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「…………ねえ?」
「…………なんじゃ?」
「あたし、いつまでこの状態なわけ?」
「反省するまで、じゃな」
七星は、セレクターの部屋で吊るされていた。
サブマシンガンとスナイパーライフルの火力を武器に1人残らずマルウェアを駆逐したシャドー。と、その後をついて歩いた七星。2人は再びラボへと呼び出されて戻ることになった。
自分はお荷物だったが、一応敵は倒したから何かしらの褒美があるのかと思った。
だが現実は甘くない。1人でセレクターの部屋にお邪魔するなり、七星は約1時間前と同じ体勢で吊るされて現在に至る。
「確かにあたしは役立たずでした雑魚相手に袋叩きにされました! けど! 入っていきなり吊るし上げってなんなのよ! せめてこれを解きなさいよー!」
「嫌じゃ」
「うがー!」
がっちり縛りつけられた縄の中で暴れる七星。しかし、強度レベルがかなり高めに設定されているらしい。解放されるどころか、緩む気配もない。
それでも諦めずにうがうがする七星。そこに、セレクターから1本の棒が突きつけられる。
「お主、これが何かわかるな?」
「……あたしの武器」
「正確には『武器だったもの』じゃがな!」
「いてっ、いててっ」
セレクターにその『武器だったもの』で、頭をこつこつと小突かれる七星。
言うまでもなく、それは戦いの途中でへし折れたステッキだった。真ん中から真っ二つ。素人目から見ても、もはや修復不可能な代物だとわかる。
「ヒーローアバターをくれてやったその日のうちにメイン武器を壊すなんて前代未聞じゃよ。しかも、修復できないレベルの完全破壊ときた。アホか」
「だったら接近戦の武器! 接近戦用の武器を渡しなさいよ! 剣とか槍とか薙刀とか!」
「魔法少女にそんな武器はない」
「だったら! 魔法少女以外の! アバターを! よこしなさいよ〜〜〜〜‼︎」
「…………わかった」
「え、わかったの?」
七星は拍子抜けした。もっと反発されるかと思っていたのに。
「そいじゃ、お主にはこいつをやろう」
すると、七星が括り付けられた縄の先、天井にかぱっと大きな穴が空いて。
いろいろなモノが降ってきた。それは、リアルの法則通り重力に従い落ちていく。その先には当然、まだ落下に気づかない七星の頭が。
「ぎゃっ⁉︎」
さっき倒したマルウェアみたいな声が出た。そこで初めて、何かが頭から落ちてきたことに気づいた七星。足元に、いろいろ散らばっている。
魔法少女の変身コスチュームセット。
魔法少女なりきりVRゲーム。
某魔法少女アニメのブルーレイボックス。
誰が書いたかわからない『魔法少女入門』というタイトルのハードカバー本。
その他魔法少女関連グッズがエトセトラエトセトラ。
「何これ?」
「これで、少しは魔法少女について研究せい」
「…………魔法少女以外のアバターは?」
「そんなものはない」
うん、全然わかっていない。
ラインナップもさることながら、わざわざレプリカ内で実体化してぶつけてくるところに、セレクターの悪意を感じる。
「こんなの、あたし受けとらないからね」
「そうか。じゃったら、また雑魚相手に惨めにやられてくるがよい。敵はお主のことなんか待たんからの。仮に新しいヒーローアバターを用意するとしても、すぐにできるもんじゃない。だから調達できるまでは魔法少女のままじゃ。それまでに、一体何回同じような醜態を晒すことになるかのう……?」
「ぐぅ……」
眉間に皺を寄せたままの表情で、固まる七星。
「それでも嫌だというなら、ヒーローを辞めるという選択もあるぞ? 他にもヒーロー志願者は星の数ほどおる。別にお主が抜けたところで、困る奴は誰もおらんからな。ただし、お主の名前は『ヒーロー辞退の最短記録』として名を残すがの。さあどうする、神崎七星?」
セレクターが、煽りに煽る。一方の七星は、その煽りに上手いこと乗せられた。
「……やってやろうじゃないのよ!」
七星は床に散乱した魔法少女グッズを、全部まとめて自分のアイテムボックスに詰め込んだ。