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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第3章
32/46

4


「どうした? もう終わりか?」

「くっ……!」


 気合い充分で突撃した七星だったが、あっという間に跳ね返された。


 ガンナーとしての戦いが主なシャドーだが、接近戦も普通に強かった。そして、全く手加減してくる気配はない。実戦そのものである。


 身体がふらつく。トレーニングエリアでは体力ゲージが存在しない。表面上アバターに与えられるダメージは0だが、痛覚までは軽減されても遮断されることはない。確実に精神的ダメージは蓄積されていく。


「ティンクルに変身したらどうだ?」


 七星は何も言わない。


「できないのか?」


 やっぱり七星は何も言わない。が、肩がびくっと震えた。


「自分の思っていたヒーロー像と違ってがっかりか? 魔法少女は、恥ずかしいか?」


 七星の心、触れて欲しくないところを的確に射抜いてくる。それこそまさに、狙撃手のように。


 それを振り払うかの如く、七星は再び立ち上がって光星に飛びかかった。


「無駄だ」


 シャドーが七星の振り下ろした拳を払い落とす。


 バランスを崩したところにワンツーで拳を叩き込む。


 よろめいたところに、とどめのミドルキック。


 再び、七星は1発の攻撃も与えられずに壁際まで弾き飛ばされた。


 やっぱり、強い。


「変身しろ、七星」


 エリアの真ん中に立つシャドーが言う。


「今のままじゃ、勝負にもならない」


 全くもって、シャドーの言う通りだった。


 あくまでも、『アバターβ』はヒーロー候補生の訓練用アバターである。生身より強化されるとはいえ、個人専用のヒーローアバターと比べたら基本的な能力は大きく劣る。


 ボコボコにされる悔しさと、変身することの一瞬の恥ずかしさ。その2つを天秤にかけて、ようやく七星は意を決した。


「……ミラクルティンクルチェーンジ!」


 無数の星のエフェクトに包まれ、七星はティンクルに変身する。教えられていた最後の目元Vサインとウィンクはやらない。そんなの、やってられるか。


 再び、ティンクルは立ち上がる。殴られて残ったビリビリとした痛みは、まだ全身に響いている。これがリアルだったら、肋骨の1、2本は折れていたかもしれない。


「ようやく本気になったか、長かったな。……ならば、こっちも全力でいこう」

「えっ――?」


 コンマ数秒の世界の中。気づけばシャドーは、壁際にいたティンクルまでの数メートルを一気に詰めていた。反射に近い動きで、横っ跳びに回避。さっきまでティンクルがいた場所で、シャドーの拳が空を裂く。


 間合いを取り、光弾を放とうとしてステッキを構える。しかし、そんな隙も見逃さずにシャドーは容赦なく間合いを詰めてきた。


 速い、と七星は思った。


「遅い」と光星は言った。


 左右から襲いかかる拳。逃げ切れない。


 1発、2発、3発。躊躇なくサンドバッグにされ、またしても壁際まで飛ばされる。


「俺が武器もない状態で、こんなに強いとは思わなかったか?」


 問いかけながら、シャドーが歩み寄る。ティンクルは鈍い痛みに支配され、まだ床に崩れ落ちたままその場から動けない。


「俺のヒーローアバターは、知っての通り遠距離攻撃向きだ。だが、それは俺の望んだ攻撃スタイルじゃない」


 話しながら、シャドーはティンクルの目の前で立ち止まる。


「俺は、格闘スタイルで闘いたかった。俺達が子供の頃に見て憧れたヒーローのように、拳や刃を交えた熱い戦いがしたかった」

「それは……」


 それは、七星が思うことと全く同じ。


 七星と光星は、同じヒーローに憧れてここまで来た。見てきたものが同じなんだから、当然だ。


 それじゃあ、今のこの違いは何なのか。


「だから、俺は自力で格闘スキルを高めることにした。生身の身体を鍛え、格闘技について学び、アバターのスキルに囚われない戦い方を目指した。その結果が、今だ」


 シャドーが光星が、ティンクルを七星を見下ろしている。その視線が、問いかけている。


 お前はどうなんだ、と。


「ヒーローアバターに、頼り過ぎるな」


 シャドーは、淡々と言う。


「だがそれは、言い換えればヒーローアバターに縛られる必要はないということでもある」

「ヒーローアバターに……縛られる……」


 痛みが和らいできた。ゆっくりと起き上がり両手、両足をまじまじと見つめる。


 セレクターから不本意ながら授かった、魔法少女型ヒーローアバター。七星の追い求めていたものとは真逆な、可愛らしさと女の子らしさを前面に押し出した姿。


 自分はそのイメージに、囚われ過ぎていたのか。


 もっと、自分のヒーローを追い求めてもいいのか。自由に戦っていいのか。


 たとえ見た目が、魔法少女だったとしても。


「もう降参するか、ティンクル?」

「いや……まだまだ……!」


 ティンクルは、きりっとシャドーを睨みつけた。


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