。恐らく奴はサーベルを伸ばしこの階の天井にまで穴を開けてそこから聞いていたらしい。」


モンジィー「そんなバカな話があるか。少なくともクラスBの階までの床の厚さは50㎝はあったぞ。いくら穴を開けたって聞こえるはずねぇ。」


ギンシニス「そうじゃない。サーベルの切っ先を天井から出して私達の発する声の微弱な空気の振動を刀身で察知し話している事を理解したんだろう。」


モンジィー「そんな事できんのか……?」


ギンシニス「奴の経歴や能力を考慮してもそれ以外に考えられん。それに私の独房の天井にも丁度サーベルで開けたような穴があった。」


しばらく俺も2人も沈黙した。無限の射程をもつ上に聴覚に置いても超人レベル。いや、聴覚だけじゃねぇ。嗅覚、視覚、味覚、触覚のどれに置いても超人レベルだと考えてもいい。そんなのどう相手にすれば。


ギンシニス「とにかく奴に勝つ事は諦めろ。特にモンジィー。お前はな。私は基本、大抵の攻撃は能力で防御することはできるしライラもそこまで目立つ様なことはしない。ただお前は能力の相性も最悪な上にあの一件で更に目をつけられる。」


モンジィー「んなこたぁ分かってる。俺だって無駄に奴とやり合ったりしねぇよ。ただ、本当にやらなきゃならねぇ時は結果が分かってたってやらせてもらうぜ。」


チベット「ほぉ、手も足も出ずに完敗した奴が、格好つけて。それでもなお性懲りもなく向かってくるとはどこまでも愚かだな。」


いつの間にか鉄格子の端に寄りかかってやがった。


チベット「っと、私はこんな話しをしにきたのではない。今日用が有るのは013番、貴様だ。」


ライラ「え!?自分……ッスか?」


チベット「これは今朝、他の囚人にも話したが、貴様はこいつらとつるんでいたんでて伝え忘れていた。これからギルドの冒険者殿が旅の同行者を求めて立ち寄られる。獄中での自由行動が許されているクラスBまでを冒険者殿に見てもらうが貴様も低い確率で目をつけられるやも知れん。我が地下牢獄の名を汚さないためにも礼儀正しく接するように。」


ライラ「は、はい!……ッス。」


チベット「あっと、それと001番。貴様の能力は私が身を持って分析した。その結果、鎖が無くとも脱獄の危険性は低いとみなされた。あくまで今は一時的なものだがな。では、013番。あまりここに長いはしないように。」


それだけ言って帰っていった。


ギンシニス「地下牢獄に仲間を求めてくるとは。余程の人数不足なのか。はたまた単なる物好きか。」


モンジィー「んなこと知るか。冒険者なんてどいつもこいつも名前だけの甘ちゃんだろ。」


ギンシニス「私も冒険者とか言う響きは好きではないな。」


ライラ「あんまり目立たないようにしよ。」



しばらく経ってライラはクラスBの階に上がって行った。チベットに長居するなと言われたからだ。


モンジィー「今何時だ。」


ギンシニス「12:15だ。そろそろ昼の筈だが……」


いつもは看守が昼飯を持ってくるが今は誰かが来る気配はない。


モンジィー「おい!!飯はまだか!!」


上に向かって叫ぶと1人の看守が階段から首を出し

「うるさい!!今、冒険者殿が来られているんだぞ!!貴様等に構ってる時間はない!!」と怒鳴られた。


モンジィー「畜生が、ふざけやがって。何が冒険者殿だ。」


ギンシニス「一食程度でそんなにムキになるなよ。そもそもここにいる囚人に大した玉はいない。すぐに諦めてかえるさ。」


モンジィー「せっかく邪魔くさい鎖が取れたのに初日からこれかよ。」


ギンシニス「正確には3日だ。」


だんだんと上が騒がしくなってきた。


ギンシニス「来たみたいだな。」


モンジィー「とっとと帰れ、スカタン野郎が。」


ギンシニス「おいおい……いつにも増して小物感が出てるぞ。大体なんでそんな冒険者を嫌うんだ。」


モンジィー「ちょっとフラフラ歩いてるだけなの奴らが行くと来るとこもてはやされんだぞ?ム?むず痒くてしょうがねぇよ。」


ギンシニス「要は嫉妬だな。」


モンジィー「違う!!俺が奴らを嫌うのにはもう一つ理由がある!!」



1年前

俺は何日も飯を食ってなかったんで重い体を引きずって森に出かけんたんだ。すると丁度そこにスライムが飛び跳ねてらじゃねぇか。スライムを食べる文化はねぇが踊り食いすると結構美味いんだ。俺が1匹、とって食おうとしたその時、森の奥からスライムが一気に押し寄せてた。

それを追いかけるように出てきたのが冒険者だったんだ。


冒険者「ヒャッホー!!これで30体目ぇ!!」


奴が叫びながらぶった斬ったのは俺が食おうとしてたスライムだった。


モンジィー「バカ野郎ぉおおい!!!スライムがドロドロになって食えなくなっちまったじゃあねぇか!!!」


冒険者「あ?こんなところにいると危ないぞ?早く街に帰った方がいい。案内してやるよ。」


モンジィー「ダマラッシャーーーー!!!」

と俺は殴ってやった。


冒険者「グメンシャーーーーー!!!」

と奴は飛んで行った

モンジィー「って話だ。」


ギンシニス「はぁ……聞いて損した。」


すると上から2人の声が聞こえてきた。チベットともう1人は聞いたことねぇ声だった。

俺とギンシニスは色々言いながらも今日来る冒険者には少し興味があったんで鉄格子に顔を押さえつけて聞き耳を立てた。


チベット「スラグ殿、いかがでしょう、我が牢獄は。しつけ不足な囚人共がご無礼を致したりは……」


スラグ「え?あぁ、大丈夫だったよ。それより、気になったのがさぁ、この階段何?」


チベット「こちらはクラスAへと続く階段でございます。より危険度の高い囚人が収容されております。今はまだ2人ですが我が国のため1人でも多くの凶悪犯罪者を捕らえる次第でございます。」


スラグ「ふぅん、見てってもいいかな?」


チベット「はあ、ご覧になるのはよろしいですが例え冒険に連れて行くおつもりでもクラスAの囚人は外へ出すわけにはいきませんのでご理解とご協力をお願いいたします。」


スラグ「うん。」


足音が近づいてきた。


スラグ「へぇ、ここがクラスAか。なんか暗くないか?」


スラグは足だけ鎧を纏い、膝下までのロングコートに伸びた黒髪で背中に剣を背負っている。身長は170㎝ほどの特に筋肉が付いているわけでもなく普通の体格だ。本当に強いのか?


チベット「こいつが囚人番号001番モンザイザイ、こっちが014番ギンシニス・ミラです。」


そう言いながら俺達の資料を渡していた。勝手に個人情報渡すなよ!!プライバシーの侵害だろうが!!とギンシニスが言いたげにしていた。


スラグ「殴ったものを固める能力に名前と能力を与える能力か。なかなか厄介だな。」


モンジィー「なかなかだと?じゃあお前、俺とギンシニスの能力破れんのかよ。ヒョロっちい身体しやがってよぉ。」


チベット「バカ!!どうして貴様は少しの間も大人しくできんのだ!!スラグ殿、お許しを!!」


スラグ「アハハ……いいさ、実際身体がヒョロいのは本当なんだし。ただあんまり冒険者ギルド舐めてると………死ぬぞ?」


いきなり目から光が無くなった。


チベット「も、申し訳ありません!!スラグ様!!私の管理が不十分なばかりにぃ……!!」


スラグ「いいんだ、チベット看守。ただ、1つお願いがあるんだけど。」


チベット「は!」


スラグ「こいつと戦わせてくれない?」


チベット「は?」


スラグ「やらせろ……!」


チベット「は、はい…」


俺はまた牢獄から出された。


チベット「おい、貴様が悪いんだぞ?せっかく傷も治ったと言うのに。」


チベットが囁いてきた。


モンジィー「看守は黙ってな。俺だって気分悪りぃんだ。あいつよりな。」


チベット「はぁ……バカモンが…」


ギンシニスは顔を手で覆っている。俺が負ける未来が見えたんだろう。


スラグ「お前、素手でやるつもりか。」


モンジィー「これで十分だ。」


スラグ「チベット看守、彼に武器でも貸してやったらどうだ。」


チベット「え!?なら……私のサーベルでも……」


モンジィー「おい!看守!サーベルよこすくらいなら、あれを返してくれよ。」


チベット「え!?」


スラグ「ふん、あるんだな?武器が。」


チベット「今日は厄日だ……!」


そう言いながら指を鳴らすと他の看守が巾着袋を持ってきた。


モンジィー「そうそう、これこれ。」


俺は中に入っていたコイル状の金属を両腕にはめた。


スラグ「あれは?」


チベット「はい、あれは奴を投獄する際押収した腕当てです。なんでも古代から伝わる拳法の武器をアレンジしたものだとか。」


スラグ「ふぅ〜ん」


これは武器と言うよりは能力の補助として使う。まずこのコイルの形は作用と反作用を用いる。殴るために腕を突き出すとコイルは伸び、殴った瞬間にコイルが縮むようできている。殴った時にコイルが縮む反動で俺の拳の威力が後押しされ衝撃が深まる。そしてこのコイルの重量は50kg。殴ったときの衝撃はレンガの壁をぶち抜くほどだ。殴った衝撃の範囲=能力が適用される範囲だからより深く、より広く固めることができる。


モンジィー「よっしゃぁ!!かかってこいや!!ちび助!!」


スラグは剣を抜き構えた。


チベット「もうどうにでもなれ。」


俺は思い切り手を後ろに引き殴りかかった。ガチンと金属のぶつかり合う音と共に拳を前に突き出した。が、そこに奴はいなかった。懐に回り込まれていた。そこに膝を上げ奴の顎に命中。が、奴は怯まずに俺の膝に剣を刺した。片足が崩れ倒れかけたところに追い討ちをかけようとしてきたがもう片方の足を奴の首に引っ掛け一緒に倒れ込んだ。首に引っ掛けた足に一層力を込めて逃げられないようにする。そこから顔面目掛けて拳を振り下ろす。奴は剣で防御をしようとする。が、俺の拳は剣なんかじゃ止められるわけ………???止まった。ただ止まっただけじゃない。

熱い。

俺の拳が燃え出した。


俺はたまらずのけぞり火を消そうと地面に腕を擦り付ける。何が起きたのか分からなかったがそんなこと考えている時間はなかった。目の前に閃光が走った。

今度は雷だ。

床が丸ごとくり抜かれ焼けている。ここは地下なのに雷が降ってくる。

更には水 岩石と何が起きているのかわからない。


スラグ「これが俺の能力の1つ。全属性魔法を操れる。」


1つ!?全属性!?魔法!?流石に元素のエネルギーは固めることはできない。となれば。俺は自分の体の関節以外を殴った。こうすれば痛みは通るが傷はつかない。雷も通さない。火も熱いが火傷しない。強引に距離を詰めて首を掴む。後は殴るだけだ。顔面を殴る。腕を殴る。これで動けない筈だ。

しかし、奴は動いた。能力は発動した。ちゃんと奴に当たった。それでも奴は何もなかったかのように立ち上がってきた。


スラグ「これが2つ目と3つ目の能力。能力無効と自動回復だ。」


3つ使えんのか!?人生で2度目だ!ていうか勝てねぇ。能力が効かない、ダメージも回復。これじゃ腕当てで攻撃力を上げた意味がねぇ。


奴は混乱している俺に剣を突き立ててきやがった。

半分放心状態の俺の前で剣はピタリと止まった。

止まったんじゃない。ギンシニスが防いでいた。


横を見ると鉄格子が丸っと切り抜かれていた。











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