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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第3章
37/46

9

「それって……あんたは一体……?」


 ティンクルの問いに、相手は答えない。その代わり、瞬速で斬り掛かる。日本刀の鈍色。弧を描く。


 しなやかな、流れるような斬撃。それなのに、ずっしりと重い一撃。それが続けざま、畳み掛ける連撃でティンクルに襲いかかる。


「ぐっ……!」


 ティンクルは受け止めるのが精一杯で、一気にライブハウスの壁際まで追い詰められた。どうにか回り込んで壁際を避けても、再び押し込まれる展開の繰り返し。明らかな劣勢。すぐには埋められなさそうなアバターの能力差を、肌で感じる。さっきまで戦った3人とは、まるで格が違った。


 しかし、ティンクルの力の差を、神崎七星の剣道で培った技術でカバーする。どうにか攻撃は届かせず、全てを防御し、躱し、受け流す。


 正面に強い一撃。


 バランスを崩し、ティンクルの刀が手から離れた。


 とっさに、落ちていた金属パイプを掴む。さっき破壊された、ベンチの残骸。


 止めを刺そうとした次の一撃を、片手で持ったそれで間一髪受け止めた。


「ちっ……!」


 肉薄した敵から、短く舌打ちしたのが聞こえた。前蹴りで突き放す。すぐに足元の刀を拾い、ひしゃげたベンチの一部を投げ捨てる。耐久力がマイナスになった残骸は、床に転がった瞬間にポリゴン片となって霧散した。


 互いに刀を突きつけ、膠着。ちょうど、刀の先端が触れ合う一足一刀の間合い。そこから火花が散りそうな空気。一触即発。


 空気に強烈なデジャヴを感じる。


 剣道場の空気だ。


 動いた。


 相手は面を狙ってくる。畳み掛けてくる積極的な攻め。それを全て捌き、躱してティンクルは好機を伺う。流れるように仕掛けてくる攻撃の中から、ほんの僅かな綻びを探し出す。


 綻びは、焦りとか怒りとか、僅かな心の揺れ動きから生まれる。今のティンクルには、それがよく見えた。この瞬間、戦いの感覚が冴え渡っていた。


 なぜならティンクルは、神崎七星は、ヒーローだから。


 面が来る。


 これまでよりもやや大振りな面。そこに生まれる、コンマ数秒の隙。


 狙いすました。頭の中に一瞬だけよぎったイメージの通りに、太刀筋をなぞる。


 抜き胴、一閃。


「っっ……!!」


 わかった。


 一瞬、よろめく相手。しかし、ティンクルは止めを刺さない。その代わり、言葉で核心に迫る。



「あんた、めぐりでしょ?」



 目の前にいる『unknown』は何も言わない。


「物的証拠なんてないし、あたしはそもそも探偵になりたいわけじゃない。だけど、あたしにはわかる」


 しかし、取り巻く空気が少し変わったように感じられる。


「何度も、リアルで戦ってるからわかった」


 力と速さを兼ね備えた戦闘スタイル。


 畳み掛けるような攻撃パターン。


 やや大振りでも、隙の少ない一撃。


 そして、後半に苛立ちや焦りが出ると隙を見せ始める弱点も、それらはまさしく。


「リアルの廻と、同じ太刀筋だから」


『unknown』は何も言わない。が、顔のプロテクターを解除した。


「やれやれ、もうちょい隠せると思ったんだがなー」


 後ろで束ねた、鮮やかな金髪が揺らめいた。


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