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「ターゲット、沈黙」
そんな3人の勝ち戦を、遠くから密かに見守る者がいた。
雑居ビルの屋上。すらりとしたシルエット。しかし漆黒のボディスーツに身を包んでいる。その様は、まるで忍者のよう。
「なかなか新入りとの組み合わせもいい感じじゃないの、七星のやつ」
その正体は他でもない、ファントムこと脇谷廻である。
『しかしなぁ、もっとティンクルには魔法少女っぽい戦い方も会得してほしいもんじゃ』
そして、ボイスチャットの声の主はセレクター。廻はセレクターからティンクル&エンゼル組の偵察を頼まれていた。
「そいつはティンクルの強さを引き出す意味でか? それとも、ただのあんたの趣味か?」
『どっちもじゃな』
「随分と正直だな」
ファントムは苦笑い。それから、言葉を付け足す。
「ま、今はあれでいいんじゃねーか? またあいつはあいつなりに、ヒーローとしての強さをこれから見つけるさ」
『……ならいいんじゃがの』
「そんなわけで、マルウェアは無事退治できた。アタシも退いていいか?」
『うむ、構わんぞ。ご苦労』
ボイスチャットを切るとファントムは背を向け、姿を消す。その直前。
一瞬だけ振り返る。
その視線の先、遠くに新人ヒーローとハイタッチを交わすティンクルの姿。
「グッドラック、ヒーロー」
言い残して、ファントムは姿を消した。
そこにあるのは、リアルと瓜二つなVRの街並み。
今日もヒーローに守られた平和の中で、レプリカの営みは廻っている。
<了>