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その声の主は、他でもないセレクターだった。完全燃焼した戦いの余韻に水を差され、何か苦いものを口に入れたような表情になる七星。
室内全体に反響した声が完全に消えた頃、部屋の中に突如現れるホログラム。それはすぐに変化して、色と質感の伴う実体となって出現した。
メガネと金髪ツインテール。七星よりも小柄な体躯と不釣り合いに丈の長い白衣。見間違いようのない、セレクターの姿である。
「いやー、いいものを見せてもらったのう……しかし、七星の顔は随分と不服そうじゃの?」
「あんた、何のつもりよ……?」
身構える七星に対し、セレクターは平然と言った。
「ティンクルに、出動を命ずる」
「…………は?」
「お主に、解決してほしい事件がある」
解決?
事件?
まだ残っていたシャドーとの戦いの余熱が、一気に冷めていく。
「あたしは……行けない」
いくらシャドーに勝てたって、ヒーローアバターで戦うヒントを得たって、過去は覆らない。後悔は消えない。
自分勝手に空を傷つけてしまった。その事実は七星の中に確かなものとして残っている。
しかし、セレクターはそんな七星の心情を見透かしたかのように。
「じゃが、次の出動に関わっているのが彼だとしたら、どうする?」
セレクターの隣に浮かび上がるホログラム。映し出された顔と名前には、見覚えがある。
夏井坂空。
「どうして!? 彼に何が!?」
驚きを隠せない七星に、セレクターが淡々と状況を説明する。
「彼は何者かに誘拐された。事件の発覚は、犯人から直接かかった電話からじゃ」
「犯人から直接? もしかして、犯人から何か要求が……?」
「その通り。そして、その要求とは……神崎七星、お主じゃ」
「それって、もしかして……!」
「詳しい事情はわからん。じゃが間違いなく言えることは、お主抜きでは絶対に解決できん事件だということじゃな」
心当たりはあった。でも確証はない。真実を確かめるなら、事件の現場に行かなくては。
「現場は、事件の現場はどこなの!? 彼は今どこに!?」
「落ち着け、七星」
そこで口を挟んだのは、セレクターが来てからは沈黙を貫いていた光星だった。
「現場に行く前に、渡したい物がある」
光星のアイテムボックスから、七星に送られたギフト。光に包まれたプレゼントボックスが、七星の手元に。
「今回の勝負で勝ったら、渡そうとしていた物だ」
渡されたのは、ティンクル用のステッキだった。カラフルなデコレーションは相変わらず。しかし、ステッキの棒の部分は一回りほど太く、今までよりも重みを感じる。そして、何よりステッキを握ったその感触がしっくりきた。これはまるで。
「ま、そいつを用意したのはワシじゃがな。そんなわけで、後はワシから説明しよう」
再び、セレクターは得意気に話し始める。だが七星も今回ばかりは文句を言わず、耳を傾けた。
「見た目こそ変わらんが、この新型には大きな違いがある。それは——」