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14.その先で待つもの -3-

「ここは平民も貴族もごった煮の環境だし、訓練生が身分を公開するとどうしても上下関係ができちゃうでしょ。相手が貴族だとわかっていたら、教官もやりづらいし。内部の公平性を保つために、少なくとも訓練生でいる間はお互いの身分を忘れましょうっていうことになっているんだ」


 建て前ではそういうことになっている、とラナンは教えてくれた。


「建て前?」

「けっこう昔だけど、親の七光りが横行して訓練生の質が下がった時期があったんだって。そういう訓練生が騎士になっても、現場で使い物にならないでしょ。実際、異形の討滅にかなり支障が出たらしいね」


 聞いてみると、いかにもありそうな話だった。


 訓練所の内情はなんとなくわかった。気になったのは、これまでに何度か耳にした「異形」という言葉だった。超越者の特典のおかげで、もちろん意味はわかる。だが、それが実際なにを示す言葉なのかがわからない。


「なあ、異形ってなんなんだ? 聞いた感じ、騎士はその異形を討滅するのが仕事みたいだけど」

「ええ……? アヤト、本当になにも知らないんだ。東の国にも異形は出ると思うけど。君、ここに来るまでどうやって暮らしていたの?」


 ラナンはまたもや目を丸くして、まじまじと俺を眺めた。


 この反応からすると、異形と騎士に関することは一般常識っぽいな。


 こっちの世界に来て以来ほとんど軟禁状態で過ごしてきたせいで、俺はこの世界について学ぶ機会がまったくなかった。外には出れずとも、王宮で自由に過ごさせてもらえたらもうちょっとは物が知れたんだろうけどな。一日目に東の宮に移動した後は、ずっとあんな生活だったから……。


「ああ、ごめん。つい聞いちゃったけど、説明しなくていいよ。これも規則違反だからね」


 そう言いながらも、ラナンは異形について教えてくれた。こいつ、めちゃくちゃいい奴だな。


「異形というのは、揺らぎから現れる別の界の生き物のことだよ。背が高くてがりがりに痩せた二足歩行の生き物で、遠目から見ると人間に見える。だけど実際に近づいてみれば異様な生き物だとすぐにわかる。僕らとは根本的に異なる存在なんだ」


 教えてはくれたが、わからない言葉が次々に飛び出してきたもので、俺は思わず目を白黒させてしまった。


 いや、だってわかんないだろ。揺らぎとか別の界ってなんだ? ああ、でも揺らぎっていう言葉は聞いたことがあった気がする。確か、最初に会った騎士二人組が口にしていたような。


「え、なに? 今ので引っかかるところがあった?」

「既に聞きたいことがあるんだけど、あとでまとめて聞く」

「……そうして」


 とにかく、その異形に近づくと、すべての生物は生きる気力というか、そうしたエネルギーが吸い取られて動けなくなり、最終的にはころっと死んでしまうらしい。その前にだいたい異形本体に喰い殺されるか縊り殺されるかするらしいが、とにかくそうした特性があるので一般人では歯が立たない。


 その異形に唯一対抗できるのが騎士ということらしい。


「どうして騎士は異形に対抗できる?」

「叙任されるときに行う儀式があるんだけど、それの影響だって言われてる」


 ……へえ。儀式とか、ここに来て急に異世界めいてきたなあ。


 じゃあ、あのレオの異様な強さもその儀式由来っていうことか。その儀式さえ受ければ、俺もレオに対抗することができるようになるのかな。


「どんな儀式なんだろう」

「……知らないほうがいいよ。平民は知らないことだしね。()()()()()()()、とだけ言っておく」


 ラナンは意味ありげな口ぶりで言う。


「ラナンはどうして知ってるんだ?」

「それは僕の身分に関わることだから言えない」


 なるほど。そういうことならこの話は置いておこう。


「じゃあ、質問。揺らぎってなに? 別の界っていうのもよくわからない」

「ええ……、そこからなの? 本当、一体どこから来たの」


 別の世界から来ました、と言うときっと規則違反になるんだよな。この規則、けっこうめんどくさいなあ。


 ラナンは、揺らぎや別の界という概念の説明を始めるとものすごく長くなってしまうので、夕食を食べながらにしようと提案してくれた。


 訓練所では朝昼晩、毎食きちんと食堂で提供されるらしい。といってもそう豪華なものでもおいしいものでもなく、カロリーと栄養重視で味は二の次、だいたいの訓練生はかっこむように食べるのだと言う。


「アヤトは今日はもう動かないほうがいいよ。食事を取ってくるから、ここで大人しく待ってて」

「お手数をおかけします……」


 いや、本当俺ってラナンからしたらただの厄介な奴だよ。


 いろいろ教えてくれる上に、傷の手当てと食事のことまで……もうラナンのいるほうに足を向けて寝られない。


「別にいいよ。けど、貸し一つだからね」


 いや、一つどころかこれでもう五つくらい借りている気がする。それを貸し一つと思ってくれる優しさが身に沁みる。


 にこっと笑って出かけていったラナンが、彼の容姿も相まって天使のように見えた。


3.異世界へ-後- 一部表現を変更しました(2019.12.5)。

椎葉さくら「すごーい、俺様王子とキラキラ系騎士っぽい」→「すごーい、俺様王子とチャラ男っぽい!」

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