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「あの、グロテスクな芋虫をやっつけりゃいいのか?」
「いや……」
「何だ違うのか?」
「違わないんだけどっ、何でこの中に……⁉︎」
「ああ、アクセス制限の話な。 あれ仕掛けたのお前? ありゃな、穴ありすぎだっての。あたしみたいなスレたやつ相手じゃ簡単にすり抜けられるぜ」
「マジで……」
「あ、ちなみに今のアタシの姿、七星と相方にしかちゃんと見えてないから、よろしく」
「え、それって……?」
詳しく訊こうとするティンクルの元に、わずかな隙を突いて近づいたシャドーが合流する。
「誰だか知らんが応援感謝する。引き続き、援護を頼めるか?」
「ああ、アタシは元よりそのつもりさ」
すると、廻の木刀が青白く発光した。廻のアイテムステータスを確認する。カテゴリで武器と認識され、強度や攻撃力などが上昇しているのがわかる。これって、もしかして。
違法改造。
ワームの叫び。
「七星、悪りーけどお前の解放は後回しな」
「そうだな。先にワームを仕留めたほうがよさそうだ」
親ワームが、廻とシャドーに狙いを定めている。
「左右から挟み撃ちにしよう。俺は右から攻める」
「ならアタシは左からか、りょーかい」
2人が同時に前へ踏み出す。中段で構えた廻の木刀が、一際強く光る。右から、シャドーによるサブマシンガンのフルオート。ワームの注意が引きつけられ、シャドーに狙いを定めた。
そこに、別の角度から廻が飛び込む。青白い光が弧を描く。斬撃が翔ぶ。シャドーに向かって振りかざそうとしていた尾を切り落とした。
ワームから苦悶の叫び。だが2人は容赦なく攻撃の手を緩めない。右からシャドーが撃ち、左から廻が斬る。まるで以前から練習していたかのようなコンビネーション。2人の波状攻撃に、増殖の隙も与えられないワームが押されている。みるみるうちに、ワームの体力ゲージが削られていった。
廻の、獅子の尾のような金髪がはためく。
シャドーの、銃口から放たれる9ミリパラベラム弾が瞬く。
まるでダンスを踊るかのように、敵を翻弄している。
その戦い方はティンクルの、七星の理想像だった。ヒーローとして戦うなら、こんな戦い方をしてみたかった。
しかし、現実の自分はどうだろう。
羞恥心の拭いきれない魔法少女の格好で。
その理想には1ミリも入り込めなくて。
身動き取れないまま、黙って見守るだけ。
しかも、そんな様子を空にまで見られている。
これ以上、惨めなことがあるか。
お願いだから、もう見ないで。もう憧れないで。
見掛け倒しでヒーローどころか魔法少女にすらなれない、情けなく立ち竦む自分を。
「終わったぞ」
廻の声。
俯いていた顔を上げると、目の前に廻とシャドーが立っていた。ワームの姿は見当たらない。きっと、2人相手になすすべなく駆逐されたに違いない。
「待ってろ、今解除する」
シャドーが動き、すっかり固まってしまっていたティンクルの足に手を添える。アイテムボックスから取り出したのは、小さな注射器。その中には0と1ので構成された、状態異常を治癒する修正用プログラム。いわゆる『ワクチン』である。
凝固していた粘液は、ワクチンを投与されるとすぐに形態を維持できなくなって溶け出した。ティンクルが普通に動けるようになるまで、1分もかからない。
こうして自由になったティンクルは、神崎七星は。
「おい、七星⁉︎」
シャドーの呼びかけも無視して、全速力で駆けだした。
1秒でも早く、この場からいなくなりたかった。