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フィクションだったはずの言葉が、生々しく蘇った。
その瞬間、かなぐり捨てたはずの恥と外聞が一回りも二回りも大きくなって襲いかかってきた。まるで、氷水の入ったバケツを真上からぶち撒けられたような衝撃。
当然、ティンクルは動けなくなる。
そして、敵が反撃するには十分すぎる隙が生まれた。
牙を剥き出しにした子ワームの口から、大量の粘液が吐き出された。
「ううっ……⁉︎」
ティンクルの足元へ、不快感とともにまとわりつく。するとすぐに、強力な瞬間接着剤の如く固まって、両足を地面に縫い付けた。どんなに力を込めても、びくともしない。
詠唱のない光弾で応戦する。しかし、その効き目はやはり少ない。子ワームが最接近。もはや固定砲台と化していたティンクルは、避けることもできずに飛びかかられた。せめて、近接系の武器があれば、まだ対応できたかもしれない。だが今の手持ちはステッキのみ。
「——くそっ!」
結局、ステッキを犠牲にした。噛み付いた瞬間、火花状のエフェクトが激しく散る。小さいくせに、ステッキの真ん中にしっかりとめり込む牙。ぴきぴきとヒビが入り、変な角度に曲がり始めた。電気がショートするような、閃光のダメージエフェクトが散発的に弾ける。バチバチと音を立て、噛まれた部分のグラフィックが粗くなる。
「ティンクル!」
シャドーが危機を察して声をかけた。しかし、2人の間に親ワームを挟んでいる状況で助けに向かうのは、いくらシャドーといえど難しい。親ワームもその状況を知ってか、ティンクル側に近づかないよう牽制していた。
こうしている間にも、ステッキのダメージが拡大していく。子ワームはこのまま獲物をへし折る魂胆らしい。
「離れろ……離れろ……っ!」
いくら振り回しても離れない子ワームを相手に、2代目のステッキまで早々に破壊させてしまうかも。
そんな諦めにも近い覚悟を決めた、その時。
「何だぁ? 随分と苦戦してるみたいじゃねーか」
ティンクルの横から。聞き覚えのある声。
同時に、ステッキにかぶりついていた子ワームが消えた。
離れた位置からの、まるで斬撃のような衝撃波。それを真横からもろに食らった子ワームはまるで木の葉のように宙を舞った。そのまま悲鳴を上げる余裕もなく、一撃で体力を全損させて霧散する。
「すっかり天狗の鼻が萎れてんなぁ。こないだの試合で見せた威勢はどこいった?」
「何で……?」
聞き覚えのある声は、やはり聞き間違いではなかった。
後ろで束ねた鮮やかな金髪に、170センチ越えの風貌。左手に握られた漆黒の木刀。下手な男も逃げ出しそうな威圧感を放つ彼女。紛うことなき、我らが柏陽高校女子剣道部の主将。
脇谷廻が、目の前に現れた。