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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第3章
33/46

5

 その瞳には、強さが宿っていた。


 どっしりとした、一本太い軸を真ん中に据えたような強さ。


「OKだ。なら、この不利な状況をまずは切り抜けてみろ」


 すると、すぐ横に転がっていたステッキをシャドーは蹴り飛ばした。数メートル先に離れていく。


 使える武器がなくなったところでシャドーの手が迫る。それは、獲物の喉笛に嚙みつこうとする毒蛇の顎にも見える。


 でも、その動きはティンクルの眼にしっかりと捉えることができた。さっきまで速すぎて全く見えなかった、シャドーの動きが自分でも驚くほどに見えていた。今までの自分は、一体どれだけアバターに縛られていたのか。


 今まさにティンクルの頸動脈に飛びかかろうとした、その手首を払いのけた。わずかにシャドーが重心を崩したところで、ティンクルは包囲を抜け出す。体制を立て直しながら、一度は手放したステッキを再び拾い上げた。エリアの中央に舞い戻り、それを強く握りしめる。


 逃すまい、とすかさずシャドーが数メートルの距離を一気に詰める。本当に魂を刈り取りそうな、死神の如き静かなる気迫。


 鎌を振るかのように、跳び蹴りが飛んでくる。詰めた勢いをそのまま片足に乗せて放つ、強力な一撃。


 あと3メートル。


 ティンクルはステッキを正面に構えた。


 2メートル。


 右足を半歩前に出し、左足の踵を浮かせて。


 1メートル。


 左手で握り、右手は添えるだけ。


 肉薄の刹那。トロイの木馬と戦った場面と重なる。


 あれと同じシチュエーション。だが、あの時は必要に迫られてのなし崩し的戦法。ただのやけっぱちだった。


 今は違う。確固たる信念を持って、ティンクルはここに立っている。この戦い方を選んでいる。


 衝突。


 視覚がおかしくなりそうなほどの、まぶしい閃光と火花のエフェクトが目の前で弾けた。爆散する衝撃波。痺れる腕。鋭く破裂する金属音。


 手加減ではないインパクトを肌で感じながらも、ティンクルはステッキ一本で防ぎ、持ち堪えた。


 ダメージが入ってないと見るや、そこから絶え間なく肉弾戦に持ち込むシャドー。魔法少女なら本来苦手な近距離戦。しかし、ここにいるのはただの魔法少女じゃない。神崎七星だ。


 1発、2発、3発。もはや目で見るより先に身体が動いて、俊速で展開される攻撃を捌く。


 コンマ数秒、フレーム単位の戦い。その一瞬一瞬で打ち合う度に、研ぎ澄まされる神経。防戦一方に見えるかもしれない。だが、確実にティンクルに宿る七星の感覚は「掴みかけて」いた。


 七星には、いつの間にかこの場所が剣道の試合場に見えていた。


 真っ白な空間に、観客が見える。3人の旗を持つ審判が立っている。床は木造で、2人を中心に大きな白い正方形が縁取っている。手に持つのは、ステッキではなく竹刀。


 ここは、自分のホームグラウンドだ。


 だったら、負けるはずはないのだ。


 シャドーから放たれる連続攻撃。その一瞬に、見つけた綻び。少し、攻撃が大振りになる。


 その一発を狙って、七星は攻撃を受け流した。下から上へ。


「くっ!」


 上体が逸れる。わずかな隙で、胴が空く。


 剣道で小柄な人が大きな相手と対峙する時。狙い目となるのは小手と、胴である。


 七星の攻撃が、残像で弧を描く。


 横一文字に、シャドーの身体を捉えた。ど真ん中。コンマ数秒、遅れて光が迸る。白い光。会心の一撃を示すダメージエフェクト。


 切り抜けて、すぐに振り返る。シャドーは数メートル先で立ったまま。それから、時が止まったような静寂がやってきた。シャドーもまた、ゆっくりと振り返る。そこに攻撃の意思は見えない。そして、シャドーは変身が解けて光星の姿に戻った。


 彼は剣先を突きつけたままの七星に一言。


「お見事」


 初めは言葉の意味が理解できず、後から戦いが終わったんだと悟り、そこからじわじわと実感が沸いた。


「お前の勝ちだ、ティンクル……いや、七星」


 勝った?


 勝った。


「勝った……!」


 どっと疲れが出た。同時に、変身が解ける。トレーニングエリアだから、目に見える数値では何の変化もない。しかし、目に見えない部分で七星はギリギリだった。


 だけど、そのギリギリの中で見えたものはあった。ようやくヒーローアバターの、ティンクルの本質を掴むことができそうな――


『良い! 実に良い戦いぶりであったぞお主ら!』


 そこへ、唐突に聞き覚えのある声が響きわたった。


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