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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第1章
3/46

3


 ヒーローたるもの、困っている人は助けなければならない。


 そして、そんなヒーローの資質を試されるようなシチュエーションが、向こうからやってきた。


 場所は、学校から帰宅途中の通学路。小さな公園の片隅。地元民でなければ見逃してしまいそうなロケーション。


 そこで、小さな少年が不良に絡まれていた。


「てめぇ、タダで済むと思ってんのか? あぁ?」

「こりゃタダじゃ済まねえなー、ボスのこと怒らせちまったんだもんなー!」

「半殺しは覚悟しといた方がいいぜ、ボウズ!」


 少年が1人に対して、ガラの悪い男子高校生3人がイキっている。誰がどう見ても、弱い者いじめの構図。


 見かけた以上、放っておくわけにはいかない。


 なぜなら、神崎七星はヒーローだから。


 公園の敷地に入る。七星は迷いのない歩調で、不良の背中に近づいていく。邪魔な防具袋は近くのベンチに置いて、竹刀袋は持ったまま口の紐を緩めておく。


「あんたら、何してんの?」

「ああ?」


 ぎろり、と3人分の鋭い視線が七星に集中した。しかし、七星は怯まない。それどころか、さらに1歩詰める。


「何してんだ、って聞いてんのよ。このチキン野郎共」


 空気が固まった。七星に向く殺気の密度がぐんと濃くなって、蚊帳の外になった少年の顔は青ざめていた。少年の口が小さく「ヤバいヤバい」と動く。


「おいおいおい、可愛いお嬢ちゃんが何のつもりだぁ?」

「おぅ、あんまり調子こいたこと言ってっと、女だからって無事には帰さねえぞ?」

「誰に向かって口聞いてんのかわかってんのか、このチビ」


 カチン、ときた。


「……言ったな?」

「あ?」


 何を言われても、七星は動じないつもりだった。あくまで、相手から手を出してきたら抵抗する。最初はそのはずだった。


 しかし、最後の一言だけは聞き捨てならなかった。


「チビって……言ったなあああ⁉︎」


 考えるより先に手が出た。真っ直ぐ伸びた突き。鳩尾あたりにめり込んだ竹刀袋。声を失う、チビ呼ばわりした不良。


「あ……やっちゃった」


 我に返った七星の、気の抜けたつぶやきと同時に悶絶して倒れ伏す男。


「ボス⁉︎ 大丈夫っすか⁉︎」

「てめえやりやがったな!」


 残り2人。うち1人が仇を討とうと殴りかかる。


 しかし、意外と喧嘩には慣れていないのかもしれない。放ったパンチは大振りで隙が多い。こうなったらやるしかない。七星は気持ちと姿勢をすぐに切り替えて、その懐に潜り込む。


 イメージはできた。練習試合で、廻から奪った1本目と同じ。いや、ガードが甘い分、廻よりもずっと容易い。攻撃が止まって見える。袋に入ったままの剣先が、相手の急所に吸い込まれていく。


 抜き胴。身体の中心を鋭く抉る一撃。


「がっ……⁉︎」


 振りかぶった腕は空を切り、そのまま2人目の身体が地面に崩れ落ちた。


 あと1人。


「ふざけやがって!」


 最後の1人が、ポケットに右手を突っ込んで何かを取り出した。その手元には、鈍色に光る刃物。サバイバルナイフだろうか。


「これくらい、ハンデでも何でもないだろ? お前だって武器があるんだ、これで平等だよなあ⁉︎」


 七星が何か言う前から、言い訳を並べ始める不良の残党。喋れば喋るほど、ダサさが上乗せされていく。黙っていればいいのに。


「おい、なんか言えよ!」


 すると、七星は袋に入れたままだった竹刀を取り出した。抜け殻になった袋は足下に落ちて、中段の構え。竹刀の先が、喉元に狙いを定める。


「……ここで大人しく逃げたら、見逃してあげるけど」

「っ、ざけんなっ!」


 ナイフを振りかぶった。しかし、見た目の勢いほどの殺気は感じない。きっと、本気で切りつける覚悟は、彼にはない。


 七星は冷静に分析する。その後で七星の剣が静かに、流れるように動いた。


 捉えた。右手首。


「がっ⁉︎」


 苦痛の声と共に、ナイフが落ちる。それを七星は手の届かないところまで蹴り飛ばし、再び竹刀の先を喉元に突きつけた。


「……ここで大人しく逃げたら、見逃してあげる」


 もう一度言った。これが最後通告だ。


 しかし、そこに迫る1人の影。


「うらぁっ!」


 倒していた1人、抜き胴で倒した男がいつの間にか立ち上がっていた。


「やばっ」


 七星は、1発もらうのを覚悟した。


 ところが、その前に男の身体が傾いた。


 少年による、真横からの捨て身のタックル。


「今です!」

「ナイス!」


 ファインプレーに、思わず七星が声を上げる。充分な隙ができた。


 反撃の男へ真一文字に、胴を切り裂くように。敵は倒れる。その竹刀を返して、再び動こうとしていたナイフの男に竹刀を向けた。


 これでようやく観念したらしい最後の1人が、震えた声で訊く。


「お前……一体何者だ……?」


 よくぞ聞いてくれました。七星は、不敵な笑みを浮かべて言った。


「あたしは神崎七星。未来のヒーローよ」


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