第1章 「暁星」 05
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1年前に亡くなった祖父。僕は、イタリアにいた為、死に目に会うことが出来なかった。桜紡は、僕がイタリアに行った後も、祖父との交流はあったようだが、学校やアルバイトもあり、会う機会が少なくなっていたとのことだ。ただ、祖父が晩年、病に伏せていたことは知っており、見舞いに行ってくれていたという。その時に、伝言を託されていた。
「お爺さんは、亡くなる少し前は、もうベッドから降りられなくなっていたわ。徐々に口数も少なくなっていったけど、これだけは、私達に伝えておきたい。繋げたいって言っていたわ。」
桜紡は、口元を震わせながら、別涙をぐっとこらえていた。桜紡にとっても祖父の死は、辛いものだったのだろう。血縁は、無くとも幼い頃から面倒をみてくれた、自分の祖父と言っても過言ではないくらいの存在。血縁のある僕以上に、祖父と関わってきた時間は長い。
「ごめんね。もう大丈夫よ。じゃ、お爺さんからの伝言を伝えるわね」
「―――――――――お爺ちゃんからの、伝言」
ふいに明瞭な声で呟き、僕は顔を持ち上げる。
「頼む。聞かせてくれ」
僕は、真剣な面持ちで桜紡と視線を合わせた。桜紡は、そんな僕を見て、首を縦に振り、口を開いた。
「宇宙の理に伏し、視野を広く持ち、常識を信じるな。満月の夜に書斎の扉を開け。人類が生み出してきたものは、無駄じゃなかった。マルチバース………。仲間と共に3つの光を目指せ。自分自身との対話の先に、宥和と調律、そして調和が生まれる」
僕は、伝言を聞き終え、伝言を伝えた桜紡と顔を見合わせた。僕らは、示し合わせたかのように頷くと、再び先ほどの扉の前に歩み寄った。
「伝言の中には、良くわからないものもあるけど、きっと扉の装飾も、その伝言に沿って描かれているはずだ。数字に関しては、やっぱり良くわからないけど、左上の図は、伝言から読み解くに、満月と地球の可能性が高い。そして右下にあるもう1つの図………。これは、雲に隠れた3つの星ってことかな?」
僕は、目の前の扉に胸を高鳴らせながら、しかし、冷静に解読を進める。
「きっとそうね。あとは、この日本語の文」
桜紡も、必死に解読しようと目を丸くして扉を睨みつけている。
「九天九地―――理り、希求の地、皓々たる―――に顕在す。多元の地、果ての―――、隠すは―――。ところどころ字が擦れてしまって読めないところがあるわね」
この日本語の文は、祖父の伝言と類似している部分も見受けられるのだが、数字と文字に関しては、筆で書かれており、年月の経過で擦れて消えかかっていた。こればかりは、詮方ないことだが、折角祖父が桜紡に伝言を残し、桜紡が僕に繋げてくれた言葉を無碍にはできない。そんな思いが立ち込め、僕は唇を噛んだ。行く手を阻まれたように、頭を抱える僕に反し、桜紡は、それでもその文の意味を理解しようと懸命だ。
「九天九地って、仏語よね?天の頂から地の底まで、つまり宇宙ってことかな?」
桜紡の、実家は古い神社で、桜紡はそこで巫女をしている。仏語には、多少明るいようだ。扉の文字が擦れて読めなくなっていて悔やんでいた僕は、桜紡の前向きな姿に、心気を静めた。
「仏語って、僕じゃわからなかったよ。桜紡がいなきゃ………」
僕は、自分が言いかけた言葉に、偶感を覚えた。
「そうか。そうゆことか。」
「どうしたの?急に?」
桜紡は、僕の唐突な嘆声に少し戸惑っているようだった。
「この扉の装飾は、僕だけでは、僕たちだけでは完全には解けないんだ。お爺ちゃんは、伝言で言っていた。仲間と(・)共にって。つまり、僕らで解読できるところには限界があるんだ」
確かに不明な点が多いと言わんばかりに桜紡も納得する。
「今日は、お爺さんの言っていた満月の夜なんだけど、仕方ないわね。お爺さんの伝言を無碍にするわけにはいかないし、言われた通り、仲間を集めましょ。でも、だれか心当たりはあるの?」
心配そうに、僕の顔を覗き込む桜紡。
「いる!僕のいたイタリアに2人」
自身満々に僕は答える。
「わかったわ。それじゃ、繋は、その2人に話をしてみて。私は、私の出来ることをやっておくね。必ず、お爺さんの伝言を繋ごうね。もう忘れるんじゃないぞ」
桜紡は、温顔に笑みを浮かべ僕にそう言うと、書斎を出ていった。
「えーっと、次の満月は、8月13日か。あんまり時間がないな」
仄暗い地下室の壁に、僕の小声が吸いこまれる。そして冷静に現状を整理する。桜紡との再会、墓参り、祖父からの伝言、地下室の謎の扉………。それにしても、日本に来てから、まだ2日しか経っていないのに、濃密な2日間で、既に僕のHPゲージはレッドゾーンに突入していた。ひとまず、部屋に戻って休息をとろうと思う。
部屋に戻ると、早々に布団に横になった。体中の力を抜き、脱力になる。閉眼し、薄っすらと開いた口から深呼吸を行った。身体中に血液が循環し、末梢まで酸素が行き届く感覚が、僕に生を実感させる。落ち着き払ったところで、ふとお爺ちゃんの伝言が頭を過った。どうせならもう少しわかりやすく伝えてくれればよかったのにと思い、それと同時に、3歳以降1度も会いに来ることのなかった僕のことを最後まで気にかけてくれていたことがうれしく口角があがった。
僕が次に開眼したときには、すでに朝になっていた。どうやら昨晩は、布団に横になっている間に、寝てしまっていたらしい。窓から差し込む黎明の光を浴びて、覚醒した僕は、清々しく、頭の中は不思議とすっきりとしていた。
「よし!仲間を集めるぞ!」
上体を起こしざまに、意気込む。空中に手をかざし、上から下に振り下ろし、眼前にディスプレイを開いた。すでに、僕の中では、仲間にする2人は、決まっていた。ディアとトリル。理由は、彼ら以上に、親しい友人を知らないというのもある。が、ディアは、頭脳明晰で常に冷静に、物事を判断でき、なによりアースアイの持ち主でもあるからだ。トリルは、僕と相性が良くタッグが組みやすい。そしてなにより宇宙バカだ。必ず興味を持って協力してくれると確信してやまない。
「とりま、2人にメールでもするか」
メール画面を開くと、以前やり取りしたメール文章がでてきた。昨日の出来事があまりに衝撃的だった為、すっかり忘れていたが、2人が妙なメールを送信してきていたことを思い出した。あまり気にも留めていなかったことではあるが、連絡を取ろうとしている今になると、やけに気になり始めていた。
読んでいただきありがとうございました。
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