役割分担
モンジィー「さて、もういっぺん能力を確認しようかね。」
ギンシニス「あぁ。私の能力、「名付け親」は物体や現象に名前をつけ、その名前に込めた意味に限りなく近い性質を付与するもしくは上書きする。ただし欠点としてつける名前を限定的にすることはできず、更にその限りなく近いというのが私にとってプラスであるかマイナスであるかまではわからない。 例えば木の棒にナイフのような切れ味を付与する場合に私がサバイバルナイフのような物を想像しても実際にはバターナイフほどの切れ味しかつかなかったりするわけだ。」
モンジィー「木の棒で何かを切るってのは想像がつかねぇが大分便利そうだな。
俺の能力は拳で殴った物をその状態のまま固めることができるってもんだ。固めるってのは硬化するってわけじゃなくて殴った瞬間の状態から変化しなくなるってことだ。固まる範囲は殴った衝撃が少しでも伝わっていればOKだ。気体を固めることはできねぇが液体ならゼリー状にすることができる。ただ、それがいつまで続くかってのは物体によってランダムだ。」
ギンシニス「なるほど…拳じゃないと能力が発動しないわけか…」
モンジィー「逆に拳で殴ると俺にその気がなくても固めちまうんで偶に面倒だな。」
たった2人の地下で互いの能力を教え合い、自分達に何ができるのかじっくりとはなす。なんてこたぁ久しくやってなかったんでちょっと緊張もした。しかも相手がとんでもない大物だってんだから余計にな。
モンジィー「でもオメェ、そんな凄え能力があるのになんで看守はそんな何の変哲もない独房に入れたんだ?」
ギンシニス「私の能力はお前たち以外は誰も知らない。私が自ら教える気になったのはお前達が初めてだ。」
モンジィー「はえぇ……誰にも正体を明かさない事で有名な癖に随分と警戒心のない行動だな。」
ギンシニス「ふん、どうせ今私達の会話を聴けるものなどいない。」
ギンシニスがそう言いながら階段の方を向いたんで俺も向いてみると道のあちこちに糸が張り巡らされていることに気付いた。
ギンシニス「結界と防音の力を付与させた。誰も入ることはできないし聞く事はできない。」
モンジィー「いつの間に……」
ギンシニス「彼女に新聞を渡すときついでに私の服の糸を伸ばして渡しておいた。出ていくときに張り巡らせておくよう頼んでな。」
モンジィー「全然気づかなかったぜ……」
ギンシニス「おっと、もうこんな時間だ。続きは昼食の後にしよう。」
モンジィー「ここに時計はねぇだろ。」
ギンシニス「松明に日時計の効果を付与した。光と影の向きで時間がわかる。」
モンジィー「おいおい……入った初日で能力フル活用だな。」
ギンシニス「せっかくの能力だ。使える物を使わずどうする。脱獄する気はないがここで惨めに朽ち果てる気もないぞ。」
モンジィー「へ、へへ……笑っちゃうね。」
ギンシニスが服の端を引っ張ると張り巡らされていた糸はパラパラと解け、その直後に看守のチベットが2人分の飯を持ってきた。ギンシニスの分は直接食事の配給口から渡し、俺の分はチベットが直接独房に入ってきて鎖の交換をして置いて行った。チベットは階段の前で2人が食べ終わるのを待っているようだ。
さっきとは打って変わり、俺もギンシニスも一言も交わず全く接触していないように振る舞った。
2人が食べ終わるとチベットが食器の回収と鎖の交換を終わらせて階段を上がっていった。すると途端に上の階から奴の怒鳴り声が聞こえた。上の階の奴らが相当ヤンチャだったんだろう。説教の声と何かで人を殴る音が10分程聞こえると再びざわついた声が聞こえてきた。
ライラが降りてきた。
ライラ「いやぁ〜ここの看守も怖いッスねぇ♪」
モンジィー「「ここの看守も」って…今まで何度捕まったんだよ。だいたいお前、何して捕まったんだよ。」
ギンシニス「お前、知らないのか?ライラはこの辺りでも有名な情報売りだぞ。中には一国の王室の情報を漏らして株を大暴落させた事だってある。」
モンジィー「こんなガキが、そんな大事起こすのかよ。世も末だな。」
ギンシニス「お前が言えないだろ。」
ライラ「アハハ……別にそんな大した事してないッスよ。ただちょっとつけて髪の毛を拝借するだけッスから。」
ギンシニス「あ、そうだ。ライラ、もういっぺん糸を張り直してくれないか。」
ライラ「お安い御用ッス。」
ギンシニス「よし、これからのことについてだが、いつまでもここで話しているわけにはいかない。だからとある連絡手段を考えた。」
ギンシニスは今朝の残りの新聞紙をだし、手のひらサイズにちぎって渡した。
ギンシニス「この紙切れには音を伝達する効果を付与させた。お互いの紙切れから声を聴いたり呼びかけたりできる。そいつをポケットにしまっておけ。」
モンジィー「だがよ、1人でブツブツ喋ってると怪しまれねえか?」
ギンシニス「普通に話すとそうなる。だからこうする。」
ギンシニスは壁を叩いてリズムを刻んだ。
俺とライラが唖然としていると奴はドヤっとした顔で「モールス信号だよ。」と言ってきた。正直ぶん殴ってやりたかったが壁や床を叩くだけなら癖とかなんとか言えば誤魔化せるんでいい案だとは思った。その後は夕食直後までギンシニス流モールス信号について説明を受けた。
モンジィー「あぁ……疲れたぁ……ここまで馬鹿正直に人の話聞いたの初めてだぜ……」
ギンシニス「何はともあれ役割は決まったな。」
ライラ「情報収集や材料集め、お使いは自分に任せるッス!」
ギンシニス「私は能力で役に立つ道具を提供しよう。暴力沙汰になった場合はモンザイザイ、お前の出番だ。」
モンジィー「お前らなぁ、鎖で繋がれたやつをよく信用できるな。」
ライラ「でも実際鎖に繋がれたまま1人ノックアウトしてるし。」
ギンシニス「少なくとも腕っぷしは3人の中じゃ1番だろ。」
モンジィー「あのなぁ、例えばライラが襲われでもすりゃ俺は助けに行くことができねぇんだよ。敵がそうそう俺達のいる場所にノコノコとくるかよ。」
ライラ「自分のことを心配してくれるんッスか!?」
ギンシニス「お前こそライラを侮らない方がいい。仮にも色んなヤバい組織の情報を漏らしまくって生きてるってこと自体、その隠密性の高さを証明してるんだよ。」
モンジィー「は、はぁ……」
ライラ「にしてもモンザイザイってなんか言いにくいッスよね?」
ギンシニス「確かにそうだな。……名付けよう、いや、省略しよう!お前はこれからモンジィーと呼ぶことにする!」
ライラ「お、いいッスねぇ!」
モンジィー「なんだそりゃ!!余計おかしな名前になっちまったじゃねぇか!ただでさえ気にしてるってのによぉ……」
こうして俺達3人のおかしな投獄生活が始まった。