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1.王家の騎士 -1-

 叙任式の翌日から、さっそく東の宮への出仕が始まった。始まったのだが、俺はなぜか修練場にいて騎士二十人を相手に模擬試合をするはめになっていた。


 朝会うなり王子が「お前の実力が見たい」とのたまったからだ。


 迫ってくる両刃の剣がまるでスローモーションのようだった。


 これが本当に騎士の使う剣なのか、と疑うほどに遅い。


 何度か瞬きをしながら、半身ほど横へ動いて避ける。避けたところに別の騎士が迫ってくるので、それもひょいっとかわす。ついでに隙だらけになった尻を蹴飛ばすと、地面にどしゃっと倒れこみながら派手にスライディングしていった。


 起き上がってくる気配がまったくない。勢いがよすぎたせいか、完全に沈黙している。


 どうするんだ、これ。刀を抜くまでもなさそうなんだが。


 対応に困っていると、今度は騎士三人が前後一列になって走り込んできた。


 一人目が袈裟に斬りつけてきたのを、ひとまず後ろに下がって避ける。


 同時に反撃しようかと思ったが、剣を振りかぶった二人目がすぐに追いすがってきたので、今度は左へ避けた。


 直後に槍を構えた三人目と、先ほどかわした一人目が同時に向かってくる。


 なるほど、一人じゃ駄目なら三人でやってみようってことか。


 試み自体はそう悪くないと思う。息も合っているし、普通なら二人目までは凌げても三回目の同時攻撃でパニックに陥っているだろう。


 しかしやはり遅い。これでは何人同時にかかってこられても負ける気がしない。


 神様の血のせいだ。


 あの血を飲んだ影響で、どうも騎士の範疇に収まる強さではなくなってしまった気がする。本格的に人間辞めちゃいましたね、と他人事のように思う。


 とりあえず槍の穂先を避けつつ柄を掴んでぶち折った。


 その穂先をもう一人の騎士の足元に向けてダーツ投げの要領で放ると、


「うぐッ」


 相手のうめき声が修練場に響いた。


 思いのほか勢いよく飛んだ穂先が、騎士の右の太腿を貫いていた。


 ……避けられないものなんだなあ。


 ぱらぱらと打ちかかってくる騎士を順番に捌いていくと、十分もしないうちに立っている人間がいなくなっていた。全員がその辺で死体のように転がっている。


 もちろん比喩だ。多少の怪我はしているが、騎士として再起不能になるほどではない。


「予想以上だな」

「……ちょっとぞっとするくらいですけどね」


 修練場の外で観戦していた王子とレオのひそひそ話が聞こえてきた。


 加護のおかげで以前から耳はよかったが、神様の血でこちらもかなり強化されているようだ。囁きかわす内容がはっきりと聞こえる。


「どうだ、お前も。私はあれが剣を抜くところが見たい」

「……危険手当をちゃんとつけてくれるって言うなら行きますけど」

「弾んでやるから、行ってこい」


 王子にそう命令され、レオが心底嫌そうな顔をしながらこっちへ向かってくる。


「お前が剣を抜くところが見たいんだってさ」


 そう言って、レオは剣を構えた。


 本当にこちらも抜いていいんだろうか。


 何かの拍子でスイッチが入ったら最後、寸止めできる気がしない。こいつを相手にそのスイッチが入らない自信もない。


 考えていることがそのまま伝わったとも思わないが、レオの顔がやや引きつった。それでも前言は撤回せずに、まあまあ男らしく突っ込んでくる。


 やっぱり遅い。他の騎士よりはずいぶんましだ。だが、正直こんなものかと拍子抜けするほどだった。


 両刃の剣をぎりぎりまで引きつけ、するりと避ける。


 その流れで鯉口を切る。


 隙を探るまでもなく、どこもかしこもがら空きだった。今抜いたら確実にとれる。


 もうこのまま斬ってしまってもいいんじゃないか、という考えがむくむくと頭をもたげはじめる。


「くそっ」


 レオが悪態をついた。焦っていると思う。レオからすると、一度こちらを見失った状態だ。試合でなければとっくに死んでる。


 ……やるなら頭がいいかな? 肩から袈裟にいくのもありか。


 ぼんやり想像していると、レオの顔が青ざめた。幽霊でも見たような顔色で、剣を構えたまま一歩また一歩と後退りしていく。


 逆に俺はその距離を無造作に詰めていく。


 レオの背が壁に行き当たった。もう逃げられる場所はない。


 雄叫びと悲鳴のあいのこのようなよくわからない叫びを上げ、レオが剣を振りかぶった。それをまたひらりと避けつつ、足を引っ掛けた。


 レオが転倒する。その姿があまりに無様で、頭に上りかけていた血がふっと下がった。


 急に冷静になる。


 これは試合だ。こんな生ぬるいやり方じゃ駄目だ。


「……参りました」


 負けを宣言して項垂れたレオを、じっと見下ろす。


 従騎士時代、天地がひっくり返ろうが敵うはずもないと絶望した相手が今は俺の前で膝をついている。


 いい気味だと笑ってやりたかったが、顔はやっぱりぴくりとも動かなかった。


ジェッ○ストリームアタック…

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