時間と拡大
2人が喋っているうちに昼飯をチベットが持ってきた。
モンジィー「おい、俺達はついさっき朝飯を食ったばっかだぜ。」
チベット「貴様は何を言っている。私の時計はちゃんと12時30分を指しているぞ。」
と言いながら懐中時計を見せてきた。しかし、ギンシニスお手製の日時計はちゃんと9時を指している。
モンジィー「お前の時計狂ったんじゃあねぇか?」
チベット「?」
マクラーニ「そうですよ。私もまだ食べ終えてないですし。まだご飯も温かいですよ。」
チベット「そう……か……また来る。それと午後からは労働時間だぞ?」
モンジィー「労働?」
チベット「囚人の数も増えてきたからな。地下牢獄拡張の為に穴を掘ってもらう。」
マクラーニ「私まだ初日なのに……」
ギンシニスの日時計が午後2時位を指すと鍵を持った看守が全員を独房から出した。
モンジィー「あんたの時計はちゃんとあってんだろうな?」
看守「何を言っている。さっさといけ。」
俺達が連れて行かれたのはだだっ広い空洞だった。岩は茶色く所々鉄鉱石が突き出している。大量のランタンが壁にはかけられているがそれでも視界が暗いところはある。
チベット「ここは元々天然の洞窟を改造したところなのだ。その広さは推定12万㎡。まだ、深さは調査できていないが、この国の犯罪者を全員ぶち込むことができるはずだ。その為にこの洞窟を整地しろ!」
と、渡されたのはピッケル一本。まぁ、掘れるだけほるかとそこら辺の飛び出した岩にピッケルを打ち付ける。すぐ隣でギンシニスが他の岩を掘っていた。
モンジィー「こうして見るとお前、俺よりも高ぇんだな。」
ギンシニス「私の身長は210㎝。お前より20㎝高いからな。」
モンジィー「バケモンだな。」
後ろで岩を大量に乗せたトロッコをライラとマクラーニが一生懸命運んでいる。
ライラ「ちょっと…モンジィーさん……!!なんで自分達がこんな力仕事しなくちゃならないんッスか……!!変わってくださいッスよ!!」
モンジィー「………チッ」
ギンシニス「変わってやるか……」
俺とギンシニスはトロッコ2つを連結させ一緒に運んだ。ライラは今度はピッケルが重いだの泣き言を続けていたが無視して洞窟の奥と出入り口を何度も往復した。
俺達にとっては死にそうなくらい疲れる作業ってわけじゃないんだが、長時間続けるとなると話は別だ。流石に何時間もこんな事を繰り返してたんじゃ身体が悲鳴を上げる。俺もギンシニスも汗が噴水の様に吹き出した。他の囚人の中からも倒れる奴が出てきた。そんな中でチベットの奴は「よーし!!後2時間だ!!」なんて叫びやがった。
モンジィー「お、お前正気か!?もう何時間もこの作業をやってる!倒れてる奴もいるのに後2時間だと!?」
チベット「何時間も……だと?まだ1時間しか経ってないぞ。寝言を吐く前に手を動かせ。」
ずっと地下にいたから時間の感覚が狂ったのか?それにしてもおかしい。朝のことと言い、さっきのことと言い。
モンジィー「おい、ギンシニス。今の正確な時間がわかるか?」
ギンシニス「あぁ。」
奴はピッケルを地面に突き刺し、何かを唱えるとピッケルの影は動き始め、俺から見て右を指した。
ギンシニス「なんと言うことだ!」
モンジィー「なにが!?」
ギンシニス「今が午後6時!私達がここに来てから4時間も経っているぞ!」
モンジィー「やっぱりか!?あのクソ看守!!俺達を過労死させる気か!?」
マクラーニ「いいえ。恐らく彼の仕業ではありません。」
後ろから急に話しかけてきた。ライラはその横で膝に手をついて泣きそうになっている。
モンジィー「どういうことだ?いきなり出てきやがって。」
マクラーニ「詳しい事はまだわかりませんが、まぁ調べればわかるでしょう。」
そう言って両手を、広げると何処からか歪な形をした杖が6本飛んできた。
マクラーニ「よし、始めましょうか。」
どうやっているのかは知らんが彼女は宙に浮いた6本の杖を巧みに操り、地面に巨大な魔法陣を描いた。その匠な動きはまるでオーケストラの指揮の様な滑らかさと言うべきか、巣を編む蜘蛛のような神秘的な光景と言うべきか、はたまたその手からいろんな作品を作り出す美術家のような胸が高鳴る予想外さと言うべきか。
すると突然頭の中に声が響いた。
「あなたはここにいる者達の時間の感覚を狂わせましたか?」
全員同じ現象が起こったらしく、耳を済ませたり、塞いだりする奴もいた。しばらく経つと魔法陣は光の粒になって消えた。
マクラーニ「分かりました。犯人は彼です。」
指を指した方向には焦った顔をした、貧弱な身体つきの男がいた。
マクラーニ「あの人が時間をおかしくしているのです!」
モンジィー「よし!分かった!」
ギンシニス「おい、間違ってたらどうする気だ!」
モンジィー「違ったら違ったらだ!」
俺は奴に飛び掛かり、ラグビーの様なタックルをしてやったがすばしっこくて捕まえられねぇ。
すると、奴に銀色の何かが巻きついた。奴がもがき、銀色の何かに触れると奴は切り傷を負った。その銀色の何かはチベットのサーベルだった。
チベット「話は聞かせてもらった。なるほど、貴様の事を忘れていたよ。囚人番号034。」
ライラ「あ!!奴は「門限破りのタラーユ」!!」
ギンシニス「も、門限破り?」
ライラ「はい!この辺りじゃ、そこそこ名のある盗人ッス!なんでも時計の指す時間を狂わせる能力があるとかなんとかって。その能力で予告した時間と実際の時間が違うと見せかけて物を盗む手法を使っているらしいッス!」
ギンシニス「なるほど。だからチベット看守は時間がわからなかったのか。」
チベット「全く。よくもこの私を、コケにしたな。貴様には後でペナルティをやる。覚悟しろ!そして、全員速やかに自分の監房へ戻れ!!」
モンジィー「おい、謝れよ!」
チベット「知らんな。」
ギンシニス「ほら、モンジィー。戻るぞ。」
モンジィー「クソッタレが。」
その後、俺達は独房に戻った。
モンジィー「にしてもお前、さっきのは中々のファインプレーだったな。」
ギンシニス「まさかあの場にいる全員の脳内に語りかけるとは。」
マクラーニ「いやぁ、どうもどうも♪ただ、今回は分かれば単純な事件だったのですが、もし複雑だったらかなりまずかったです。」
ギンシニス「なにか制限でも?」
マクラーニ「はい。私の読心術は「はい」か「いいえ」の二択しか聞き出せないんですよ。」
ギンシニス「しかし、それにしてもあの範囲にいる全員に聞けるのだからそれだけでも十分すぎるほどの力だ。」
マクラーニ「ふふん♪実は他にも色々できるんですよ〜♪例えば………」
そして、彼女のマシンガントークが始まった。
ギンシニス「ふむ。モンジィー、彼女のことは。」
モンジィー「あぁ、分かったよ。」
ギンシニス「マクラーニ。よければだが私達の仲間に、極楽穢土のメンバーにならないか。」