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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第3章
44/46

16

 七星が、リアルに戻ってきた。


 すでに時刻は23時を過ぎている。その事実に気づいて、今更になって猛烈に腹が減ってきた。そういえば、まだ昼から何も食べていなかったっけ。


「あたしの夕飯、あるかな……?」


 部屋を出て、1階のキッチンへ。まだ明かりが点いていて、ダイニングテーブルの上にラップをかけた料理が置かれていた。それからついでにもう1つ、というか、もう1人。


「やあ、お疲れさん」


 兄の顔をした光星が座っていた。まるで、七星のことを待っていたかのように。


「……お疲れ」

「腹減ったろ? 温めといたから食っとけ」

「うん、ありがと」


 七星は光星と向かいあう席に座り、ラップを外す。ほかほかの肉じゃがとご飯。それから味噌汁。


「お兄ちゃんはさっきの事件、どこまで知ってるの?」

「ああ、お前が誘拐犯を全員やっつけたんだろ? 大金星じゃないか、おめでとう。……って、何か不満か?」

「いや……いただきます」


 どうやら、光星は真相を知らないようだった。追及はやめにして、ご飯を食べる。優しい白米の湯気が鼻腔をくすぐり、肉じゃがのほのかな甘みが口の中に広がり、味噌汁の温かさが五臓六腑に染み渡る。リアルな疲労感と空腹が、癒えていく。一方の光星は何も言わずに、そんな黙々と食べている七星をどこか嬉しそうに眺めていた。


「……何よ?」

「いや、美味しそうに食うなー、と思って」

「あんま見ないでよ」

「難しい年頃だなあ、七星は」


 やかましいわと思いつつ、そこから先は食べることに集中した。それでも光星を追い出さなかったのは、話したいことがあったから。そもそも光星がここにいるのも、それを察してのことだろう。


 残さず完食して、ひと息ついたところで光星がお茶を出してくれた。でも、光星からは何も言わない。だから、七星から切り出した。


「今日、あれからいろいろ考えた。お兄ちゃんとか、アンチアバターとかと戦ってたときもずっと。もう考えっぱなしだった気がする」

「そうか」

「それで、ようやくわかってきた気がする。自分にとって、ヒーローとは何なのか」


 ヒーロー。


 それは、自分にとって大切なものを守るもの。


 それは家族だったり、友達だったり、自分の住む街だったり。だけど、本当にヒーローであり続けたいなら、自分が一番守るべきものは——ヒーローに憧れ続ける心。


 それさえあれば、見た目なんて関係ない。


 見た目で笑うやつがいれば、笑い飛ばしてやればいい。ヒーローの強さを、見せつけてやればいい。そうすれば、きっと誰かが応援してくれる。


 だから、そのためには。


「あたし、もっと強くなりたい。自分が好きなヒーローであり続けるために、ヒーローとして、強くなりたい」

「ヒーロー、続けるんだな?」


 光星が改めて訊くと、七星は力強い意志を持ってうなずいた。


 光星は立ち上がり、右手を差し出す。口元は笑っているが、眼差しは鋭く光る。ヒーローの顔だった。


「これからはもっと厳しくいくぞ、いいな?」

「もちろん!」


 そして、七星は差し出した手を強く握る。


 この日、神崎七星は本当の意味でヒーローとしての第一歩を踏み出した。


 星屑の魔法少女『ティンクル』とともに。


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