表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第1章
4/46

4





 不良達を打ちのめした現場から早々に離れ、2人は周囲を警戒しつつ駅から近いコメダ珈琲に入る。少年がお礼をしたいということで、まだ時間もあるのでご馳走になった。実際のところ、七星は何度か断ったのだが彼はどうしてもと譲らず、結局七星が折れた形である。


 そんな意外と押しの強い少年は、名前を夏井坂空なついざか そらと言った。


「……えっと、神崎さん、でしたよね?」

「神崎七星。七星でいいよ。君のことは……空って呼べばいい?」

「はい、大丈夫です」


 空の話には、まだ固さを感じる。初対面だから無理もないが、元々の性格が生真面目なようにも見えた。小柄でまだあどけなさが残る、空の全体像。しかし、対面してみると第一印象よりもきりっとした顔立ちに見えた。真っ黒な瞳に、真っ直ぐな意思を感じる。


「失礼します、ホットのミルクコーヒーでお待ちのお客様」


 淡い香りと湯気の立つミルクコーヒーが、2人の前に置かれる。10月も半ばを過ぎて、暖かい飲み物が美味しい季節になってきた。


「改めて、さっきはありがとうございました」

「いいのよ、お互い怪我はなかったんだし。こちらこそ、コーヒーありがとね」


 挨拶もそこそこに、七星は早速気になる質問を投げかけた。


「で、それよりも、どうしてあんな奴らに絡まれたのよ?」

「それは……」


 空の口調が、歯切れの悪いものに変わる。


「ああ、なんかごめん。話したくないなら、無理に話さなくていいから」

「いや、そんなことないです! ただ、ちょっとかっこ悪い話なんで……笑わないでくださいね?」


 空は若干泳ぎ気味な目のまま、事件の経緯を話し始めた。


「実はあれ、最初に絡まれてたのは僕ではなかったんです」

「ほぅ……というと、別にもう1人被害者がいたってこと? 空の友達?」

「いえ、全く見ず知らずの他人でした」

「んん? てことはつまり?」

「状況としては、最初に七星さんが僕に会った時と同じです。ある女の子があの3人組に絡まれていて、逃がすところまではできたんですが……さらにその先の状況を打破する力が、僕にはありませんでした。それで囲まれて、万策尽きたところにやってきたのが七星さんだったんです」


 なるほど。ようやく話が見えてきた。


 同時に、七星は空に感心した。


 彼は、ただの一方的な被害者ではなかった。結果はどうあれ、誰かを守るために戦ったんだ。


 そんな彼の心は、まさにヒーローと呼ぶに相応しい。笑うだなんてとんでもない。自分も、見習わないといけない。


「何だか、カッコ悪いですよね。自分から突っ込んでおいて自滅なんて……」

「いや、あんたすごいわ」

「へっ?」

「他人を助けるために自分の身を顧みないで動くなんて、そうそうできることじゃないわよ。大抵はみんな、見て見ぬ振りをするんだから」

「……見て見ぬ振り、ですか」

「そう。そういう人、結構多いよ。だから空が困っている人を見捨てなかったということは、誇るべきことだと思う。もっと、自信持っていいんだよ」


 しかし、まだ空は煮え切らない表情を浮かべている。口をつけていないコーヒーの湯気が、徐々に薄くなっていく。


「……自分は、ずっと強い男を目指していました」


 言葉を丁寧に拾い集めるようにして、空は口を開いた。


「いざという時に大切な人や困っている人を助けられる男に、僕はなりたかったんです。だけど、僕は弱い。身体は小さいし、ずば抜けた運動センスもない。これじゃあ、誰も守れない。今までそう考えていました」


 だんだん、空の話す言葉に熱がこもってくる。


「でも、さっきの七星さんの戦いぶりを見て、思いました。身体の小ささとか、運動センスとか、そういうのは甘えだって。僕みたいなチビでも、大きな相手に工夫次第で戦えるんだって」


 ここまで話して、話しているうちに熱くなった空は、温くなったミルクコーヒーをぐいっと呷った。まるで風呂上がりの牛乳のように飲み干したカップの中身は、一滴残らず空になる。


「そこで、1つお願いがあるんです」

「……何かな?」

「七星さんって、『ヒーロー』なんですよね?」

「う、うん」


 ひしひしと感じる熱意に、七星は気圧される。不良グループとの対峙よりも強く、環との試合にも並びそうな迫力。


「ならば——」


 そして、ぐつぐつと内側で煮詰まっていた彼の情熱が、爆発した。


「僕を、弟子にしてください!」


 周囲の客や店員が振り返るような大声で、空は懇願した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ