投獄
地下 牢獄 囚人と聞き良いイメージを持つ者なんていないだろう。ここにいる者はみなクズ、ゴロツキ、犯罪者、出来損ない、負け犬、ペテン師或いはただのバカはたまた考えすぎたバカしかいない。あ、後看守もな。
ここは第一級犯罪者からさっき言ったようなクズまであらゆる罪を犯した奴らがぶち込まれる、言わば人間の肥溜のような場所だ。ここにいる奴らはもう希望なんか持っちゃぁいない。有るのは欲に従い暴れる獣のような荒々しさだけだ。しかし、俺はここが気に入ってる。毎日、看守という名のモーニングコールと残飯というフルコースメニュー、重労働という娯楽まである。少なくとも嘘としょーもない地位と金だけで作られた地上よりはよっぽどマシだろうよ。
あ?全然マシじゃないだ?平和ボケしたオメェらにゃそう思えるだろうな。だがなぁ、ゴミ箱漁って、商人襲って、凡人装ってきた俺らにとっちゃ決まった暮らしができるなんざ快適以外のなにもんでもねぇのよ。
おら、分かったらとっとと自分の寝床に入りやがれボケ共が。
てな感じで俺は新入りを歓迎してやってるわけなんだがな、どーも新入りは生意気で仕方ねぇ。だから入ってきて初日の奴は大抵鼻の骨が折れてる。俺は殴ってないがな。
何故なら俺は両腕を鎖で壁に繋がれているからだ。
更に言うと俺が両腕を鎖で繋がれている理由は俺がここに入った5年前だ。
そこらは煉瓦造りの家しかねぇし、道には毎日のように貴族様が盛大なパレード、街の真ん中には大きな城。みんな活気に溢れる溢れる。それに比べて俺たちは? ナイフ一本懐に持ってそこらの人間を路地に引っ張り金をせしめる。貴族の捨てたパンを食う。
気分がよけりゃ馬車を乗っ取り、胸糞悪けりゃパレードを文字通り血祭りに変える。
そんな奴らがその場で串刺しにされたり斬首されたり
丸焼きにされたり馬で引きずられたり石を投げられたりして死んでいく。俺は腕っぷしは強くてな、まぁそんなことはなかったんだが。
ある日毎度の様に行われるパレードを路地の入り口に座り込んで見てるとその貴族が金をばら撒き始めた。みんな一斉に拾い始めた。誰しもがいい人だのありがとうだの言って貴族にヘコヘコしてた。俺は別にそんな金拾わなくったって生きてけるんだが貴族の奴はそれがどうも気に食わなかったらしい。俺は道端に捨てられてた煙草を吸ってボケッと空を見ててすぐには気付かなかったんだが貴族とその衛兵に囲まれてた。
貴族「貴様、何故拾わん。」
スカした声が背中の毛を逆撫でしてきた。
どう答えたって結果は目に見えてる。だから俺はせめてもの抵抗って意味で宝石がジャラジャラとついたブーツに咥えていた煙草を吐き捨ててやった。ブーツの先に煙草の灰が付いた。それと共に貴族の額から首にかけて血管が浮き出ているのが分かった。
貴族が親指を首元で横に動かすと衛兵が槍を向けてきた。貴族自身も鞭を用意した。
貴族「全く、これだからゴキブリは嫌いだ。おかしなところにウジャウジャと湧きおっては街を塞ぐ……」
俺はどちらかと言うと沸点が低い方で怒りっぽいんだが別にこんなことじゃキレたりしない。ただ次のことには腹が立った。
貴族「私が直々に手を下してやろう。」
何が頭にくるってこいつがこの言葉と共に出したのがメリケンサックだぞ?何の為に鞭を構えたんだ!?それをわざわざ投げ捨ててメリケンサックだ!?俺は武器をまともに使えねぇ奴が一番気にくわねぇ。
「ふざけんじゃねぇよ!!」
反射的に身体が動いてしまった。
思わず力を入れちまったんで5mは吹っ飛んだな。
そうそう、この世界には個人個人に能力があるらしくてな、俺は殴ったものを固めちまうらしい。初めて殴られた奴はゾッとするだろうな。顔の形が殴られた瞬間のまま固まってんだから。
衛兵A「貴様!!ただで済むと思うなよ!」
「そうかい……」
構えていた衛兵が容赦なく槍を刺してきた。俺は身体を逸らし避け懐に飛び込み相手を鎧の上から殴りまくった。
鎧は拳の形で凹んだまま身体を押しつぶしその衛兵は窒息死した。
衛兵B「ヒィッ……!」
もう1人は俺なりの情けって事で溝落ちに死なない程度一発入れておいたんだがそれがダメだった。そそくさと逃げりゃいいものを仲間を呼びやがった。街中のどこに隠れていたのやら、わんさかとてできた。俺は取り囲まれてタコ殴り。
とはいえ50人以上の衛兵相手に13人やればがんばった方だろう。
結局俺は捕まって、死刑かと思ったんだが新しくできた地下牢獄で終身刑。俺の能力は使わせると面倒って事で大抵の時は手錠をかけられてる。
最初は俺1人で何もすることがなかったんだがここ5年でもう何百人も囚人が入ってきたもんで飽きねぇこと。世間から見りゃ腐った人生にも見えるだろうが俺からすりゃ薔薇色だね。
最後に名前を名乗らせてもらおう。俺はモンザイザイ。姓はない。というか知らない。よく弄られる名前だがここの囚人からは親しみの意味か見下しの意味かモンジィーと呼ばれてる。全くひでぇ名前だぜ。