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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第2章
21/46

10

 舞台は、市街地の大通り。


 そのど真ん中、目の前に立つのは悪の巨人。全身が灰色の岩で組み立てられた、いわゆるゴーレムである。4車線の道路を跨ぐようにして、仁王立ちしている。


 それと対峙するのは、まだヒーローアバターに変身していない神崎七星。


 そして、怪人の大きな右手には。


「ぐっ……七星さん、僕には構わずこいつを早く……っ!」


 何故か、傷だらけのまま捕らえられた空がいた。


「ぐはははは、力はないくせに威勢だけは上等だな坊や!」

「か、彼のことを離しなさい!」

「ぐはははは! 俺様がそんな素直に言うことを聞くとでも思ったか!」


 巨人の大きな豪腕。空を握っていないほうの拳が、盛大に振り下ろされる。大通りのアスファルトが、まるで発泡スチロールのように容易く砕かれた。それを、しなやかな身のこなしで七星は間一髪回避する。さっきまで七星の立っていた場所には、クレーターのような大穴が空いていた。


「七星さん⁉︎」

「大丈夫……っ!」


 今は無傷とはいえ、一撃であの威力。当然、七星が通常のアバターで勝てる相手ではない。選択肢は、1つしかないのである。


 七星の手元が光る。まばゆい輝きの中から現れたのは、アイテムボックスから実体化されたステッキ。


「変身!」


 七星はステッキを真正面に掲げた。持ち手の部分に埋め込まれた宝石が、一層強い輝きを放つ。その輝きは全身に広がって、七星を包み込んだ。そして、キラキラしたトランスフォームの後に現れた姿は。


 ピンク成分多めのドレス。


 至るところに飾りつけられたフリル。


 胸元と手首にはハート型のアクセサリー。


 頭には大きなリボン。


 手に持った、無駄にカラフルなステッキ。


 そう、その姿はまさしく、魔法少女。


「魔法少女ティンクル、参上っ!」


 最後に目元にVサインでバチコーン! とウインクをキメる。


 ちなみに、変身開始からここまでの動きは全て自動モードに設定されていた。よって七星の意思でキャンセルすることはできず、その目は心なしか涙目になっていた。


 やっぱり恥ずかしい。恥ずかしすぎる。


「ぐはははは! ぐはははは! お前、全然強そうじゃないな! そんなんで俺に勝てると思うのか? 思うのか? そんなわけ……ないだろう‼︎」


 再び、比喩ではない岩の拳を叩きつける、強烈な一撃。それを、七星は余裕を持ってひらりと回避する。からの、すぐに転じる攻勢。


 当然のことだけど、やっぱり変身すると身体が軽い。全体のパワーやスピードは桁違いに上がっている。そこは、ヒーローアバターの能力として認めないといけない。


 ゴーレムは、振り下ろした拳をアスファルトにめり込ませている。一撃は大きいが、その後は隙だらけだ。


 そのチャンスを、七星が見逃すはずがなかった。一気に距離を詰める。狙いを定めた。浮かび上がるロックオンのカーソル。空を捕らえる右手。その付け根。人間の手首に当たる部分へ。


 そこにカーソルが合わさり、点滅した。


「いけっ!」


 七星はエネルギー弾を放つ。それは狙い通り吸い込まれ、ダメージエフェクトが弾け飛んだ。


「ぐあっ⁉︎」


 目に見えてゴーレムが怯む。空を拘束していた右手が緩んだ。すぐ下の地面に倒れる空。七星はすぐに空に近づいて救出する。


「空、大丈夫⁉︎」

「はい、僕は何とか……」


 細かい傷が確認できるが、大きな怪我はなく意識もある。一先ず安心する七星。


「ところで、七星さん?」

「ん?」


「七星さんって……魔法少女、だったんですか?」


 軽やかだった動きが止まる。


 空にこの姿を見られたら、いつか指摘されることだとは思っていた。


 止まった数秒の間。それが、致命的な隙になった。


「ぐはははは! もらった!」



 気づいたら、岩の拳が唸りを上げて迫っていた。


「しまっ——」


 手遅れだった。


 真正面から会心の一撃を食らった七星。空の身体もろとも、紙切れのように飛ばされる。


 もともと打たれ弱い七星のアバターは、あっという間にライフを全損させた。そして、浮かび上がるお決まりの8文字。


『GAME OVER』

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