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Doppel-二重を歩くもの- 上  作者: 蜂月 皐
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第2章 「赤星」01

引き続きご愛読いただき、ありがとうございます!

第2章「赤星」突入です。

 桜紡の実家は、僕の実家と同じ両国にある。古くから続く神社で、名を誘観(いざなみ)神社という。桜紡は、そこで巫女をしている。今日は、桜紡にトリルとディアとの話の結果を伝えに来ていた。

「8月12日に2人が来ることになったよ」

「昨日の今日で、そんなに早く来てくれるなんて良い友達ね」

「2人とも僕の話を聞いて、協力することに快く快諾してくれた。ただいくつか問題があって………」

「問題?」

「そう。1つは、拠点。つまり泊まる場所。もう一つは、2人とも初めての日本だから観光というか、日本の文化に触れさせてあげたいんだ」

拠点、もとい、宿泊先は、2人とも初めての日本だから心配で………というのは、表向きの考えで、実際は、予算削減のためだ。観光に関しては、わざわざ夏休みに、時間を割いて、僕の我儘に付き合ってくれる仲間へのせめてものお礼のつもりである。僕は、実家が神社の桜紡に、衆生済度を請うように顔を覗き見た。

「なーんだ。そんなことか。そんなことなら私に任せて。拠点も観光もばっちり私が面倒を見てあげる。ついでに繋にも観光案内してあげようか?」

桜紡のしたり顔に僕は、安堵と共に、眼福を得た。


------4週間後。

ディアとトリルは、約束通り日本にやってきた。僕は、烈日に、盛夏を思わせる日差しの中、空港へ迎えに出ていた。

「やぁ、繋。日本は、暑いな」

「ふぁぁぁ、眠い………」

「トリル、ディア、日本へようこそ」

1カ月くらいしか経っていないのに、数年越しに会ったような所感で、僕は、トリルと拳を合わせる。トリルは、初めて来た日本に、興味深々と言わんばかりに皿眼になっている。ディアは、長旅のせいなのか、相変わらずのマイペースなのか、眠たそうに目を擦っている。

「僕の急な我儘に付き合ってくれてありがとう。2人とも長旅で疲れているだろうし、ひとまず、拠点に向かおうか」

「ホテル?」

「用意しておいてくれたのか。良心的だな」

2人は、大きな勘違いをしている。ディアとトリルとは違い、僕は、何の変哲もない、ただの学生だ。特にバイトをしているわけでもない僕に、2人分のホテル代なんてとても用意できない。

「残念ながら、ホテルではないよ。でもある意味、ホテルよりも日本に、日本の文化に触れることのできる場所………ってとこかな」

「へぇ、いいね!早速向かおう」

「ふぁぁぁ………横になりたい」

トリルは、異文化の知見を広めたいのか、欲動を抑えきれずにいる感じだ。ディアは、我関せずといったところか、今だ睡魔と格闘中だ。

「じゃ、そこのバウワーに3人で乗って向かうよ」

バウワーとは、空中を走る車みたいなもので、バウワー乗り場に行き、クラウスからバウワーの項目を選択すると、乗車する人を認証し、バウワーのドアが開く。そして、行き先をインプットすると自動で運行し、エアリーと呼ばれる空の道路を使えば、信号や渋滞、障害物もなく、目的地まで最短距離を空走してくれる。これにはもちろん、年齢や運転免許といった制限や特別なライセンスも必要なく、皆が等しく使用できる。3年程前から日本でも導入されている技術だ。ただこの技術に関しては、国連に加入している国々のみの運用となっている。便利な技術ではあるが、色々な国の人々、要人、テロリスト対策など、運用国には、それなりのリスクが伴うためだ。

------15分後、僕たち3人は、桜紡の実家であるところの誘観神社に到着していた。

「おぉ!実際に肉眼で視認する神社は、圧巻だな」

「うん。大きい。大聖堂とは違う。神秘的」

2人とも目の前の歴史的建造物に見入っている。僕も何度か誘観神社には足を運んでいるが、訪れるたびに、新鮮な気持ちになり、襟を正す思いになる。

「トリル、ディア、少しここで待っていて。この間、ダイブ中にも話したけど、もう1人の仲間の桜紡を連れてくるから。あっ、あとクラウスの翻訳設定をONにしておいてもらえるかな」

僕は、これでも2か国語を話せる。だから、トリルとディアと話すときも、桜紡と話すときも問題無いのだが

、トリルとディア、桜紡はそうゆうわけにもいかない。だが、クラウスの翻訳を使用することで、ほぼタイムラグも起こることなく、多言語を理解することができる。


桜紡を2人の前に連れてくると、僕が紹介する前に、

「ご来駕に感謝致します」

桜紡は、巫女の仕事中で装束を身に纏っていて、折り目正しく、儀容をつくろった、挨拶をした。その態度に2人も乱れた風儀を正すように、挨拶を返した。その直後、桜紡の態度は一変した。

「こんにちは。私は桜紡。初対面で、急に堅苦しい態度でごめんねー。初めての日本って聞いてたから、一応、神社の作法通り、お出迎えしてみたの」

僕と接するときと変わらぬ温容の桜紡がそこにいた。

「あーっと、桜紡。この2人が僕のイタリアの友人で仲間になる、トリルとディアだよ」

「はじめまして。僕は、トリル。これが、本物の巫女か。クールだね。神秘的だ」

「ディア。巫女………可愛い」

「うん。2人ともよろしくね」

どうやら3人とも問題無く打ち解けてくれたみたいだ。

「じゃあ、2人も荷物を置きにいきましょ」

僕らは、桜紡とともに境内に足を踏み入れた。

「空気が変わった気がするね」

「神気が満ちてる心地」

トリルとディアは、神社の雰囲気を肌で感じ感動しているようだ。社殿より、少し右側に寄ったところに、桜紡の家の玄関が見えた。

「ここが、玄関よ。さ、入って。あっ、靴は脱いで上がってね」

格子の付いた引き戸を開け、4人は、玄関で靴を脱ぎ、家の中に入ると、桜紡の父と母が出迎えてくれた。あらかた挨拶が終わると、桜紡は、2人を今晩から寝泊りする部屋へ案内してくれた。

「この部屋で自由にくつろいでね。布団は、そこの押し入れに入っているから、寝るときに出して使ってね」

10畳ほどあるその部屋は、数奇屋造りで、質素ながらも、洗練された印象があり、床の間に飾られた掛け軸や違い棚が、伝統的で日本独自の文化を反映した様式になっていた。

「こんな素晴らしい部屋に宿泊させてもらっていいのかい?」

「気にしないで。ホテルとかに比べると少し質素に感じるかもしれないけど」

さすがに、空いた口が塞がらないトリルに桜紡は、申し訳けなそうに答え、2人の浴衣の準備までしてくれていた。浴衣は、生地が木綿で華やかな色合いと柄のものだった。

「浴衣は、湯上り着や寝巻きとして使ってね」

桜紡は、僕が思っていた以上に気が利く子だったようだ。僕たちは、その部屋でお茶を飲みながら少し談笑をした後、交流が深まったところで、今回の目的であるところの祖父の伝言の話を始めた。

「伝言の内容については、以前話したと思うけど、もう一度確認のため、話をするよ」

「あっ、ちょっと待ってもらえる?」

僕が、口火を切ったところで、何故か桜紡が待ったをかけた。

「実は、今回集まった4人以外にも、もう1人協力したいっていう人がいるの。その人は、繋のお爺さんが務めていた大学でお爺さんの助手として働いていた人で、お爺さんのお見舞いにも良く来てくれていた人。繋には、伝えてなかったけど、お爺さんの最後の伝言を聞いたとき、その人も傍にて一緒に聞いていた。それで今回、その話の謎を解くために、仲間を集めているって話をしたら、ぜひ協力したいって………」

僕より、桜紡のほうが祖父との交流は長い。その上で、桜紡が仲間にというのであれば、僕に反意を抱く理由はなかった。

「わかった。専門家の意見も聞きたいところだし、僕は、仲間になってもらって構わないよ」

「繋が良いなら、僕は帰服する」

「同断」

僕を含め、トリルとディアもその人を仲間に入れることを了承した。

「ありがとう!じゃ、早速連絡して、来てもらうね」

黄昏に僕らの体が紛れるころ、その人は来た。

「えーと、紹介します。こちら繋のお爺さんの助手をされていた、ファウストさん」

「はじめましテ。ジル・ド・ファウストといいマス。今回は、新原先生の伝言を一緒に解く機会を与えてくれて心から感謝するヨ。よろしくネ」

なんだか、祖父のことを新原先生と呼ばれると面映ゆい思いになる。

「繋、新原繋です。生前は祖父がお世話になりました。僕の隣にいるのは、友人のトリルとディアです」

トリルとディアは軽く会釈をした。

「君が、新原先生のお孫さんカ!会えてうれしいヨ。トリル君、ディア君もよろしくネ」

自己紹介が済んだところで、僕たちは、祖父の伝言を再確認し、明日の夜、満月の日に再度集合することとなった。今夜は、僕もトリルとディアと一緒に、桜紡の家に泊まることになっている。少し、2人と話たいこともあったし、具合いが良い。夕食を食べ終え、風呂に入った後、例の部屋に戻ったところで、僕はトリルとディアに問う。

「この間、ダイブした後から、トリルとディアがイタリアを発つまでの間に、僕らしき人って見かけた?」

「あれから、僕やディアは会っていない」

「そっか。やっぱり、他人の空似ってやつだったんじゃないの?」

安堵した面持ちで話していると、桜紡が話に割って入ってきた。

「なんの話?イタリアの話?」

僕は、事の成り行きを桜紡に説明した。

「へぇ。不思議な話だね。トリル君やディアちゃんの他には目撃者はいない?」

「いる。ディアの友達も見た」

「僕のほうも、知り合いから何度か繋を目撃したって聞かされてる。なんだか怪奇的だよ」

トリルやディア以外にも目撃者がいるなんて、いよいよ不味い状況のような気がしてならない。僕以外の僕が、僕の認識していないところで存在しているのは、不気味だし、怖い。僕に成りすまし何をしているのかわかったものではない。

「繋って………分身できる?それとも幽体離脱的なアレ?」

僕は、これでも結構深刻に事を受けとめているのだが、なんだか桜紡は少し楽しそうだ。

「桜紡なんか楽しんでない?他人事だと思って………」

「ごめんごめん。さ、明日は、忙しくなりそうだし、早く寝よ」

「そうだね」

「賛成」

こんな中途半端な気持ちで寝れない僕をよそ眼に3人は、布団に入った。

読んでいただきありがとうございました。

これからも連載を続けていこうと思っておりますので、ご意見、ご感想等、寄せていただけると勉強にもなりますし、執筆意欲も出ますので、ぜひよろしくお願いします。


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