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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第1章
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 倒すべき相手は、目の前に。


「はじめっ!」


 主審の声と同時に立ち上がる。剣道場に響く、2人分の威嚇のような叫び声。互いの竹刀の先端から、ばちばちと見えない火花を散らす。


 七星の練習試合の相手は、我らが柏陽高校の主将。3年生がいたころからのレギュラーで、先輩が引退した今では団体戦の大将を務める不動のエース。


 そんな強敵と、七星は真正面で対峙している。


 身長170センチ越えの恵まれた体格。身長140センチの七星からしたら、見上げるような位置に面がある。その有効打突部位には、七星の竹刀は間違いなく届かない。物理的に。


 だけど、チビにはチビなりの戦い方が、剣道にはある。


「面——‼︎」


 セオリー通り、相手は面を狙ってくる。畳み掛けてくる積極的な攻め。それを全て捌き、躱して七星は好機を伺う。流れるように仕掛けてくる攻撃の中から、ほんの僅かな綻びを探し出す。


 綻びは、焦りとか怒りとか、僅かな心の揺れ動きから生まれる。今の七星には、それがよく見えた。この瞬間、戦いの感覚が冴え渡っていた。


 なぜなら、神崎七星はヒーローだから。


 面が来る。


 これまでよりもやや大振りな面。そこに生まれる、コンマ数秒の隙。


 狙いすました。頭の中に一瞬だけよぎったイメージの通りに、太刀筋をなぞる。


 抜き胴、一閃。


「————‼︎」


 七星の気合とともに、3つの審判旗が上がる。全て、七星側の赤旗。


「胴あり!」


 さあ、次だ。


「2本目、始め!」


 1本目以上の、ピリピリとした空気が激しくぶつかり合う。しかし、七星にはその空気を楽しむ余裕すらあった。


 これだ、この空気、この緊張感だ。


 ここでこそ、ヒーローは輝くんだ。


 それから、試合は一瞬で動いた。


 牽制し合う竹刀の先。ギリギリの駆け引き。攻め込まれる。躱して逆に間合いを詰める。手元が浮き上がる。


 ここだ。


 面を狙われる。それよりも速く、針を刺すように。


 七星はピンポイントで、敵の小手を射抜いた。3つの赤旗。


「小手あり!」


 決まった。


「勝負あり!」


 竹刀を脇に収め、一礼して試合場を後にする。


 試合の様子を見ていた顧問からのアドバイスをもらい、防具を外す。そこに。


「おい、七星ぇ!」


 いかつい表情のヤンキーが迫ってきた。


 後ろで束ねた鮮やかな金髪に、170センチ越えの風貌。下手な男も逃げ出しそうな威圧感を放つ彼女こそ、我らが柏陽高校女子剣道部の主将。つまり、さっきまでの対戦相手。名を脇谷廻わきや めぐりという。


「お前、いつの間にそんな強くなりやがった⁉︎」

「ふふーん、まあこれがあたしの実力ってやつじゃないかしら?」

「かーっ! その伸びきった天狗の鼻へし折りてえ! 竹刀で叩き折りてぇ!」

「何とでも言いなさいな! これで今月は3勝2敗であたしの勝ち越しね!」

「畜生! カフェイン飲んでリベンジしてやる! レッドブルキメてやる!」


 うがー! と吠える廻。そんな彼女の悔しそうな様子が珍しかったのか、近くにいた他の部員も七星に訊いてくる。


「本当に、あの無敵の大将によく勝てるよね。何があったの?」


 その問いに、七星はにやりと笑って答えた。


「そりゃああたしは、ヒーローですから」


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