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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第2章
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12

 かくして、七星にとって不本意なヒーローライフが始まった。


 普段通りの学校の授業をこなし、部活が終わった後は光星に付き従ってレプリカ内のパトロールを行う。そんな日々が少しずつ積み重ねられ、早くも2週間が経とうとしていた。


「とりあえず、柏駅西口エリアは異常なし……と。じゃ、次は東口だな。行くぞ七星」

「……ん」

「ちゃんと返事しろよ。『ん』じゃなくて『了解』な。いいか?」

「……了解」

「うっし、じゃあ気合い入れてくぞ!」


 気合い充分な光星に肩を叩かれて、西口の高島屋前から東口側に移動する。しかし、やはり七星の顔は晴れない。


 七星の中で積み重なっているのは、ヒーローとしてのルーティンの日々ばかりではなかった。自分の中で澱んでいる、思い通りにいかない不満。焦燥。苛立ち。そして何より、不安が大きかった。


 あれから七星は、何度か本番で魔法少女に変身している。しかし、その結果はお世辞にも合格とは言えないものだった。


 相変わらず、遠距離攻撃の狙いが定まらない。気恥ずかしさが勝って、呪文の詠唱も集中できない。代わりに借り受けた初期装備のようなステッキでは、接近戦に持ち込んで戦うわけにもいかない。きっとまた、簡単に壊してしまう。しかし、やってやろうとセレクターに言ってしまった手前、もう後にも退けない。一方で吹っ切れる潔さも、まだ持ち合わせていない。


 だから初日の戦い以降は、まるでいいとこなしな毎日が続いていた。


 ヒーローになる前は、1人でも多くの悪を倒そうと息巻いていた。それが今はどうだ。パトロール中も、敵に会うことに怯えている。今だって、どうかマルウェアが見つからないようにと祈っている。


 我ながら弱くなったもんだと思う。まだヒーローになることを純粋に夢見ていた先週の自分が今の姿を見たら、何て言うだろう。


「東口の巡回は、商店街からだな」


 そんな七星の憂鬱を知ってか知らずか、光星は何も言わなかった。だから、七星も何も言わずについて行く。


 すると、不意にメッセージ受信の通知が入った。どこからともなく、七星の視界の隅に出現する半透明のウインドウ。セントエルモのメッセージは携帯電話のアプリと連動している。今回はその携帯に送られてきたメッセージだった。開封。


『こんにちは! 今日も七星さんはレプリカのパトロールでしょうか? 毎日お疲れ様です! 僕もいずれその仕事をお手伝いできたらな、と思ってます。だから、まだ自分は弟子入りの話は諦めていませんので! よろしくお願いします!』


 相変わらず、熱さのみなぎっている文面。言うまでもなく、その送り主は空だった。


 空を助けたあの日から、ほぼ毎日のようにメッセージが送られてくる。初めは、無視していればすぐにほとぼりが冷めると思った。しかし、彼の憧れという名の熱意はとどまることを知らなかった。今のところ、最初のメールが来た日から毎日必ず1通のメールが送られてきている。


『こんにちは! 今日は久しぶりに友達とレプリカへ遊びに行きました! レプリカで買い物や遊んでいる人を見ていると、こうしてみんなが平和にレプリカを利用できているのも七星さん達ヒーローのおかげなんだな、としみじみ感じました。やっぱり平和を守るヒーローはすごいです。僕もいつか必ずヒーローになれるよう頑張りますね!』


『いつもヒーローお疲れ様です! 今日は学校で模擬試験がありました。まだすぐに点数はわかりませんが、自分の感じた手ごたえとしては「全然ダメだな〜」って感じです。でも、ヒーローに採用される試験は模試なんかよりもっと難しいんですよね? だったらこれくらいのことで弱音を吐いてはいられません。体を鍛えるだけじゃなくてもっと勉強も頑張らないと、ですね!』


 メッセージの履歴を辿ると、当然空から送信されたメッセージがまだ残っている。返信されることなく、行き場のない熱量を文面に宿したまま。


『こうやって毎日七星さんにメッセージを送るのは、僕は楽しいと思っています。七星さんは忙しいと思うので、無理に返信していただかなくても大丈夫です。ただ、もしこのメッセージが邪魔だとか、鬱陶しいと感じるならそれはすぐに教えてほしいです。自分が送っている言葉で七星さんが不快になるとしたら、僕も辛いですから』


『もちろん、何か相談に乗れることがあったら乗りますので! 助けてくれたお返しに、それくらいのサポートはできたらいいな、って思います。まだ無力な自分には、おこがましい話かもしれないけれど……それでも、七星さんが困っている時は、少しでも何か七星さんの力になれたら嬉しいです』


 そして、彼はきっと優しすぎる。ただ単純に自分の熱意だけをぶつけてくるなら、まだわかりやすかった。でも、彼は時折こういう気遣いを見せてくる。それに七星はつい甘えたくなって、もう1人の自分とせめぎ合う。


 だから、七星は空と繋がれなかった。


 七星がもし、自分から空と繋がろうとしてしまったら——


「七星!」


 光星の声が、七星の思考を打ち消した。同時に鳴り響く耳障りな警報音。


「マルウェアの反応だ! 駅の南口改札前!」


 鋭い瞬発力で駆け出す光星。


 七星は奥歯を噛みしめて、その後を追った。


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