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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第3章
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17


「うわぁ、めっちゃ湧いてる」


 半年後。


 レプリカ内。柏駅西口2階の歩道橋。


 そこには、少し魔法少女姿が板についてきたようにも見えるティンクルの姿があった。


『ティンクル、数はわかるか?』

「えーっと、目視で確認できるのは3体。止まってる路線バスに口から触手を出して絡みついてる。バスの中と周囲に人の姿はなし」


 アイテムの双眼鏡で状況を見届けながら、ボイスチャット越しのシャドーへ逐一報告する。目測で約30メートル先。地上の大通りの真ん中で、ワーム型のマルウェアが暴虐の限りを尽くしている。幸い、通行人の退避は完了しているが、当然放っておくわけにはいかない。


『了解、ならば作戦通りに行くぞ。ティンクルの接敵を確認したら、俺とエンゼルも詰める。いいな?』

『承知しました!』

「オーケー! 突撃!」


 返事とほぼ同時に、2階からひらりと身を乗り出した。落下しながら帯びていたステッキを、抜刀。


 それから、意識を足元へ。MPを消費し、両脚の身体能力強化。


 魔力により落下に耐えうる耐久力と、戦場を一瞬で駆け抜ける瞬発力を手に入れた両脚。しなやかに着地すると、衝撃をそのまま推進力に転換。ティンクルは人間離れの速度でワームの群れに強襲した。


 一番手前のワーム1体に狙いを定める。そいつはバスの襲撃に忙しく、急接近するティンクルには気づいていない。


「もらった!」


 その声で、狙われていたワームはようやく反応したが、時すでに遅し。運動エネルギーを全て乗せた袈裟斬りの一撃は、たやすくワームの胴体を両断した。あっという間にHPを消し飛ばされたワームが、ポリゴンの欠片を散らして消失する。


 残りのワームも、これでティンクルの存在に気がついた。しかし、ティンクルのスピードにはきっと敵わない。2体のワームの間を縦横無尽に駆け巡る。ヒット&アウェイで攻撃を繰り返し、じわじわとワーム2体の体力を削っていく。


 これは1人でも大丈夫かもしれない。


 と、ティンクルが予感したその時。


 触手に足を取られた。


「うげっ!?」


 ティンクルは盛大にコケた。


「いたたたた……」


 痛みを感じるものの、HPの減りは大したことない。それよりも、敵陣の真ん中でスピードを失ったことのほうがまずかった。


 ものすごく嫌な予感がして、うつ伏せに倒れた体勢からティンクルは恐る恐る振り返る。


 グロテスクなワームの巨体が左右から、自分を見下ろしていた。


「……わぁお」


 その視線から強烈な敵意を感じるのは、きっと気のせいじゃない。少なくとも、見逃してくれそうな気配は皆無である。


 逃げようと動き出した瞬間に、触手で右足首を絡め取られた。ヌメヌメしたゴムのような感触が猛烈に気持ち悪い。こんなリアリティはいらないんだ、とレプリカに文句を言ってやりたいが、今はそれどころじゃない。敵は目前。襲いかかる。


 どうする?


 どう切り抜ける?


「七星さん!」


 ティンクルを捕らえていた触手が射抜かれた。


 拘束が解けたと同時に、ティンクルの周囲に防御陣が展開。間一髪のところで敵の追撃を防いだ。


「大丈夫ですか!?」


 そこに駆けつけたのは白の燕尾服にシルクハット、ティンクルのものと瓜二つなステッキを持った少年。頭上には天使の輪。背中には白い羽が生え、その羽ばたきで宙に浮かんでいる。


 ヒーローアバター・エンゼル。夏井坂空が操るヒーローアバターである。


「ありがと! でも本名で呼ぶのは禁止!」

「あっ、すいません」


 彼は晴れて、今年から憧れのヒーローとしてデビューすることになった。防御、補助系に特化したヒーローとして、早くも欠かせない戦力となっている。


 ちなみに、本人いわく「実はもっとアタッカータイプのヒーローがよかった」らしい。本人の希望を無視するセレクターのスタンスは相変わらずである。


「とりあえずはこの2体を叩かないとね」

「いえ……向こうも仲間が来ました。3体ですね」


 じわじわと効果の薄れつつある防御陣の中で、急ぎ体勢を立て直す。その間に敵も数を増やしていた。うち1体は子ワームを生み出しそうなモーションを取っている。持久戦では不利になるかもしれない。


「行こう。エンゼルはあたしについて後方支援よろしく!」

「了解です!」


 防御陣を解除して、ティンクルとエンゼルは打って出た。ティンクルがスピードを活かして切り込み、それをエンゼルの防御陣と回復、バフスキルがフォローする。何度も訓練と実戦を重ねて会得したコンビネーションだった。


 しかし、その連携もまだ完璧ではない。


 ティンクルの攻撃と、エンゼルの防御が一瞬途切れた時だった。ワームの1体が反撃に転じる。


「ティンクルさん、後ろ!」


 いち早く気づくエンゼル。だが、どちらもすぐには反応できない。


 鞭のように伸びる触手が2人に襲いかかる。


 そこに、一発の銃弾。


 針の穴を通すような狙撃で放たれた弾丸。それが、見事に触手を断ち切った。


『遅れてすまない。だが敵の増援はこちらで片付けた。あとは2人で好きに暴れろ』

「シャドーさん、流石です!」


 それからティンクルとエンゼル、一瞬のアイコンタクト。


 言葉はいらない。


 2人のヒーローは、同時に一歩を踏み出す。


 レプリカの平和を守るため。


 そして、憧れのヒーローであり続けるために。


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