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第7章 竜の村へ その5 エルニカの神殿

 ジアンナはよろけるルージャを肩に背負いながらドアを開ける。ジアンナはよどんだ空気が流れてきた。ルージャを居間に座らせ、窓を開けていく。新鮮な空気が家の中を流れ、止まっていた時間が流れ出した。


 「中は埃っぽいけど、荒らされていないわね。ココちゃん、悪いけどお水を汲んできてくれないかな」

 ココは頷くと桶を持って井戸に行った。ベラフェロも後を追った。


 ジアンナはタルボとカルボを裏の厩舎に繋ぎ、荷物を降ろす。荷物から当座の食料を運び出す。ジアンナはアッシュールの部屋のドアを開ける。ベッドの藁は問題なさそうだった。


 「ルージャさん、こっちで横になって」

 ジアンナはルージャをアッシュールの部屋に連れて行き、ベッドに寝かせた。


 ルージャは部屋を見た。埃っぽいが、さっぱりとした部屋だった。暖炉と、ベッドと、古びた机。ジアンナは暖炉に火を入れた。


 「ルージャさん、ここはね、アッシュールさんの部屋よ。ごゆっくりね。後で掃除に来るわね」

 ジアンナは出て行った。ルージャは部屋を見まわした。ルージャは窓を開け、部屋に光りを入れる。アッシュールの部屋から、森が見えた。アッシュールが小さな頃から見た風景なのだろうと思うと、胸に暖かいものが溢れてきた。


 「さぁココちゃん、お姉さんはお掃除をするから、ルージャさんにお茶を入れてあげてね。アッシュールさんの荷物は厩舎にあるわよ」

 ジアンナは家から雑巾を見つけると、別の桶に水を入れ、家の中の拭き掃除を始めた。ココは飛ぶように走って厩舎に向かった。


 ルージャが血の力を使いすぎて寝込んだ頃、アッシュールは村の西側に移動していた。アッシュールは立っている兵達を見つけた。一人は足に怪我を負っていた。


 「ルガング王子様、王弟様、小型の大蛇が一匹おりましたが、打ち倒しております。兵一名、尾の攻撃で足の骨を折ってしまいました」

 アッシュールは黒いローブを拾い上げるとナイフで細く裂いた。落ちている枝を足に当てると折れている足を布で縛り、固定させる。兵は痛そうに呻き続ける。


 「ルガングさん、鍛冶場は石造りなので使えるはずです。傷付いた人達をそこに運びましょう」

 アッシュールは応急処置を終え、立ち上がる。


 「おい、槍持ちを一人残して鍛冶場に行け。臨時の司令所とする。持ってきた荷を司令所に移動させろ」

 ルガングの指示で、兵は負傷兵を引き連れ去っていった。


 「ここにローブがあったのか」


 アッシュールが生活していた範囲より外れた所に落ちていた。アッシュールは想定よりも村から近い場所でローブが見つかったため、内心で非常に驚いた。アッシュールは周囲を見まわし、何処に神殿、エルニカの本拠があるのか神経を研ぎ澄まして探索にかかる。


 「ん? 何か変だな」

 アッシュールは森の中に入り、岩肌を触る。行く手は崖になっている。手で触るが岩である。アッシュールの直感は只の岩ではないと告げていた。


 「エルニカは先代の雨降。竜の眷属の一員。エルニカの術は、僕で解けるはずだ」

 ルガングと兵は息を飲んでアッシュールを見る。


 「赤い世界の棟梁たる赤い世界の清い風邪が、赤い世界の護衛と共に先に進むことを所望する。道を空けよ」

 アッシュールは槍を兵に渡すと、グアオスグランを抜き、水平に薙ぐ。岩肌は姿を消し、洞窟が姿を現した。


 「行きましょう」

 驚く二人を尻目に、アッシュールは薄暗い洞窟に入っていく。洞窟はすぐに終わる。三人は洞窟の向こう側にでた。


 森の中を一本の道が通っている。道の先には石で出来たお堂があった。大きめの家程度だ。お堂には竜のレリーフが施してあった。お堂から森は切り開かれ、広大な畑が広がっていた。作物は刈り取られていた。畑の一角に木造の家が二十軒ほど建っていた。


 「静かですね。誰もいない?」


 アッシュールは周囲を見まわし、お堂に入る。お堂の中は、人の高さほどの祠石があるだけだった。祠石には尊い物が鎮座していたのであろう。アッシュールは祠石に見覚えがあった。キユネの中で見た祠と同じ感じがした。ここにも集魂の石があったのかも知れない。

 三人の視線は祈りの対象である祠石から、部屋の中に積まれている物に移動した。


 「うっ」

 兵が鼻を多い、余りの匂いにお堂から出た。アッシュールとルガングもすぐに出た。


 「酷い。何人殺したんだ」

 ルガングは見えない何者かに対して唾を吐いた。死体だった。お堂内は死体が無造作に積まれ、腐敗していた。


 「エルニカの実験場だったのでしょう。燃やしましょう」

 アッシュールは畑を見る。開墾出来る余地もかなり広そうだ。


 「いい畑ですよね。開墾するともっと麦をを植えることが出来ますよ。ルガングさん、あの大きな家、倉庫じゃないですか。行ってみましょう」

 三人は家々が立ち並ぶ一角の大きな建物に移動する。聞き耳を立てるが、物音がしない。アッシュールはドアを開けて中に入る。


 木箱と樽が並んでいた。大量だ。三人は中身を確認する。樽は麦酒で、木箱は麦だった。三人は家々を確認するが、誰もいなかった。


 「義弟殿、エルニカや一味はいないですね」

 ルガングの声に、アッシュールは渋い顔をする。


 「既に、エルニカの企みは成ったと言うことでしょうか。後で僕の家で相談しましょう」

 ララクは鍛冶場で壊れた椅子やテーブルを外に出していた。小さな大蛇が入り込み、荒らしたのだろう。どうしたものか考えていたら、物資を運んできた兵士がやって来た。臨時の司令所にするという。


 ララクは兵達に部屋を方付けるようにお願いし、炉の方に向かった。炉は問題なく使えそうだ。ふいごも痛んでいない。ララクは村で鍛冶になる決心をした。くろがねを打てるのは、街にいたエンリムと子のエンアンだけだろう。確か、街にはもう一軒鍛冶場があったが、くろがねは打っていなかったはずだ。あおがねではなく、くろがねで鍬や斧を打ち、竜の村を再建するのだ。ララクはルージャやジアンナがいるアッシュールの家に向かった。生活はアッシュールの家で行うつもりだった。


 ララクが中に入ると、アッシュールとルガング王子、近衛隊長がいた。


 「ララクさん、ちょうどいいところへ。今後について相談しましょう」

 アッシュールに促され、テーブルに座る。


 「お帰り、あなた」

 ジアンナがカモミール茶を出した。

 ララクが座ると、アッシュールは口を開いた。


 「では、現状の整理を行います。我々は、巨大な大蛇と、その前に一匹の大蛇を倒しました。想定では、最初に倒した大きさの大蛇が二十匹はいるかと思いましたが、大きく数を減らしていました。共食いの結果、巨大になったと考えるべきでしょう」

 一度、アッシュールが口を閉じ、お茶を飲み、再び続ける。


 「巨大な大蛇を倒した後、隊は二つに分かれ、探索を行いました。一隊がエルニカの部隊のローブを見つけ、僕とルガングさんで確認に行きました。村の西外れから更に行くと、エルニカの術で隠された道を見つけました。小さなお堂があり、大量の腐乱死体が無造作に置かれていました。生活のためか、かなり広い麦畑がありました。空き家が二十件、他に倉庫があり大量の麦と麦酒がありました」

 ララクが顔を上げる。


 「西外れ? あそこは崖になっていたはずだ。滅多に行く場所でないから断言できないが」

 アッシュールは頷いた。


 「エルニカの術で道が隠されていました。洞窟になっているのですぐにわかります。さて、エルニカや配下の者どもの姿形はありませんでした。エルニカの企みは既に形となったと考えるべきでしょう」

 アッシュールはお茶に口を付ける。


 「王弟殿、企みとはなんでしょう。推測できますか」

 近衛隊長はアッシュールを見る。ルガングもアッシュールを見る。考えは同じだろう。


 「近衛隊長、ルージャの術を見て頂けましたか。大きな火の竜を呼び出して、加勢してくれました。あの力の源は、死者の魂なのです。竜は集魂の石という、瑪瑙の様な石を用いて死んだ人の魂を竜の中に呼び込んでいます。ココ、僕のザックを持って来て」


 「これっちゃね。青い大きな石」

 アッシュールはココから集魂の石を受け取る。


 「この石は、キユネ、ルガングさんの王妃から受け取ったものです。キユネさんも体内に集魂の石を宿していました。かなり大きさを制限いたしましたので、竜の血の力は弱まったはずです」

 ルガングと近衛隊長は集魂の石を手に取って眺めている。


 「エルニカは集魂の石を、宮殿の地下から行ける地下宮殿から持ち出しました。集魂の石は死者の魂を集める力があります。エルニカは集魂の石になんらかの方法で死者の魂を纏わせ、竜に似た存在を造りだしたのだと思います」

 アッシュールは間を開け、各々を見る。


 「化け物を作ったのか。で、今後はどう動くと思う」

 ルガングがアッシュールを見る。


 「無差別殺戮です」

 一同はアッシュールを見る。


 「キユネさんが言っていました。人々が増えすぎないよう、川岸に街を築いたと。僕であれば、川を氾濫させます。エルニカは先代の雨降だったようです。雨を降らせるのは容易でしょう」


 「なんと」

 ルガングは絶句した。


 「僕の予想が外れるといいのですが」

 アッシュールは下を向く。


 「いや、義弟殿の懸念は正しいと思う。近衛隊長、第二隊と農民兵五名は今から明日朝まで強制休憩。明日の朝、急ぎで街まで戻る。第三隊と農民兵十五名は夜通し麦の運び出して荷駄に乗せろ。第三隊長はここの守備を命じる。農民兵十五名は引き続き、村の麦畑を確認、麦があれば刈り入れろ。その後はここに小屋を建て、人民の受け入れ準備を。近衛隊長、よろしいか」


 「はっ、すぐに手配させます」

 近衛隊長は出て行った。


 「アッシュール、街へ行くのか」

 ララクの問いに頷くアッシュール。


 「そうか。では俺も行こう。終わったら、俺はここで鍛冶になる。ここに戻ることにした。アッシュールも鍛冶を手伝わされただろう。少しはくろがねを打てると思うんだ。エンアンも打てると思うのだが、街にはくろがねになる砂鉄がでないからな」

 翌日、アッシュール達は街を目指して移動を開始した。雨が降らないことを祈りながら。

少し足りませんが、祝20万文字です。

エディターの原稿用紙で書いていますが、610枚でした。

これも読んで頂いている方々のおかげです。

ありがとうございます。

物語はクライマックスへ。

気持も乗って来て、今まで通りの更新頻度でいけると思います。

あと少しですが、お付き合い願えると幸いです。

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