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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第3章
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11

 最初から、何かおかしいと思っていた。


 出動に七星を指名してきたこと。


 空に目立った傷や抵抗の形跡が見られなかったこと。


 そして剣を交えて気づいた、覚えのある太刀筋。


「――と、ここまでの間にそんな話があったわけだ。理解したか七星?」


 真相が明かされて、散らばっていた疑問がパズルのようにしっくりと嵌り、繋がった。


 要するに、最初から仕組まれていたわけだ。


「……やけに空も大人しいと思ったら、全部わかってたわけね」

「……」


 空はステージで倒れた状態のまま、何も言わない。


「もういい」


 ティンクルは、刀を収めた。どうにも馬鹿にされたような気分になって、それからどうでもよくなった。すると、ティンクルの姿がメッキのように剥がれ落ちて、普段の七星に変化する。


 意味の無い戦いに、いちいち付き合う義理はない。


 くだらない。実にくだらない。


 シャドーとの戦いに、廻との戦い。それらが全部、仕組まれた勝負にしか思えなくなった。自分は他者に踊らされ、おだてられ、調子に乗っていただけだった。


 何がヒーローだ。傍から見て、これほど格好悪いものはない。


「おい」


 呼び止めるとほぼ同時、廻の剣先が喉元に突きつけられた。


「逃げんのか?」

「……斬れば?」


 一瞬だけ、廻の戸惑いが垣間見えた。


 七星は動じる様子がない。だがそれは堂々としているわけではなく、抜け殻になっているだけだ。


「あたしがここにいることで、何が救われるの? あたしは、ヒーローは、何を救えばいいの? そもそもあたしに、誰かを救う資格はあるの?」


 廻と対峙する、七星の瞳は空っぽ。そこに夢も、希望も、信念もない。


「あたしがここにいる意味はない。ヒーローとして、在り続ける意味はない」

「意味がないわけがない!」


 答えたのは、廻の声ではなかった。今までずっと黙っていた、空の声だった。


「ここには、七星さんに救われた人がいるんです。それは他でもない、僕のことです。そして、今七星さんが救うべき人も、ここにいます」

「どこにいるの? そんな人、どこにもいない――」

「あなたのことですよ、七星さん!」


 空が、声を張り上げた。


「初めて会った時、僕を助けてくれた七星さんは最高にかっこよかった。あの時の七星さんは、間違いなくヒーローだった。だから僕は、取り戻してほしかったんです! 七星さんの、ヒーローとしての自信を! 魔法少女だって何だって関係ない! 七星さんが僕のヒーローであることに、変わりはないんです!」


 空が、突き抜けるような勢いの言葉でまくし立てる。


「ヒーローとして、まずは自分自身を救ってください! 七星さん!」


 七星の心の、奥深く。


 いや、電子の世界に心なんてないのかもしれない。しかし、心と言わなければ説明がつかない部分。そこに流れる。空の言葉を介して届く。情報化された電気信号。


 言うなればそれは、0と1の羅列。だが、それが突き動かすのだ。世界をシャットアウトしていた七星の感情を。今、ここで。


 昔、AIの教官が言っていた。やはり、心という存在はデジタルに近い存在なのかもしれない。どちらも、リアルで形のないもの。それでも人間とその営みに与える影響は絶大で、大きなパワーを秘めているもの。


 その大きなパワーが、意識の底から引き上げる。


 神崎七星を。ティンクルを。


 沈んでいたヒーローの「心」を。


「……っ!?」


 ヤバい。


 本能で咄嗟に感知して、廻は飛び退いた。一瞬遅れて、星屑のエフェクトが火柱のように噴き上がる。七星を包む。ティンクルの復活。


 ステータスが、魔力を示すMPを筆頭に急激な上昇を見せている。本人は気づいていないかもしれないが、ティンクルの全身は淡い燐光に包まれていた。


「ハッ! やっぱそう来なくっちゃな……七星!」


 廻が再び顔のプロテクターを装備する。2人の間で渦巻いていた情報の密度が急激に跳ね上がり、再び闘いの火蓋は切って落とされた。


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