第7章 竜の村へ その4 竜の村の戦い2
「よし、皆の心を受け取った! ココ、ルージャ、戻れ!」
アッシュールが叫ぶと、ココはすぐにアッシュールの横に舞い降りた。
「女神様だ」
「まだ小さいのに」
兵達から声が上がる。ルージャは飛竜を大蛇に牽制させたまま、アッシュールの横に戻って来る。
「ルージャ、兵達に大蛇の止めを刺させる。動けなくなるようにしてくれ。兵達に自信を植え付ける」
「わかったわ、アッシュール」
飛竜は大蛇の首に噛みついた。飛竜は火の竜でもある。噛みつかれた大蛇は肉が焼け、悲鳴を周囲に轟かせる。
「近衛隊長、矢を」
近衛隊長はアッシュールに胸当てを叩かれ、我に返る。
「槍持ちは立ち膝! 打ち方構え!」
近衛隊長の指示で兵達が動いていく。飛竜が大蛇から離れる。
「射ろ!」
近衛隊長の指示で矢が放たれる。矢は次々に飛竜に命中する。
「打ち方構え! 射ろ!」
矢が再び大蛇に襲いかかる。大量の矢に、大蛇は悲鳴の様な鳴き声を上げた。
飛竜が大蛇の胴に噛みつき、上空に持ち上げる。大蛇は肉が焼ける音と共に上空へ持ち上げられる。
アッシュールは槍を構えると、ララク、ジアンナも槍を構える。
「槍を構えい!」
アッシュールをみた近衛隊長が叫んで槍を構える。四人の兵も槍を構えた。飛竜は口から大蛇を放し、大蛇は地面に激突した。
「ぎゃああああ!」
大蛇は大きく叫ぶ。叫びがアッシュールの体を激しく叩く。
「者ども、堪えろ!」
大蛇の叫びは音だけで無く、質量があるかのうに体を打ち続ける。近衛隊長が負けまいと叫ぶ。
ルガングがアッシュールを見る。
「突撃指示を」
アッシュールはルガングに短く返すと、ルガングは剣を天に向けた。
「行くぞ! 突撃!」
ルガングが剣を水平に振り下ろす。
「おおおおお!」
兵達は槍を構えて一斉に走り始める。皆、目に精気が宿り、困難に立ち向かっている。
「頭だ、頭を潰せ!」
アッシュールは大声で叫ぶ。アッシュールは動きの鈍った頭の口に容赦なく突き刺していく。程なく頭が動かなくなった。ララクとジアンナは隣の頭を突き刺している。兵達は五人で頭一つに攻撃を加えている。残った一つの頭は飛竜が食いちぎった。
アッシュールは両肩で息をする。戦いは終わり、大蛇は完全に動かなくなる。アッシュールはルージャの側に寄り、飛竜を呼び寄せるとグアオスグランに戻した。
ルージャは力を使い果たしたのか、アッシュールに倒れ込んでくる。
「大丈夫か。無理させちゃったね」
「かっこいい棟梁ぶりだったわよ。でもちょっと疲れちゃった」
「パパ、格好良かったっちゃよ。でもうちらの秘密はだだ漏れっちゃね。でもうちが女神とはやり過ぎっちゃよ」
アッシュールはココの頭を撫でる。
「みんなが死ぬより百倍ましだよ。しかたないさ」
「皆の者、仕留めたぞ!」
近衛隊長の声が聞こえてくる。
「おおおおお!」
鬨の声が聞こえてくる。
「よし、隊を二つに分ける。第二隊長と第三隊長は兵を分けて周囲の探索に当たれ! 無理をするな、大物がいたら引き返せ」
第二隊長と第三隊長は隊を率いて周囲の探索に散っていった。
「俺たちも行くか」
ララクが近づいてくる。ジアンナはララクの肩に掴まり、呼吸が上がっていた。
「棟梁方はこちらでお休み下さい。ルガング王子の護衛を頼みます。此度の戦い、お見事でございました。まさか王弟殿が竜の守護者とは思いもよりませんでした。娘さんと奥方が女神であろうとは。今までの無礼、お許し下さい」
近衛隊長はアッシュールに向かい、剣を正面に置く敬礼をする。
「ココは正しくは女神ではありません。竜の眷属、翼の人達の生き残りです。女神崇拝が流行しているようなので、注意を惹くために女神と呼んでしまいました。ま、ルージャは本当の竜なのですが、力をほとんど失って、人と大差ない状態なのです」
「了解いたしました。お疲れの様ですね。娘さんと奥方は後ろで飲み物でも出しましょう。おい、王弟殿の奥方と娘さんに飲み物をお出ししろ!」
アッシュールとルージャ、ココが後ろに下がると、農民兵が集まってきた。
「女神様、光栄です!」
「生きているうちに竜を拝見出来るとは思いませんでした!」
ルージャとココは農民兵の守備隊に握手攻めにあっている。
「パパ、ど、どうしようっちゃ」
「はいはい、ココは子供なのでこの辺で勘弁してね」
アッシュールは涙目になるココを兵達から引っこ抜く。
ルージャはお疲れ様、と涼しく対応しながら水を飲んでいた。ココとアッシュールも水を貰い、一息ついた。太陽の影が少し長くなってきた頃、兵が一名帰ってきた。
「ルガング様! 怪しい小道を見つけました! 黒いローブが脱ぎ捨ててありました」
皆、兵を振り向く。
「案内しろ」
ルガングが言うと、兵は頭を下げて先を歩いて行く。アッシュールはルージャとララク、ジアンナと視線を交わす。
「エルニカか? 行くぞ」
ララクは言い放つと兵に続いた。
「ルージャさん、ココちゃん、休む暇がないわね。大丈夫?」
ジアンナはココの手を握る。
「うん、うちは平気っちゃけど、ママが疲れちょる」
「ジアンナさん、ルージャとココをよろしく頼みます。あ、僕の家で休んだらどうです」
「それがいいわね。兵隊さんとは別に、私たちは墨婆さまの家に行きましょうね」
ルージャが荷物を積んだタルボとカルボを引き連れ、アッシュールの家に移動する。ドアの前に墓標が立っていた。
「墨婆さま」
ルージャは立てられた墓標で墓の主を判断する。ルージャは墓標の前に両膝をつく。
「ココ、アッシュールのおばあさま、墨婆さまのお墓よ。ココもお祈りしなさい。墨婆さまはね、占い師だったのよ。私が本当に竜だった時、話しかけてくれた唯一のお方。赤ん坊の私に色々と教えてくれたのよ。アッシュールと会えたのも墨婆さまのおかげなのかもね」
ココも両膝をついて祈り始める。
「ひいおばあちゃん、一度会いたかったっちゃよ。でも、うちらを引き合わせてくれてありがとうっちゃ」
ココは祈れ、と言われたが祈り方がわからなかった。だから、素直な気持ちを口にした。
「墨婆さまも喜ぶわ」
ルージャはココを抱きしめると、立ち上がる。
「私と夫で村の人のお墓を作ったの。でも、大蛇にほじくり返されたのかもしれないわ。広場にお墓が一つもない。でも、墨婆様のお墓は残っていて、うれしいわ。さぁ、ルージャさん、ココちゃん、中に入りましょう」
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
竜の村の戦いは終わり、皆は休息にはいります。




