第7章 竜の村へ その4 竜の村の戦い1
※1ジュメ=約1.6mです。 成人の身長が1ジュメです。
15ジュメだと24mとなります。
一行は街道を西に進む。街道は湿地と草原が広がる。アッシュールは何日か前に見た風景なのに、懐かしいと感じてしまった。
一行は野営を続けながら街道を進んでいった。四日目に五頭の虎と戦った沢にたどり着いた。
虎の死体は腐敗せずに放置されていた。三頭の虎の死体を見て、兵達は大興奮していた。
「本当に虎神を退治したのですね。虎神のおかげで西に行くことが出来なかったのです。竜の村の村長は来ていましたが、山を越える厳しい道を通ってきたのでしょう」
ルガング、近衛隊長、ルージャ、ココが焚き火を囲んでいる。ララクとジアンナは二人で火を焚き、食事を取っていた。
「人狼を倒したり、虎神を倒したり、王弟殿はお強い。で、もうすぐ村に到着します。ルガング王子様、どのように戦いますか」
近衛隊長の問いにルガングは頷く。
「義弟殿、どうします」
ルガングはアッシュールを見る。
「相手の大蛇ですが、首が複数あり、大きさも二ジュメから五ジュメあります。口で噛みついて来ます。火は噴かないです。ただ、口で噛みつのが速く、僕の剣の師匠でも追いつけませんでした。一ジュメ程度、もの凄い速さで噛みついて来ます。一撃で人の首を落とすことが出来るので剣では戦えません。槍で戦います。我々四名と、兵の五名で戦う事になるでしょう。他の兵は後ろで矢を射って下さい」
アッシュールは矢を射る真似をする。ルガングは小さく頷いた。
一行は二日ほど移動し、竜の村がある川にたどり着いた。さらに川を遡り、竜の村の入口にさしかかる。
「ルガングさん。着きました。この先が竜の村です」
アッシュールはルガングに告げる。アッシュールの顔を始め、皆の顔が緊張の色が見える。
「荷物をここに置け。ここを本陣とする。農民兵十は陣に残れ。槍を持っている者は前衛、他の者は弓を準備せよ」
ルガングの指示で、兵達が動き始める。
「アッシュール、いくぞ。古里を取り戻そうぜ」
アッシュールはララクに頷く。
「ルージャ、ココ、準備はいいかい。ココは弓を使ってくれ。今回は弓兵がいるから、ココの矢は必要無いと思う。本当に困ったとき、僕たちや兵の命が危ないときに矢を射ってくれ」
「わかったっちゃよ」
ココは弓を出し、矢をつがえる。
「ベラフェロはココを護ってくれ」
ベラフェロは大きく吠えた。
「さ、行こう!」
アッシュールは村の広場に出た。左にルージャ、ララク、ジアンナと並んだ。アッシュールの右隣には近衛隊長が並び、槍を構えた兵が四名並んだ。隊の左手が川だ。
「弓兵は二列に並べ!」
近衛隊長は大声で指示する。槍を持ったアッシュール達と兵、計九名の後ろに、五名の弓兵、十名の弓を持った農民兵が並んだ。
「総員、前進!」
近衛隊長の声で数歩前進する。
ルージャはアッシュールの古里である竜の村に入った。焼け野原だった。正面に大きな建物が見える。石で出来ていた。右手に小さな建物が見える。
ルガングが正面に出てきた。
「話通り、酷い状況ですね。義弟殿」
ルガングは焼け野原の村を見る。
「アッシュール、正面大きな木の根本に大蛇がいるわ」
アッシュールは槍を構えて座る。ルガングは槍と弓の中間に位置した。
「槍持ちはしゃがめ!」
アッシュールの行動を見て近衛隊長が大声を上げる。
アッシュールの目にも大蛇が見えてきた。
「弓兵、弓構え」
後ろの五名が矢をつがえる。
「まだです。もう少し引きつけます」
大蛇はゆっくりと広場に出る。大きさは四ジュメ、頭の数は三つだ。大蛇の姿があらわになると、兵達に動揺が走る。
「でかい」
「頭が三つもあるぞ」
「うわあああ」
大蛇が近づくにつれ、農民兵の動揺が激しくなる。
「来るな、化け物!」
農民兵が下がり始めた。
「いかん。持たんぞ」
ララクの声に、アッシュールは頷き、立ち上がる。
「ココ! 目標、大蛇の真ん中の頭!」
アッシュールが大声で叫ぶ。
「あいっちゃ。出番が早かったっちゃね」
ココがアッシュールの前で弓をつがえる。ココが構えると、ここから低い、地鳴りの様な音が聞こえてくる。
「なんだ、なんだ!」
兵達はざわつく。明らかにココの弓から音が聞こえてくる。ココが飛ぶときの音と同じだ。ココの矢は、コルじいの羽を使っていた。今回はココの羽だ。竜の血の力が籠もっているとすると、ココの羽で作った矢の方が強いだろう。
ココの弓から、耳を押さえる程の轟音が響く。ココが矢を放つと、一際大きな轟音と共に矢が飛んでいく。矢は正確に大蛇の真ん中の頭を貫き、血飛沫を散らかす。
兵達は呆然と正面の大蛇を見つめる。
「ココ下がれ! ルージャ、ララクさん、ジアンナさん、目標は正面の大蛇、立って構え! ベラフェロ、先行して威嚇!」
「ウォオオオーン!」
ベラフェロは大きく遠吠えすると、一目さんに走り出す。
「行くぞ!」
アッシュールが走り始めると、ルージャ、ララク、ジアンナも走り始める。
「ララクさんとジアンナさんはベラフェロの左を! 僕たちは右に入ります!」
ベラフェロは大蛇に近づき、攻撃を受けない間合いで牽制を行う。大蛇が攻撃しようとすると一歩下がり、攻撃を止めると攻撃を仕掛けるふりをする。
アッシュールとルージャはベラフェロの右側に回り込む。ララクとジアンナは左側だ。
大蛇を挟み込むと、大蛇の動きが一瞬止まった。
「頭に向かって突き!」
アッシュールは男だけだと上から斬りつける手を選択するのだが、ルージャとジアンナ、女性が二人いるため突きを選択する。
アッシュールは正確に口を突いた。ルージャは胴を串刺しにする。アッシュールの突きは深手となった。ララクとジアンナの槍は胴に突き刺さっているが、致命傷ではない。
「ルージャ、あっちの頭をやるぞ!」
四人で頭一つを囲む。大蛇はアッシュールに口で攻撃を加えて来るが、長い槍を構えているために攻撃範囲に入らない。
「パパ、左からまた来たっちゃ!」
ココは言うや否や、矢をつがえ、轟音と共に矢を放つ。矢は四つある頭の一番左手に当たる。
「総員突き!」
四人で槍を突き刺すが、まだ動いている。
「突き!」
アッシュールが再び叫ぶと、四人で槍を突き刺した。大蛇は動かなくなる。アッシュールは左手を見る。十五ジュメはあろうかという巨大な大蛇が見えた。
「アッシュール、でかくねぇか」
アッシュールは大蛇を見ると、後ろを振り返る。兵達が尻餅をつき、戦意を喪失している。巨大な大蛇に恐れをなしてしまっている。ルガングが兵を鼓舞しようとしているが、無駄の様だった。
「アッシュール、兵隊さん達は駄目そうね。あっちに来られたら全滅しちゃうんじゃないかしら」
大蛇は方向を変え、戦意を喪失した兵達に向かって行く。兵達は恐怖の余り逃げることも出来ず、座り込んでわめくだけである。
「あああ、こんなはずじゃ!」
「助けて、母さん!」
兵から悲痛な声が聞こえてくる。大蛇は矢を突き刺したまま、悠然と獲物に向かって行く。
「駄目だ、あいつら死ぬぞ」
ララクが叫ぶ。
「ココ、飛んで翼を誇示しろ! 女神のように見えるかもしれない!」
「わかった、パパ!」
ココは毛皮を脱ぐと、白く美しい翼を広げる。
「見ろ、女神様だ!」
ココが槍を構え、轟音と共に飛ぶ。
「いっっけえええ!」
ココは矢の刺さった大蛇の頭を槍でおとす。
「おおおお!」
兵達は立ち上がり、歓声を上げる。
「ララクさん、ジアンナさん、兵と大蛇の間に入って下さい!」
「わかった!」
ララクは走り出す。
「ルージャ、ベコルアを出す。極力大きくしてくれ。出ろ、ベコルア、出番だ!」
ルージャの前に炎が大きく広がる。
「ベコルアさん、大きく、大きく、大蛇より大きく。大きく、強く、大きく」
ルージャは大きくなるよう祈りを込める。炎は十ジュメになろうかという巨大な火の飛竜を産んだ。
「竜だ! 竜が出た!」
兵から歓声が聞こえる。
大蛇は立ち止まり、周囲を飛ぶココを捕まえようと攻撃を加えるが、ココの飛ぶ速度に追いつかない。ココだけで倒せてしまうのだが、ココが怪我を負うのが嫌なのと、兵達の士気を上げないといたずらに死傷者が増そうなので止めは兵で行う事にした。
「ココ! そのまま引きつけて置いて! 倒すなよ!」
ココが槍をくるくると回して返答する。アッシュールは走り出し、槍を地面に突き刺してグアオスグランを抜いた。
「見よ! 我が娘は戦いの女神!」
アッシュールはグアオスグランでココを指す。
「本当だ、女神様だ」
兵達の顔に少し希望が湧いてくる。
「我が妻は第四代赤い世界の真理である! 赤い世界とはこの大地を作った古の竜である! 見よ、赤い世界が眷属の飛竜を呼び出した! 我は赤い世界から竜の剣グアオスグランを託された棟梁である! 魔の者どのであろと、我々は打ち倒す力があるのである! 怖じ気づくな、君たちには古の竜の加護がある! 立ち上がろう! 我々は、この地に実る麦を持って帰らねばならない! 冬を越せる穀物が街には無いのだ! 君たちは選ばれてこの地にやって来た! 愛する者を護るため! 我が子を飢えさせないため! 古の竜は君たちの願いに応えるべく、此度の戦におもむいた! しかしだ! 戦うのは古の竜では無い! 君たちなのだ!」
アッシュールは槍を持った兵をひとりひとり立ち上がらせて、胸当てに拳を当てる。一人目はすぐにアッシュールの胸当てに拳を返してきた。
アッシュールは大きく頷くと、次の兵の左手を持ち、立ち上がらせ、胸当てに拳を当てる。二回目で拳を返してくれる。
「古の竜がお前達に味方しているのだ! 戦えるか!」
アッシュールは大声で叫ぶ。
「戦えます!」
三人目、四人目は自分で立ち上がった。
「戦えるか!」
アッシュールは順に拳を当てて行く。
「戦えます!」
アッシュールは二列目と三列目の間、弓兵と農民兵の間に入る。グアオスグランを鞘に収め、両手で兵達の胸当てに拳を当てる。
「戦えるか! 困難なのはわかっている! 我々はこの先の麦を手にしなければならない! 皆が麦を待っているはずだ! 弓を打てるか!」
弓兵と農民兵の目に精気が戻ってくる。
「矢を打つぞ!」
弓兵のひとりが叫ぶ。




