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まるで、超新星爆発を目の当たりにしたような。そんな、まぶしすぎる光に包まれる。
「ひゃっ⁉︎」
不意打ちで変な声が出た。
同時に、重力を感じた。
続いて、背中が何かにぶつかった。そのままの勢いで後頭部にも衝撃。鈍い痛み。
「いたたたた……まぶし……」
夢心地から引き戻す、リアルに限りなく近い痛覚。しかし、それでもまだ視覚は真っ白なまま元に戻らない。真っ暗な部屋の中で、いきなり明かりをつけられたときのアレに似ている。
「おはよう、七星」
七星が手探りで身を起こそうとしたら、声をかけられた。聞き慣れたどころか、毎日聞いている声。七星にとって、一番身近な声。
半覚醒状態だった五感にスイッチが入る。ただ真っ白なだけだった視界が明瞭になる。
「目が覚めたか?」
そこで、初めて今自分のいる場所がさっきまでの公園でないことに気がついた。同時に、ここは過去にも来たことある場所だということにも。
四方を壁に囲まれた、彩りのない空白の室内空間。広さはちょうど、学校の剣道場くらいだろうか。
「ここはヒーローアバターのトレーニングエリアだ。七星なら、言わなくても気づいたか?」
忘れもしない。最初に魔法少女に変身して、半強制的に放り込まれた場所。あの時、この空間にいたのは「さーや」とかいう魔法少女だった。
だが、今そこにいるのは、光星だ。
「ここに連れて来たのは……セレクター?」
「そうだな。だがここにセレクターはいない。俺と七星だけだ」
やっぱり一枚噛んでたか、あの厄介AIめ。
薄々、七星の中でそんな予感はあった。アバター1体を丸々別空間に転移させられるほどの特権を持っているのは、七星の知る限りではセレクターくらいしか思い当たらない。
「さて、そろそろ本題だ」
「……あたしのこと、説得する気?」
「辞めるか、ヒーローを?」
「う……」
自分が言おうとしていたことを、先に言われてしまった。なんとも言えない居心地の悪さを感じる。同時に、決意が揺れる。自分はやっぱり弱いと思う。
「どうしても辞めたいなら、止めやしないさ。中途半端な気持ちで続けられても、迷惑なだけだからな」
七星は、奥歯を強く噛んだ。光星は、よく知っている。神崎七星の、感情の揺さぶり方を。
「だが、中途半端な気持ちで辞められるのも、俺としては迷惑だ。未練たらたらな気持ちを家に持ち込まれたら、空気が悪くなる」
「……じゃあ、結局どっちなのよ?」
すると、光星は提案する。
「勝負しよう。それで、白黒はっきりさせよう」
「勝負?」
「俺と1対1の勝負だ。勝敗条件は双方どちらかが降参するまで。制限時間はなし。七星が勝てたら、俺はお前の進退について一切口を挟まない。だが俺が勝ったら、ヒーローとしての七星の今後については俺が決める。もちろん、セレクターへ異議を唱えるのも一切NGだ」
「そんなの……」
七星が言い澱む。しかし、そこへすぐに光星の言葉が畳み掛ける。
「まさか、勝負しない? 逃げるのか?」
逃げる。
煽りだとわかっている。頭では理解している。
「お前が憧れてたヒーローって、そんなもんだったのか?」
七星の脳裏で、ぴりっと電流のような何かが弾けた。
「七星が好きなヒーローは、ここで敵に背を向けるのか?」
例え、それが挑発だとわかっていても。
「身長だけじゃなくて、気持ちまで小さかったとはな」
そこまで言われて黙っていられる七星ではなかった。
「……やってやろうじゃないの!」
ついに、七星が吠えた。
「お兄ちゃんだからって容赦しないんだから! あたしをその気にさせたこと、後悔させてやる!」
「そうこなくっちゃな……——変身」
光星の足元から伸びた、まるでDNAを模したような螺旋状のエフェクトが彼を包み込む。たちまち、光星の姿はヒーローアバター『シャドー』へと変貌した。
変身しただけで、矢のような鋭い威圧感が刺さる。一瞬怯みそうになりながらも、七星はあることに気づく。
武器がない。
これまで多くのマルウェアやアンチアバターを駆逐してきた、サブマシンガンにスナイパーライフル。そのどちらも、光星は装備していなかった。
「素手で戦うの?」
「ああ、今のティンクル相手なら素手でも充分だろう」
再びカチンときた。随分と舐められたもんである。
「だったら……変身!」
七星もヒーローアバターへと姿を変える。全身が光に包まれる。だが、それはティンクルへの変身ではない。
まるでマネキンにプロテクターを装備しただけの、白く味気ない簡素なデザイン。
「久しぶりに見たな、そいつは」
それは、ヒーロー候補生に必ず与えられる練習用アバター『アバターβ』だった。
「そっちが素手なら、これで充分よ」
「おいおい、舐めてもらっちゃ困るぞ?」
「それは……こっちの台詞!」
アバターβに変身した七星は、シャドーの真正面から飛び込かかった。




