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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第2章
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14

「ティンクル、アクセス制限かけられるか?」

「了解っ!」


 七星改めティンクルが、透明なドームの中に自分達もろともターゲットを閉じ込めた。自分も相手も逃げられない、簡易コロッセオができあがる。


「こいつは……なかなかの大物だな」


 光星改めシャドーが言った。マルウェアと呼ぶには大きすぎる、うねうねしたモンスターが蠢いている。全長2メートルほどの、例えるなら巨大化した芋虫。


「ワーム型……」


 ティンクルがつぶやいた。研修でも教わった、マルウェアのカテゴリ。


 ワーム型。マルウェアの中では、最も強力と言われる存在。


 その理由は、主に3つ。


 理由その1。ワームは独立したプログラムとして、幅広い範囲を自律的に動くことができること。


「こんなやつ!」


 ティンクルが先手必勝とばかりに2つの光弾を放つ。現状、命中率概ね5割の遠距離攻撃は珍しく両方ともワームの胴体に吸い込まれた。


「やった……効いた⁉︎」

「いや、まだだな」


 敵がのっそりと動き出す。直撃した部位に残ったのは、擦過傷程度の浅い傷。しかもそれは、驚異的な早さで再生、回復されていく。


 同時に、標的を捕捉する。狙いはもちろん、ティンクル。


 そのずんぐりむっくりな外見からは想像もつかない速さでティンクルに肉薄。


「危ない!」


 シャドーがティンクルの身体をワームから掻っ攫うように引き離す。1秒遅れて、ワームは大きくうねり、長い胴体を叩きつけた。さっきまで、ティンクルの立っていた場所へ。


 コンクリートと同じ強度設定がされているはずの地面に、無数のひびが走る。クレーターのようなめりこんだ胴体の跡がついた。


 理由その2。その防御力、攻撃力の高さと凶暴性。


「ひっ……!」


 ティンクルの表情は、明らかに引き攣っていた。あれをまともに食らったら、彼女の防御力では間違いなく瀕死の重傷である。


「これがワームの強さだが、これだけじゃないのは、お前も知ってるよな」

「知ってるけど、まさか今ここで……?」


 シャドーが答えを言う前に、ティンクルは察知した。


 攻撃を外したワームが、今度は叩きつけた胴体を不規則にくねらせた。見ているだけで、不快になるモーション。じきに、ワームの尾の部分が膨らみ始める。


 そして、ティンクルは見てしまった。


 新たなワームが、生まれ落ちるのを。


「うっ……」


 粘液に塗れてびちびちと這いずる新手のワームを見て、思わず吐き気をもよおしそうになる。バーチャルの世界なのに、何だこの生々しさは。


 これこそが、ワーム型が警戒される3つ目の理由。


 マルウェアで唯一、単体での増殖が可能。


「ティンクル!」


 気が遠くなりそうだったティンクルの精神を、シャドーの声が引き戻した。


「俺はこの親玉を倒す。ティンクルは、子供の相手を頼む」

「……わかった!」


 ティンクルの返事と同時に、子ワームも声を上げる。


「キシャアアアア————‼︎」


 その叫びに怖気が走る。トロイの木馬の小人ならまだ可愛げがあった。だがこいつには、不気味さと気色悪さしかない。


 それでも、ティンクルは気持ちを奮い立たせる。子ワームが動き出すより、先に動いた。


 一定の間合いを取りながら、再びステッキを振って光弾を2発放つ。詠唱を省いた遠距離攻撃は、隙のない動きで素早く発動できる分、威力が小さい。


 だから、親ワームには効かなかった。


 だけど、小ワームには効くだろう。


 しかし、そんなティンクルの読みは外れた。


 2発中1発の弾が当たる。それでも、小ワームの怯む様子はなかった。ぐっと間合いを詰めてくる。小さい分、親ワームよりも機敏かもしれない。


 だが、こういった相手のいなし方はわかっている。剣道の試合で何度も経験したことだ。冷静に相手を牽制し、再び間合いを取る。脇目で一瞬だけ親ワームの位置を確認。完全に意識をシャドーに向けていた。シャドーもティンクルに意識が向かないよう、逆方向から上手く立ち回っている。子ワームを仕留めるなら、今ここで『詠唱』による一撃を。


「い……いっくよ————‼︎」


 もちろん、『詠唱』とは魔法少女を魔法少女たらしめる例のアレである。だが、恥ずかしがっている場合ではない。今は恥も外聞もかなぐり捨てて、敵にトドメの一撃を。


「悪いコには、ミラクルステッキでお仕置き————」


 詠唱の途中。


 ティンクルは、神崎七星は気づいてしまった。それはもう、最悪のタイミングで。


 目が合った。


 数メートル先左側。透明なアクセス制限の向こうから。


 戦いの様子を見守っていた、夏井坂空と。


 彼の純粋な、純粋過ぎた目は口ほどにものを言っていた。


 ——七星さんって……魔法少女、だったんですか?


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