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「ぬああ————っ‼︎」
七星は可愛らしさの欠片もない叫び声を上げた。同時にヘルメット型コントローラー『セントエルモ』を乱暴に取ってベッドに放り投げる。壁に叩きつけなかっただけでも、褒めてほしい。
今まで七星がプレイしていたのは、セレクターから押しつけられた魔法少女なりきりVRゲームだった。イメトレの道具として渡すのは百歩譲ってよしとしよう。だが、どうして知人が攫われている設定で、しかもそのキャスティングが空になるのか。可能なら今からでもセレクターに小一時間ほど問い詰めたい。
「……何やってんだろ、あたし」
七星は電源が切れたように項垂れる。
こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった。
その言葉がいつも何度も、頭の中をぐるぐる巡っている。一緒に、キャスター付きの椅子もぐるぐる回る。ぐったりした七星を乗せて、重そうに。
その周りには、さっき自宅に届いたばかりの魔法少女グッズが床へ乱雑に置かれていた。そのほとんどが未開封である。まさかレプリカ内だけじゃなく、家にまで即日で送られてくるとは思わなかった。グッズが目に入るたびに、セレクターの憎たらしいにやけ顔が頭に浮かぶ。
と、そこで不意に携帯が震えた。
「誰……?」
緩慢な動作で携帯を取る。
よりによって、さっきまで人質だった空からのメッセージだった。もちろん、当の本人はゲームの中で誘拐される役になっていたなんて知る由もないわけで。
正直見たくないと思う。
それでも七星は放っておけなくて、メッセージのアプリを開いた。
『今日は助けていただきありがとうございました。ヒーローの話、めちゃくちゃ熱くて楽しかったです! だから、七星さんへの弟子入り希望は、まだ諦めてません。気が変わったら、いつでもよろしくお願いします!』
空の弟子入り希望は、しばらく折れそうになかった。
彼の熱量が今の七星にはまぶしすぎて、すぐに返事は書けそうにない。
七星はそのまま携帯のディスプレイを閉じて、セントエルモの後を追うようにベッドへ倒れた。
時刻は夜の9時。寝る時間には早過ぎるが、もう今日はこのままふて寝してしまいたいと思う。だけど、七星の頭の中では呪いの言葉がまだぐるぐると巡り巡っていた。
こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった。




