表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

極楽穢土

投獄されて1週間が経った。新しく入ってくる奴らは日に日に数を増し、昨日なんて1日に15人入ってきた。この世界で俺らのようなゴロツキが殺人や誘拐なんてしようもんならその場で死刑ってのが普通だったんだが、生捕にして政治家の奴らは何がしたいんだか。


そんなこんなでだいぶ賑やかになってきたこの地下牢獄。数がある程度集まれば幾つかの派党に分からんのも必然だ。脱獄を企てる奴ら、他の囚人から奪っていく奴ら、大人しくする奴ら。いろいろある。

投獄されて次の日に囚人2人を再起不能にした俺の噂も少なからずしれてるらしく、分かっててクラスAの階に足を踏み入れる奴なんてほとんどいない。


そう、ほとんど。


投獄されて4日目の日にそいつらはやってきた。




チベット「おい!起きろ!001番!!」


モンジィー「起きてるよ……」


チベット「新しく入ってきた囚人だ!右から囚人番号013 ライラ・ブレッツェオ!囚人番号014 ギンシニス・ミラ!それぞれクラスBとクラスAに収容する!以上だ!」


俺以外にクラスAが来るのは初めてだ。

ギンシニス…とか言う奴は俺の向かいの独房に入っているが俺とは違い鎖に繋がれているわけじゃない。基本独房の中で自由に動いている。

ギンシニスは真っ黒な布を羽織り、頭にはターバンを巻いていて海藻のみてぇな垂れた髪をしている。細身だが見ただけで鍛えてあると分かる筋肉質な体をしている。歳は30前後に見える。

向こうから話しかけてくることもねぇんで特に気にしてはいなかった。


クラスBにいるライラは茶髪でショートカットのちっこい女で軽そうな革ジャケットにジーパンを履いている。正直こんな学生程の歳の奴が犯罪をできるとは思えねぇな。



朝飯が終わってまもなく階段を降りる足音が聞こえたと思うとライラは特に警戒する事もなく俺の独房に近づいてきた。


ライラ「あんたが2番と3番を再起不能にしたモンザイザイッスか?」


無邪気な笑顔で(それともそう装っているのか)興味ありげに聞いてきた。


ライラ「ねぇねぇ、そうなんッスよね?」


この前はジョニーに知らんふりしてひでぇ目に遭ったからな。ちゃんと答えなきゃ後が怖えんで自分の気持ちを正直に伝えた。


モンジィー「そうだが、特に用がねぇんなら帰ってからねぇか。」


ライラ「嫌だなぁ〜自分はただ同じ牢獄に入れられてる人と仲良くしたいだけッスよ〜♪あっそうだ!こっちが「闇の商売人」、ギンシニスッスね!?」


ライラは振り返り向かいの独房に話しかけた。

ギンシニスは読んでいた新聞を畳み溜息をついてから俺達の方を向きゆっくりと頷いた。


モンジィー「何!?」


思わず声が出ちまった。闇の商売人はそこらのチンピラのグループから王国転覆を目論むテログループに至るまで謎の道具を売り捌く犯罪史の中でも大きく社会に出回ってかつ正体も不明とされていた裏社会の大物だ。

王国の軍はよくそんな奴を捕まえたな!


ライラ「お!モンザイザイさんも興味持ったッスね♪」


モンジィー「流石にぶったまげるぜ…俺がガキの頃から伝説的だったからなぁ……」


ギンシニス「そんなのは昔の話だ……今の私はただの囚人。商売人でもなければ伝説でもない……」


再び新聞に目を向けた。奴が読んでいる新聞の裏には奴が捕まった事の記事が書かれていた。


ライラ「あらら〜残念ッス。今は気が乗らないみたいッスね。」


モンジィー「もう一度聞くがお前の方は何の用できたんだ。」


ライラ「ん〜……あんた次第……ッスかね?」


モンジィー「あぁ?」


ライラ「ちょっとギンシニスさん。手伝ってくれないッスか?」


ギンシニスは新聞を読み終わったのか細長く丸めてそれに向かい何かを呟いた後ライラに渡した。


ギンシニス「ほら……」


ライラ「どうもッス〜♪」


ライラは丸めた新聞紙を鉄格子の間から伸ばし俺の頭にくっつけた。


ライラ「うまくいくといいんッスけど……えい!」


モンジィー「!」


ライラが新聞紙を引き抜いた瞬間俺の髪は引っ張られたように抜け、新聞紙の先にくっついていた。


ライラ「やったッス〜♪」


モンジィー「テメェ何しやがった!」


ライラ「自分はなんにもしてないッスよ。ギンシニスさんの能力ッス。」


ギンシニス「私の能力は物体や現象に名前を付けることで付けた名前の通りの性質に限りなく近く変化させることができる。私はこの能力を「名付け親」と呼んでいる。今は新聞紙にテープに近い粘着性を付与させた。」


モンジィー「なんだよ……じゃあいつでも脱獄できんじゃねぇか……」


ギンシニス「冗談言うな。この件で私の名は全世界に知れ渡った。今更脱獄したところで私にできることは何も無い。それどころか証拠隠滅としてテログループに命を狙われるだろう。ならばいっそここで大人しくしていた方が安全というものだ。」


ライラ「ふふん。そういうことッスか。じゃあ次、自分の能力を披露するッスね?」


そう言うと奴は俺の髪の毛を2本摘み、念じるように目を瞑った。


ライラ「ふむふむ……なるほどぉ……モンザイザイさん、あんた、この地下牢獄でのスケジュールの決まった暮らしに憧れてるんッスね。だからそれを妨害しかねないあの2人をやったんスか〜なるほど。」


ギンシニス「ふはは!お前も外に出たくないと言うことか。このクラスになると考えることは同じというわけか。」


モンジィー「勝手に話を進めんな。テメェ今度こそ何をした?」


ライラ「これが自分の能力ッス。相手の遺伝子を含んだ媒体からその相手について1番知りたいことを知ることができるんッス。ただし一つの媒体につきわかることは一つッス。」


ギンシニス「私が名付けるとすれば「検索」だな。」


モンジィー「へぇ……で、そんなこと知ってどうすんだ。」


ライラ「あんたの力になるッス!」


モンジィー「は?」


ライラ「ここに入ってまず分かったことはクラスBから上は本当に小物ばっかりッス。でもクラスAは違うッス。「路地裏の地獄」モンザイザイに「闇の商売人」ギンシニスなんて組み合わせ最強じゃないッスか。だから思ったんッス。上の階にいるショボイ派党なんかより2人と行動した方が安全だってね。」


モンジィー「俺ってそんな二つ名あったのか?」


ライラ「世間じゃあ有名ッスよ?この国の路地で妙なことしでかすとマトモに帰ることはできないって。」


ギンシニス「私もこの国のどこかに名のある喧嘩屋がいると噂を聞いたがお前がそうだったとはな。」


モンジィー「ふ〜ん……」


ライラ「で、ここからが1番重要なんッスけど、これからもこの牢獄の囚人は増えていくッス。そうなると必然的にこの中で覇権争いが始まるッス。」


モンジィー「なんで?」


ライラ「自分が今まで入ってきた牢獄はみんなそうだったからッス。みんな仲良くすればいいものを囚人は牢獄を社会と同じように見てるんス。だから他の囚人を利用しないと安定した生活ができないと思って争い始めるッス。モンザイザイさんとギンシニスさんはここでゆっくり暮らしたいんスよね?なら、この地下牢獄の状勢を掌握しないといけないッス。」


ギンシニス「ふん、安息を求めて争いをするとはな。どこでも皮肉は付き纏うものだ。」


モンジィー「別に俺達の名が知れ渡ってんならそうそう手ェ出してくる奴なんていねぇだろ。」


ライラ「2人とも今の状況を分かって言ってるんッスか!?今、2人は文字通り袋のネズミ!小さな独房なのに対してあっちは群れで放し飼いッスよ!そしたら名のある2人が狙われるのは必然的ッス!今組まないと後々大変なことになるッスよ!」


モンジィー「そう言われてもなぁ……組むのってあんまり上手くいく気がしねぇんだよなぁ…」


ギンシニス「今まで1人でやってきた者同士がいきなり組めるかどうか……」


ライラ「そこで自分の出番ッス!自分が上の階から色んな情報を集めて提供するッス!今はこの階に収容されているのは2人だけ!じっくり話し合いもできるッス!」


モンジィー「ん〜……!」


ギンシニス「試して……みるか……」


モンジィー「分かった……組んでやる。ただし、俺に得がないとわかった時点で俺は降りるからな!?」


ライラ「やってくれるんッスね!?やったぁ!じゃあこのチームの名前を考えないといけないッスね!?」


モンジィー「名前だぁ?いるのか、そんなもん?」


ギンシニス「私の能力が反映されるかもしれん。付けてやろう。このチームの名前はズバリッ…… 極楽穢土(ごくらくあいど)!!」


ライラ「おおーー!!」


モンジィー「で、どんな性質が……」


ギンシニス「分からん。」


ライラ「とにかく、明日から本格的に活動開始ッス!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ