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Doppel-二重を歩くもの- 上  作者: 蜂月 皐
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第1章 「暁星」 04

引き続き、ご愛読いただきありがとうございます!

祖父の書斎は、地下にある。桜紡もそれは当然知っていると言うように、一直線に目的地へ向かっていく。桜紡に手を引かれ、地下への階段を下っていくと、懐かしい情景が目に入った。白熱電灯の薄暗い地下室。大きな古い机の上には、たくさんの資料や本が乱雑に置かれ、埃を被っている。壁には、太陽系の描かれた古い紙が貼ってあり、その隣には、写真が画鋲で刺されて飾られている。床には、小さい椅子が2つ。間違いない。ここは、僕が幼い頃に、祖父と過ごした書斎そのものだった。思い出と何一つ変わらず、置いてあるものの位置も変わらず、変わったことといえば、祖父がいないことくらい………。

「どう?何か思い出せた?」

桜紡は、恵比須顔で、僕の顔を覗き込んできた。

「思い出したよ。僕たちは、ここで、そこの小さな椅子に座って、祖父の宇宙論を散々聞かされていた。」

そう。この場所で………

「―――――――――?」

「この部屋って、もう少し奥行きがなかった?昔は、もう少し広く感じた気がしたけど、僕たちが、成長して大きくなったから部屋が少し狭く感じるのかな。」

僕は、桜紡のほうに目をやり、違和感を伝える。

「そうね。それもあるだろうけど………。」

桜紡は、言葉を返しながら、壁に貼ってある地図を外し始めた。外し終えると、壁だと思っていたところに扉が現れた。

「もしかして、繋君は、この扉の向こうにある部屋のことを言っているのかなー?」

桜紡は、猫なで声で、訳知り顔に、僕と目を合わせた。その艶麗な姿に若干の心の動揺を覚えつつも、僕の関心は、扉への方へと向いていた。扉には、数字や文字が列挙され、奇妙な図が記されている。

「この数字は………数式?文字は、日本語のようだけど、擦れてて読みにくいな。この図は、なんだろう。3つの天体?雲がかかっているのかな?」

僕は、その不思議な扉の前で、緘黙のまま、しばし佇立していた。

「あれ?変ね。こんな数字や文字や図なんて、14年前は書かれていなかったわ。繋、これが何か解る?」

桜紡にも覚えの無い、その理解不能な扉の装飾は、僕らに一抹の不安とミステリーさを共感させた。だが、

なんとなく、なんの根拠が証拠が明証があるわけでもない。何も無いのだが、僕には、それが祖父が残したメッセージのように直感的に感じた。

 僕らは、平静さを取り戻し、扉に装飾された、数字と文字、図について考え始めた。扉に装飾されているものは、大きく分類し3つ。一つ目は、数字。何かの数式のようにも見える。二つ目は、日本語の文字。三つ目は、天体らしき2種類の図―――――――――。その場に佇立し、考え込む2人の間に、静寂が流れる。15分くらいの時がたっただろうか。今回も、先に口火を切ったのは、桜紡だった。

「数字と文字に関していえば、はっきり言って、なんのことなのか理解できないわ。でも左上に描かれている図は、なんとなくだけど、地球と月のように見えるわね。右下の図は、雲がかかっているのかしら?これも天体のようだけど見たことがない。3つの天体?」

「月と地球か………。確かにそう見えなくもないね」

行き詰る。またしても、静寂が2人を包み込む。仄暗く、少し肌寒く感じる地下室が、息苦しさを感じさせる。

「そういえば、桜紡は、なんで僕をここに連れてきたの?」

現在の状況に耐えかねた僕は、静寂を振り払うように、開口する。

「あっ、そうだったわ」

急に現れた扉の装飾に、目を奪われ、そもそもこの場所に来た理由を忘れていた桜紡は、団栗眼をむき出して驚き、桜唇を手で隠した。

「今日は、旧暦のお盆。つまり、満月の夜。ねぇ、覚えてない?私たちが、いつもにここに訪れる夜は、決まって満月の夜だった」

「そうだったっけ?あんまり覚えてないな」

「繋は、ここが家だったから、外に出ることなく地下室まで来れたものね。あまり気にしてなかったのも頷けるわ」

僕が、首を傾げる間に、桜紡は、続けて言葉を口にする。

「昼間は、この小さな椅子に座って、おじいさんの話を聞いていたけど、夜は、この扉の向こうだった」

「確かに、夜になると違う部屋に居た気がする。でも、僕の覚えている部屋は、空が一望出来て、夜空に星がたくさん輝いていた」

地下からでは、到底観ることのできない景色。扉の向こうにある部屋と、夜になると星を観ていた部屋は繋がらない。そんな僕の考えを、桜紡は、甘やかに溶かすかのように口授する。

「地下でも空を、夜空を観ることはできるよ。プラネタリウムならね」

幼かったころの僕は、とても素直な子供だったのだろう。それが、まるで本当の夜空のように今の今まで、錯覚して生きてきたのである。そんな錯覚を優しく正された僕は、夏だというのに顔に紅葉を散らせていた。ともあれ、扉の奥の部屋は、プラネタリウムになっているという構造は、僕の羞恥心と引き換えに明らかになったのである。

「じゃあ、今夜、僕をここに連れてきた理由ってもしかして………」

「そう。幼い頃のように、満月の夜にここに来て、プラネタリウムを楽しみながら、閑談したかったの。なんて言うわけないでしょ。そんなにお互い、ロマンチックでもないしね」

そんな状況を一瞬でも想像してしまった自分に僕は、本日2度目の羞恥を感じていた。

「今日はね、繋のお爺さんが亡くなる前に私達に残した伝言をあなたに伝えようと思って、ここに来たの」


読んでいただきありがとうございました。

これからも連載を続けていこうと思っておりますので、ご意見、ご感想等、寄せていただけると勉強にもなりますし、執筆意欲も出ますので、ぜひよろしくお願いします。

ゆっくりと週1ペースで連載をしていこうと思っています。温かく見守っていただけると幸いです。


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