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バスの窓に、自分の顔が映り込んでいる。
前から後ろに過ぎ去る景色。それに重なって映り込む自分の角度、色合い。何よりも背格好。その全てが、現実と遜色のない再現率だった。ついでにワープの類も存在せず、ラボまでわざわざバス移動しているあたりも、さらにリアリティを上乗せさせていた。
どうせVRならば、身長くらい調整できるようにしてほしい。そう七星は何度思ったことか。いくらスーツを着て大人っぽくなったところで、やっぱり変わることのない背丈に溜息が出る。
「急に元気がなくなったな。緊張か?」
隣に座っていた光星が、メランコリックになっていた七星を気にかける。
「いや、別に。ここまでリアルに寄せなくてもいいのにって思って」
「身長の話か?」
「な、何でわかったのっ⁉︎」
「七星の考えてることは何となくわかる。じゃあ教えてやろうか? レプリカで身長を伸ばす方法」
「そんな方法あるの⁉︎」
「ああ、あるとも。それはな……」
この先一字一句も聞き漏らしてはならないと、光星の言葉に集中する。ついでに言うと、ひっそりとボイススピーカーの感度を上げた。
そして、光星が勿体ぶった挙句に明かした答えは。
「リアルで身長を伸ばすことだ!」
「何の解決にもなってないじゃない!」
七星はそれができないから苦労しているわけで。しかし、むくれる七星をよそに光星はハッハッハと笑っている。
「本当に何でこんなにリアルそっくりなのか、意味わかんない」
「それは、ちゃんと理由がある」
「理由?」
「まあ、俺が聞いたことあるのはあくまで噂のレベルだけどな」
すると、光星は声のトーンをややシリアスに切り替えて言った。
「最終的にこのレプリカが目指すのは、『リアルとの融合』らしい」
「……どういうこと?」
七星は首を傾げる。言っていることのスケールが大きすぎるせいか、いまいちピンとこない。
「さあな、あくまでも噂レベルだから詳しいことはわからん。コントローラー要らずでレプリカに入れるようになるのかもしれないし、そうなれば面白いな、っていう願望レベルの話だろうな。今のところは」
「ふーん……」
コントローラーいらずで、レプリカに。
言っていることは理解できたが、やっぱりイメージは湧かない。漠然としている。
「さて、次で降りるぞ」
光星は、近くの手すりについていた降車ボタンを押した。
こういうところも、もっとバーチャルっぽく手元のウインドウとかで操作できればいいのに。ぼんやりと、七星は思った。