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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第1章
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5

「まず、あたしは弟子は取らない、そこはいい?」

「はい」

「だけど、あたしの言うヒーローとは何なのかについて、ざっと教えてあげる。今日のところはそれでどう?」

「わかりました」


 七星の提案に、空が力強くうなずく。


 かくして、七星による簡単なヒーロー講座が始まった。


「まず、あたしの言うヒーローってのは、サイバーヒーローズ計画におけるヒーローアバターのことを指すの。ここまではわかる?」

「はい、聞いたことはあります。要はサイバーポリスですよね?」

「実際に逮捕権があるわけじゃないんだけどね。あたし達にできるのは『レプリカ』内にいるマルウェアの除去と、犯罪者を撃退しての強制ログアウト及びアカウントの一時凍結。後はその容疑者について、警察と『レプリカ』運営へ情報提供すること。要するにヒーローの役割ってのは、主に『レプリカ』の治安維持なの」


 レプリカ。


 全国の主要都市で実験的に運用されている、実際の都市景観をコピーして構築されたバーチャル都市空間。VR対応のヘッドギアやチョーカーなどの機器を使用することで、リアルの街と同じように買い物や遊ぶことができる仮想都市である。


 柏市では柏の葉キャンパスのとある研究機関が開発に深く携わっていたこともあり、県庁所在地ではない地方都市としては異例とも言える広大なレプリカを所有している。そして、そのレプリカ警備の実動部隊として、柏で全国に先駆けて導入されたのがヒーローアバターだった。


「柏の場合、レプリカが『柏駅前レプリカ』と『柏の葉キャンパスレプリカ』の2つに分かれてるのは知ってると思うけど、ヒーローはその両方を守ってるわけ」

「質問、いいですか?」

「どうぞ」

「ヒーローが何者なのかは何となくわかりました。じゃあ、このヒーローってどういう人がなるんですか?」

「それ、いい質問」


 空の問いをきっかけに、七星の講義は次のステージに進む。


「ヒーローは警察や自衛隊の関係者が担当してると思ってる人も少なからずいるらしいんだけれど、実はそれは半分くらいはずれてて。確かに、警察も関与してはいる。でも、実際にヒーローやってる人の大半は未成年なのよ」

「未成年? どうして? それって危険じゃないんですか?」

「あくまで活動するのはVR空間の中だけだから、身体の安全性は保証されてる。で、このVR空間の中だけってところがポイントで。これはつまり、ヒーローにはVR空間に対する適応力の高さが必要になってくるってこと」


 2026年現在、VR機能は飛躍的な進化を遂げた。今では仮想空間の中でもリアルと大差なく五感を活用し、行動できるようになった。


 しかし、リアルに近づいた分だけ課題も顕在化してきた。その1つがVR内における五感や運動機能の個人差・世代間差である。


 特に世代間の差は顕著であり、20代以降は急速にVR空間への適応力が下がる傾向にあるという。一方で心身の発達段階にあり、幼少期からVR空間に触れていた現在の未成年の適応力は、20代以降のそれを大きく上回ると科学的に証明されていた。


 そこで、サイバーヒーローズ計画はその未成年のポテンシャルを最大限利用することにした。2025年、柏市内の当時17歳〜20歳の希望者を対象に、ヒーロー候補生を選抜する試験が初めて行われた。彼らのうち合格した者が現在ヒーローとして活躍する第1期生であり、それ以降半年ごとに選抜試験が実施される予定になっている。


「なるほど……それで未成年なんですね」

「そういうこと。場合によっては不審者やマルウェアを見つけたら追いかけたり捕獲したり、最悪リアルより激しい戦闘になる可能性もある。だから、どうしても高い運動能力とそれをVRで活かす適応力が必要になるの」

「そうなると、試験も厳しいんですか?」

「もちろん。ヒーロー試験は筆記に面接、それから身体能力とVRの適性検査。その4つ全てをパスしないと、合格できないの。国立大学の入試より難しいって言う人もいるくらいだし」

「大学入試より……それで、1期生の合格者って、何人くらいいたんですか?」

「まず、受験者は100人以上」

「100人」

「うち合格者は5人」

「5人……5人?」


 空は目を丸くする。そんなに少ないのか、と彼の表情が驚きを物語っていた。


「その5人って一体……?」

「それが誰なのか、全員はわからない。でも、5人のうちの1人は知ってる。その人は、あたしの兄」

「お兄さんが? すごい!」

「ちょっと自慢ぽい話になるけどね。でも、それだけじゃない」


 七星の声が、ひそひそしたものに変わる。


「先月、第2回のヒーロー試験が実施されたの。そこでまた5人がパスして、新たなヒーロー候補に選抜されたのよ」


 自慢するつもりはなかった。と言ったら、それはたぶん嘘になる。七星はきっと、一刻も早く共有したかった。だけど、見境なく自分に近い人へ自慢したら面倒だから、情報の漏れなさそうな人に、こっそりと。


「そこで選ばれた、ヒーロー候補生のうちの1人があたし、神崎七星」


 七星はパスケースからヒーロー候補生の証明書を見せた。顔写真付きの、正真正銘本物のヒーロー証明書。


 そして、空はその証明書をまじまじと見つめながら。


「七星さん」

「何?」

「僕、ヒーローになりたいです」

「おお!」

「だから、僕を弟子にしてください!」

「だが断る!」


 七星は丁重にお断りした。


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