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「随分と、こっぴどくやられたようじゃの」
そこは、2人きりの和室だった。
開け放たれた障子の向こうに、純和風の日本庭園を眺む。季節は秋。時刻は22時を過ぎているはずなのに、そこには昼下がりの秋晴れが広がっている。リアルと遜色ない爽やかな風が吹き込んで、縁側に真っ赤な紅葉が舞い落ちた。
「こっぴどく、ってのは語弊だな。割といい勝負だったんだぜ? もう紙一重さ」
「ほぉー? まあ構わん、今回はそういうことにしておこうかの」
言葉を交わす2人の身なりは、実にアンバランスだった。
1人は小学生で通じそうな小柄な身体。白衣を着てちょこんと正座する金髪ツインテールのメガネ女子。
もう1人は同じ金髪でも後ろに束ね、170センチはありそうな背丈。パーカーにホットパンツという装いで、どかっと胡座をかくヤンキー女子。
まるで不釣り合いな2人が、ちゃぶ台を挟み向かい合っている。
お察しの通り、脇谷廻とセレクターである。
「じゃが、今回の問題はそこじゃない。ティンクルのことで、少々出過ぎてはなかったか? あやつの監視は頼んでも狂言誘拐までしろとは言っとらんぞ、諜報員『ファントム』よ」
だが、セレクターは別の名前で呼んだ。
ファントム。
それこそが、廻のヒーローアバターに与えられた名前だった。
『幻影』の名が示す通り、彼女の存在は表向きには知られていない。同じヒーローの間でも、ファントムの存在を知るのはほんのひと握りである。
言わば、ファントムは「影のヒーロー」だった。
「だけど、あんたもそう言いながら機転を利かせて話に乗ってくれた。助かったぜ」
「……ふん」
セレクターが、不服そうに茶をすする。
「確かに、ちょっと目立ち過ぎたなー、ってアタシも途中で思ったさ。そこは反省してるぜ、マジで。でも、アイツのことはこれ以上放っておけなくてよ」
「ほう。その心は?」
「七星のヒーローに憧れるとこ、リアルでも見てきたからな。その気持ちを、簡単に捨ててほしくなかったんだよ。それだけだ」
「なるほど……」
見た目にそぐわないセレクターの老成した眼差しが、廻を見据えた。
「お主も、陽の当たるヒーローに憧れたか?」
「…………さあね」
廻はどこか含みのある笑みを見せた。
「さて、他に用がないなら行くぞ?」
背を向け立ち上がろうとした廻を、セレクターは「まあ待て」と制す。
「一つ、新しい仕事がある。頼めるか?」
「ふん、どうせ拒否権なんてねーんだろ」
再び、廻はどかっと胡座をかいた。
「話、聞くぜ」




