2話 狩りに生きる
異世界に光明を見出して、早1時間。この森には沢山の生体が居る事を確認した。熊や鹿、狼等の地球にも居た動物だけでなく、ゴブリンやスライム、オークなんかまで。それこそ、この1時間で10を超える生体を見つけた。その全てを狩り、その全てがCへと変わってくれた。もちろん狩ると言っても、全部『ベリアル』の素手で殴り殺した。ちなみに殆どが逃げ出したが、追いかけると意外にもすぐに拳が届いた。射撃武器は有るが、1発につきスライム5匹分のタダ働きが発生する為にとりあえず素手で狩れそうな奴は素手で殴り殺した。その結果、出会った敵全てが素手で十分、寧ろ熊とオーク意外はワンパンで沈むという事が分かった。これはCの補充には事欠かないという事だが、同様に2日以内に拠点をアップグレードしないといけないという事でもある。こんなに、多様な生物が拠点の目と鼻の先に居るんだ。2日以上が経って、バリアが切れたら寝込みを襲われる。最悪『ベリアル』のコックピットで寝れば問題無いが、何日もだと流石にキツイ。ウソだと思うなら自動車の運転席で毎日寝泊まりするといい。腰や背中に蓄積ダメージが入るから。
とりあえず今は、拠点に戻っている。鹿をワンパンで沈めたがこれはいいご飯になるんじゃないかと思って拠点に戻って調理しようというつもりだ。この世界に飛ばされる前は、部活帰りでめっちゃ腹へり状態だしね。
ちなみに、戦闘時の殴りはコントローラーで素手殴打を入力したが、今鹿を掴んでいるのはコックピットで直接操作した。あと、もっとついでに現在の所持金は256C。兵器関係を無視して生活だけを考えれば、いい感じにプチリッチだ。まぁ、ギアーズ以外の兵器だと戦車砲1発で50Cするが。あと、もっともっとついでに現在の『ベリアル』の損傷率は右脚が99.89%、右腕が99.26%、左腕は99.94%、他は全て100%。まぁ、素手で殴っているから素手は損傷していても仕方がないとしても、右脚はちょっとどうしようもない。あれからスライムが何匹かくっ付いていて、気が付いたら右脚を結構溶かされていた。しかも何故か右脚だけ。執拗に右脚ばかり。
「...貧相な拠点だなぁ」
拠点に着くと、ポツンと孤独に佇むテントが見える。早くアップグレードして、安心したい。だが、防衛設備を最低限整えるだけでも1万近く無くなる。
「とりあえずメシメシ。腹減って死にそう」
僕はとりあえずショップからナイフを購入する。
武器:コンバットナイフ 3C
これは何の変哲もない少し特殊な形をしたナイフだ。ただ普通のナイフより切れ味が良く、切れ味が落ち辛いだけのナイフ。
そのナイフを使い、鹿の首を切り落とすのだ。と言っても、僕がやるには時間がかかりそうだからコックピットからナイフを外に投げ捨てる。
「小さくて掴みづれぇ」
慣れない手付きながらも『ベリアル』の怪力で鹿の首を切り落とし、鹿の足を持って吊り下げた形で放置。これで雑ながらもある程度の血抜きが出来る筈だ。
「待てよ、そう言えば『解体』機能があったよな?」
僕は『デバイス』に手を触れ、メニューを表示する。メニューの一覧から『解体』を見つけ、タップする。すると解体できる対象選択に移る。対象を『鹿×1』に設定すると、一瞬で鹿の死体が部位毎に分けられ、紙に包まれた肉が現れた。その内の肉以外は売却した。
元々、この『解体』機能は野良モンスターや敵のギアーズを倒した後に、解体して売却してCにしたり、合成してアイテム(ショップで買えるもの)を作ったり出来た。だが、得られるCは微々たる量で殆どが合成でアイテムを作った方が早い。だが、ゲームでは出なかった鹿が出てくるこの世界に来た以上、Cに変えざるをえない。鹿の素材から作れるアイテムなんて無いからだ。そもそも多分この世界で取れる素材で作れるアイテムは無く、『ショップ』からしか手に入らない。それに今の僕には1Cすら惜しい。
「ナイフ無駄だったな」
僕は血まみれになったナイフを見ながら呟く。鹿の肉以外を売却して、5Cになったがナイフを買わずに初めから『解体』していれば丸々利益だったのに。
「ていうか、倒した生物全部売ればもっと利益が出たんじゃ」
一体幾らの利益が出ていたのだろう。熊とか意外と高く売れそうなのに。
ショックではあるが、それ以上に腹が減っているので調理準備を進める。
ショップから調理道具と調味料を買う。
アイテム:塩1kg 1C 胡椒1kg 1C サラダ油1L 2C 皿 1C フォークとナイフ1C フライパン 5C バッテリー式携帯用コンロ 3C 折りたたみテーブル 5C 折りたたみイス 3C
22Cと中々な出費だが、これらは長期的に使う物だ。必要だ。ちなみにこれらはゲームでは無かったが、この世界で買えるようになった物だ。おそらくゲーム内で存在があるものは購入出来るようになったのだろう。
「今日はステーキ!」
僕は『デバイス』の降機スイッチを押す。するとコックピットの扉が開き『ベリアル』が地面に近くなるまで屈んだ。そして僕は『ベリアル』から降りた。初の異世界の大地を踏みしめた。
「今更だけど空気があって良かったよ。異世界だから実は空気が無いとか汚染されてるとかだったらシャレになんないもんな」
と、どうでも良いけど割と大事な事を思いつつ、折りたたみテーブルとイスを広げる。
そしてバッテリー式の携帯用コンロを置く。このコンロはIHと違って何故か火が出る。しかし、火源は電気だ。今回コンロのバッテリーを使わず、拠点の発電機から直接電気を拝借する。そしてふと、思い出す。
「ついでに『ベリアル』も充電しておくか」
『ベリアル』のバッテリーを抜き、充電する。そのままバッテリーは放置。そしてコンロの上にフライパンを置き、油をひく。すでに一人分にカットされた鹿肉を、フライパンに乗せる。すると、ジューッと食欲をそそる音が鳴り出す。
「もういい匂いがするな」
既に美味しそう匂いのする鹿肉に塩と胡椒をかけ、フォークを突き刺しひっくり返す。その後、ある程度焼き目が付いたら再び塩と胡椒をかけて完成。
ついでに1Cのフランスパンも『購入』し『解体』で10等分に切り分ける。そして、3枚を軽く炙って肉のお供とする。
「食お食お」
サッサと皿にテキトーに盛り付け、片付けもせずに早速ステーキに齧り付く。と言っても切り分けはする。
「シンプルな味付けなのにイケルな」
鹿肉は臭みがあると言うが『解体』のお掛けか、そう気にならない。寧ろ美味い。フランスパンともまた合うこと。
「もう1枚焼くか」
美味くてペロリといけたので、もう1枚焼く。パンも今度は多めに焼く。そしてまたペロリと平らげた。
「ふぃー、食った食った」
結構食べたし、Cの入手方法も分かった。ひとまず落ち着いた事だし、探索を続ける為に『ベリアル』に乗り込む。降りる時と同様に『デバイス』から『搭乗』のスイッチを押して、だ。
「よしっ、さっきはこっちだったから、今度はこっちに行くか」
先の探索とは違う方向に、探索を開始した。
あれから7時間半、正確には7時間32分24秒が経過した。現在時刻は8時12分。『デバイス』の時間が正しいならだが。
今は既に拠点のテントに戻ってきている。辺りは既に真っ暗で、これ以上の探索は流石に危険だろうと思って引き上げてきた。
そして、現在はテントのバリア圏内で夕食の準備をしている。と言っても野菜やタレやホットプレートを『購入』するだけなのだが。今日の夕食は焼肉だ。肉は大量にあるのだからやってみようと思い立ったのが始まり。豪遊だって?心配ない。現在のステータスを見て欲しい。
プレイヤーネーム:マキ オオタカ
プレイヤーランク:1
拠点レベル:1
所持ギアーズ:ランクⅠ『ベリアル』
所持金:5620C
凄いよね、ここまで稼げるとは思わなかった。出てくるモンスター皆倒して『解体』して売却しまくったら凄く稼げていた。ちなみにプレイヤーランクは上げていくとギアーズがアンロックされていく。
「牛肉の味だと良いけど」
僕は『解体』された肉を見て呟く。
先程の探索で、ミノタウロスらしき生物を倒した。二足歩行の斧を担いだ牛だ。ゲームやラノベでは中々の強キャラで、確かに強かった。なにせ『ベリアル』の渾身のストレートを顔面に貰っても尚も沈まなかったのだから。普通のモンスターや動物では『ベリアル』のストレートを貰っても熊意外は1発も耐えられない。しかし、ミノタウロスは1発受けてもまだ動き更に巨大な斧を叩きつけてきた。ただ『ベリアル』に限らずギアーズの装甲はミサイルにも耐えるので1%も減らなかった。その隙に更に3発顔面に拳を叩き込むとミノタウロスは絶命した。
解体した肉を早速ホットプレートで焼いていく。アツアツの米ももちろんクレジットで交換済み。
「いただきます」
僕は焼きあがった肉をどんどん食べていく。ミノタウロスの肉はやはり牛肉だった。ただ、少し牛肉よりも美味しいかもしれない。牛肉だけでなく、鹿肉も焼く。
ある程度食べると腹いっぱいになり、傷んでもいけないのでメニューを開き肉を『売却』した。ついでにメニューから『修理』の項目も見ておく。
「修理費用は2Cか」
あれから『ベリアル』の両腕とも損傷率が98%程に損耗し、脚部もスライム絡みで98%近くになっておりそれらの修理費用を見積もると2C程になった。今の所持金からすると誤差ではあるが、ゲーム内では完全破壊は一律500Cで修理、それ以外は一律50Cで出来ていた。なので、少し仕様が変わっているとも言える。
まぁ、気にしてもどうも出来ないのでとりあえず修理し、寝袋を『購入』すると、そのまま寝た。
翌朝起きると先ずは洗い物をした。といってもスポンジと洗剤で軽く洗って、大量に買った飲料水で流しただけだが。その後に『ショップ』からパンをテキトーに購入しちゃちゃっと食べる。
そして、昨日の夜は暗くて気付かなかったが『ベリアル』が綺麗になっていた。昨日までは散々近距離で生き物を殴り殺していたので返り血が凄いことになっていた。それが綺麗サッパリ無くなっていた。おそらく『修理』による影響だろう。
「今日も稼ぎに行きますか」
しかし、今日の狩りは順調では無かった。昨日と同じように森に入り、出会った動物をひたすら狩っていたのだが急に獲物からの被弾が増えた。その理由は一度に出てくるモンスターの量が増加したからだ。
「中々に数が多いな」
現在、13体のゴブリンと戦っている。初めは1匹ずつ行動していたのだが、仲間を呼ばれたり初めから群れだったりと、いろいろ重なりどんどん増えている。現在も尚増え続け、今16体になった。
1発殴れば沈むのだが、『ベリアル』のボディに張り付いておりそのゴブリンを剥がそうとすると別のゴブリンが張り付く。張り付いたゴブリンの攻撃も、そうでないゴブリンの攻撃も痛くも痒くも無いがそろそろ鬱陶しい。
「しょうがない武器使うか」
僕は初めに『ベリアル』をわざと転倒させる。ベリアルが倒れた事により森が少し揺れる。それと同時に張り付いていた3匹のゴブリンがグチャりと潰れる。まずは張り付いたゴブリンの処理が完了した。次に脚部に装備されている『ベリアル』の固定兵装である、『対歩兵誘導ミサイル AIGM』の発射筒を開き、近くの標的からロックオンしていく。
「発射!」
僕はコントローラーの発射スイッチを押す。すると片脚6発の両脚分である計12発のミサイルが熱源を辿り、目標へと誘導される。そのまま12匹のゴブリンのうち、近い個体から次々にミサイルが吸い込まれていく。その都度小さな爆発が起こり、ゴブリンの肉片が吹き飛ぶ。
「おえっぷ。精神衛生上よろしくないな」
昨日の殴殺も中々にグロテスクな感じもしたが、如何せん直接手を下している訳では無かったが故にそこまで気にならなかった。でも今回に至っては少々ヤバい。と言っても匂いも感触も無い以上、未だに他人事感は否めないが。
「慣れるしかないよなぁ...ってあれ?」
現在の『ベリアル』の装備の残弾数を見ると『対歩兵誘導ミサイル AIGM』が再装填されていなかった。本来ゲームではリロード時間はあるものの、所持金を使って勝手に装備は再装填されていた。だが今回はその様子は無い。
「とりあえず残ったゴブリン倒さなきゃ」
まだ敵対生物がいる中で考え事をしている暇は無い。僕は『ベリアル』の拳で残った1匹のゴブリンを瞬殺する。
その後、僕はひとまず拠点へと帰還した。
対歩兵誘導ミサイル AIGM
anti-infantray guidedmissileの略。歩兵等の対小規模非装甲目標の用途を持つ、ボールペンサイズの小型誘導ミサイル。目標の温度や電波、ミサイル本体の赤外線等を使用しミサイルを誘導する。威力は控えめで、非装甲の歩兵を倒す以外にはあまり使えない。再装填は自動だが2秒を要する。