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魔法少女はヒーローの夢を見る  作者: 染島ユースケ
第2章
13/46

2

 ちょうど同じ頃。研究所を後にした七星は。


「もう、信じらんない! 何アイツ!」

「まあまあ、落ち着けって」


 めちゃくちゃにキレていた。そして、同行する光星がそれを宥めている。


 ヒーローアバターを受け取ってすぐ、七星はセレクターによって人知れずトレーニングエリアに転移させられていた。そこで一通り魔法少女アバター『ティンクル』の扱いについて、セレクターから手解きを受けたわけだが——




『準備はよいなティンクル!』

「全然よくない!」


 のっぺりとした、白い箱の中に閉じ込められたかのような室内空間。そこに、スピーカー越しのようなセレクターの声が響く。


『これから、お主には魔法少女のイロハを叩き込む! しっかり心してついてくるように!』

「だから全然よくないって言ってるでしょ!」


 同じように、七星の声も反響する。しかし、セレクターの耳には1ミリも届いていないようだった。


『よーし、ではまずは変身のポーズからじゃ! ヒーローたるもの変身ポーズが肝心。今から登場する「お手本」を参考に真似てみるように!』

「いや、そもそもあたし、もう変身してる——」


 すると、問答無用で目の前に無機質なポリゴンが現れた。それは徐々に形を人型に変え、着色され、あっという間に女の子の形をしたアバターに変化する。魔法少女にありがちな、制服を着た小柄なピンク髪のツインテールである。


「はーい、こんにちは! 魔法少女のさーやです♪ これから魔法少女の変身の仕方をレクチャーするから、ちゃんとお勉強するんだぞッ☆」

「…………は?」

『さあここからは魔法少女さーやによる懇切丁寧なマンツーマン指導じゃ! 魔法少女として戦うには、魔法を操るイメージが大事じゃからの! 本番でちゃんとイメージできるよう、今のうちに叩き込んでおくように!』

「それじゃ、早速始めるよっ★」


 七星は開いた口が塞がらなかった。しかし、セレクターの手先である「魔法少女さーや」とやらは七星の反応など全く気にしない。勝手に魔法少女講座の話を進めていく。さすがはセレクターの手先。七星はなす術なくそれに巻き込まれていく。


「ミラクル!」

「ミラクル……」

「ティンクル!」

「ティンクル……」

「チェーンジ! はい、ここでウインクしながら目元でVサイン☆」

「できるか————っ‼︎」


 キレた。我慢ならなかった。ふざけるにも程がある。


「ウインクしながらVサイン⁉︎ 何それ⁉︎ 全然ヒーロー関係ないじゃん⁉︎」

『そりゃそうじゃ、お主は魔法少女じゃからの』


 再びセレクターからの天の声。姿は見えないが、ニヤニヤと面白がっている表情が目に浮かぶ。


「だーかーらー、何で魔法少女なのよ! もっとカッコいいのがいい!」

『よいではないか、予想以上に似合っとるぞ? ほれ、もう一度やってみるのじゃ。ミラクルティンクル——』

「絶、対、イ、ヤ!」

『そうか、残念じゃなー。しかし、そう頰を染めて嫌がる姿もなかなかそそられるの!』

「何見て楽しんでんだこのヘンタイ!」

『さあ、魔法少女さーやよ、続きを頼むぞー』

「オッケー♪ じゃあ次いくよ☆」

「だから人の話聞きなさいよ!」


 ——と、こんな具合でトレーニングエリアの中では終始セレクター(と魔法少女さーや)のペースでチュートリアルが進められた。他にもいくつかの呪文を教わったが、どれも無駄に長く可愛らしい詠唱が盛り込まれていた。それを渋々七星が唱えるたびに、『いいぞいいぞー! その角度じゃ!』という胡散臭いカメラマンのような声が飛んでくる。その角度って、何だよ。


 一刻も早く、七星は家に帰りたかった。




 そういうわけで、帰り道の七星はご乱心なのである。全部、あのセレクターとかいう変態ロリババアの仕業だ。あいつがもっとまともなAIならば、こんなことにはならなかった。きっと今頃、憧れのヒーローになれていたはずなのだ。


「あーイライラするー! あいつのデータが入ってるハードディスク粉砕してやりたい!」

「それができたら、ヒーローどころかバーチャル世界の神になれるな」

「あーもーなってやろうじゃないのー! ヒーローになれないならレプリカの神にー!」

「やめとけやめとけ、そんなことしたら後々面倒だから——」


 不意に、鳴り響くサイレン。


「これって、もしかして⁉︎」


 レプリカ全体に響き渡りそうな、大きな音。七星は初めて聞いて驚いたが、それが何なのかは知っている。


「間違いない、マルウェアだ」


 新人研修の座学で教わった、ヒーローの基本。ヒーローアバターを持つ者だけに聞こえる、マルウェア出現の警報音。


 光星の表情が、真剣なものに切り替わる。同時に、ラボからのボイスチャットが入った。


『神崎兄妹、聞こえるか?』

「はい、聞こえます」


 聞こえた万里の声に、光星が応答する。


『わかってるとは思うが、マルウェア発見の情報だ。このタイミングで申し訳ないが、2人に出動を頼めるか? 君達の場所が現場から一番近い』

「現場はどこですか?」

『すぐに情報を送る』


 万里の言葉通り、数秒で現場の詳細情報が送られて来る。ホログラム状の半透明な立体地図が七星と光星の前に浮かび上がった。その中で波紋を浮かべる、ヒーローを示す緑の点が隣接して2つと、現場のマルウェアを示す赤の点が1つ。緑の点2つが自分達だとすると。


 赤い点までの距離、リアル換算でわずか100メートル。


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