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8.分水嶺のありか -中-

 案内された部屋には、椎葉とおなじみカルカーン王子とレオのコンビ、それから事務官らしい男が待ち構えていた。


「礼人くん! 体調は大丈夫? 昨日の夕食の席で会えると思ってたのに来ないから、心配してたんだよ」


 食べかけのお菓子を放り出して、椎葉が駆け寄ってくる。


 俺と同じく制服をやめて、こちらの世界のドレスを着ている。薄手の白いワンピースドレスにショールを羽織った姿は、この建物の豪華な内装にすっかり馴染んで見えた。


「ん。ああ……、悪い」

「元の世界の調査って言われて緊張したけど、お菓子とか食べながらでいいみたい。事務官さんと雑談する感じで進めるんだって」

「へえ」


 話に聞いたときは取り調べみたいだと思ったが、そうでもないようだった。


 椎葉に手を引かれるまま、テーブルの空いていた席につく。


 すると、あからさまに不機嫌そうなカルカーン王子の姿が目に入った。椎葉が俺と親しげにしているから、嫉妬でもしているんだろう。


「超越者殿、本日はよろしくお願いします」

「あ、こちらこそよろしくお願いします」


 できるだけ王子のほうを見ないようにしていると、事務官の男が頭を下げて挨拶してきたので、こちらも同じように対応した。


「超越者が現れるのは百年ぶりのことで、こちらもなにからどのようにお尋ねすればいいかわからない状態でして。まずわかりやすいところから、つまりお二人がお持ちの品物についてお聞かせいただきたく思います」


 そういうことらしかった。


 持っている物といっても、学校の教科書と筆記用具、それからスマホくらいのものだ。椎葉はそれにプラスして弁当箱といった程度。


 とりあえず全部を広げて見せると、事務官は世界史の教科書を手に取りぱらぱらとめくった。


「やはり異世界の書物ですね。文字がまったく読めません。それに色つきの絵がとても多い。これはどのような技術で印刷されているのでしょう」


 ああ、字が読めないのか。別の世界なんだから、当然だよな……。


 そこまでぼんやりと考えたところで、「あれ?」と思った。字が読めない。じゃあ、なんで俺たちは今喋れてるんだ?


「俺たちの国の日本語っていう言語で書かれてます。てっきり今話しているのも日本語だと思っていたんですが」

「ニホンゴですか? 今、我々は大陸共通語で話しておりますが……はて?」


 どうやら、お互いがお互いの言語を話しているのに、意思疎通には問題が起きていないらしい。


「……当然だろう。超越者の能力は、すべて竜神に招かれ境界を越えたことに起因する。どの程度の境を越えられるかは人によるが、その最も超越するに容易い境目は言語の違いとされているのだから、超越者であれば誰しもができることだ」

「すごーい、そういうことだったんだね! カーンってば、さすが詳しい!」


 俺と事務官とで首を傾げていると、見かねたらしいカルカーン王子がそのように解説してくれた。すかさず椎葉が王子を褒めたたえている。ヨイショが手厚い。


 言葉が通じる、それ自体が超越者としての特殊技能だったということだ。こいつ、それを知ってるなら俺が椎葉と同じ超越者だってこともわかっていただろ。なんであんなに反対してたんだよ……。


「書物のことは後でいい。それより()()()なる黒い板でシャシンとドウガを見せろ。そのほうがわかりやすい」

「はあ」


 お次は、見せろと来た。もちろん椎葉じゃなくて、俺へ向かって言ってる。椎葉には絶対に命令しなさそうだもんな、こいつ。


「ごめんね、礼人くん。私のスマホ、もう四〇パーしか電池が残ってなくて。昨日の夜、カーンにいろいろ見せてあげてたら、もりもり減っちゃったんだ」

「はあ」


 四〇パーセントなら、俺のスマホより残ってる。


「ハマってるアプリがあってね、そのゲームの世界観がこの国と似てるから、スクショを見せてあげてたんだ。あ、礼人くんってモバイルバッテリーを持ってたりしない? もし持ってたら貸してほしいの!」


 こいつ、厚かましくない? それとも俺の心が狭いの?


「早くしないか」


 苦言を呈そうかと思ったが、王子が竜眼で睨みつけてくるのでなにも言えなかった。


 俺がびびりすぎっていうのもあるのかもだけど……駄目なんだよ。あの爬虫類じみた目で睨まれると、体が固まっちゃってどうしても駄目なんだ。喉はひきつったみたいになるし、冷や汗まで出る。


 結局、なにも言えないでいるうちに王子の手がにゅっと伸びてきて、俺のスマホをかっさらっていった。


 椎葉がスマホを触っているのを昨日見ていたからだろう、王子は慣れた手つきで俺のスマホを操作する。


「そのシャシン、とやらはどうやって見るんだ?」

「あ、その機種だと多分こっちのフォルダに……」


 王子の横から椎葉も指を伸ばして、俺のスマホをいじり出した。


 ……事務官が見るならともかくさ。


「このラーメンって駅前の? 礼人くん、あそこ行ったんだ。微妙じゃなかった? なんか、脂っこいせいかな。あそこで食べたあとお腹痛くなっちゃったんだよね。あ、これ球技大会のときの動画だ。二組ってこんなんだったんだ~。あ、一年のときの写真も見ちゃお! 私が写ってたりしないかな?」


 椎葉は、なんで他人の携帯でそれをやるわけ?


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