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第7章 竜の村へ その3 飛竜ベコルア

 アッシュール達は女中に案内された部屋に入る。部屋は大きく、寝室と居間に別れていた。寝室にはベッドが四つあり、寝具も上等な品物だった。

 入るやいなや、ココがベッドに飛び込んだ。


 「ふっかふかや! ね、ママもおいで! ふっかふかっちゃ!」

 ココは布団に潜り込む。ベラフェロも潜り込んできた。


 「狼しゃん、一緒に寝ようっちゃ」

 ベラフェロはココの顔を嘗める。次第にココの声が聞こえなくなった。


 「ココちゃん寝たのかしらね。あ、アッシュール、さっきお姉様に術を習ったのよ。見ていて」

 ルージャは火ばさみを掴むと、燃えている薪を暖炉から取り出す。


 「赤い世界の真理の名において命ずる。我が眷属、赤い炎より出でて姿をなせ。我と共に有り、我を護れ。我の命と伴侶たる棟梁、赤い世界の清い風、我が娘たる赤い世界の青い空の命に従え」

 ルージャは燃えている薪に祈りを捧げる。


 「お、おい。ルージャ」


 アッシュールはびっくりして止めさせようとルージャに近づくが、一瞬遅かった。

 薪の炎が大きくなり、翼が生えた。次に頭、胴、足、尾と順番に生えた。竜だ。小さな竜が炎から生まれ出た。竜は赤く、人の大きさ程度だ。腕は無く、翼にかぎ爪が付いていた。


 「ギャアアアア」

 小さな竜は大声で咆哮した。


 「なになに!」

 ココとベラフェロが寝室から出てくる。ベラフェロは小さな竜を見るなり唸り始める。


 「大丈夫よ、私の使い魔の飛竜よ。こら、静かにしなさい」

 静かにと命令された飛竜は咆哮を止める。


 「座りなさい」

 命令された飛竜はその場に座る。犬の様だ。強い口調にびっくりしたベラフェロとココもその場に座る。


 「違うわよ。座りなさいと言ったのはベラココルーアッシュだけよ。ココちゃんとベラフェロさんは座らなくてもいいのよ」


 「ごめん、その言い辛い名前はその小さい竜の名前かい」

 アッシュールがルージャを見る。ルージャは自信満々で頷く。


 「みんなからちょっとづついただいた名前よ。ベラフェロさんの弟ね」

 「却下」

 アッシュールは即断する。


 「ええ、駄目なの。じゃぁベコルア。飛竜のベコルアさんで」

 「ギャッ」

 名前を呼ばれると飛竜のベコルアは小さく返事をした。


 「ルージャ、凄く熱いし眩しい。そのベコルアは燃えているのか。凄いのはわかったので元に戻してくれないか」

 アッシュールは窓を開ける。冷たい風が部屋に吹き込み、アッシュールは一息つく。


 「残念だけど生まれた生命は殺せないし、戻し方も知らないわ。名前を付けちゃったから戻すのも可哀想だし」


 「流石ママっちゃね。うち、喉が渇いたのでお茶を飲むっちゃよ。ベコルアしゃん手を出して」

 ココはザックから鍋を取り出し、カモミールを入れる。部屋に置いてある水差しから水を注ぎ、鍋をベコルアの手に乗せる。


 「おい、ココ。なにやってんだ」

 アッシュールは止めさせようとココに近づく。


 「パパ、沸いたっちゃよ。流石ママの眷属、お湯が沸くのが早いっちゃ」

 ココは備え付けのカップにカモミール茶を注ぎ、アッシュールとルージャに渡す。ココは美味しそうにカモミール茶をすする。


 「パパ、駄目っちゃ。熱くて目眩しちょる」

 「ココ、熱いのに熱いお茶を飲もうとするからだ」

 アッシュールは左手でココを抱き寄せると、右手でグアオスグランを抜いた。


 「ベコルア、今日からお前の住処は竜の剣、グアオスグランだ。熱くて堪らないから剣の中に入れ」

 アッシュールはグアオスグランをベコルアに向けると、ベコルアは小さくギャッと鳴いて姿を炎に変え、グアオスグランに吸い込まれて行った。


 「流石、私の夫ね。飛竜を使いこなすとは恐れ入るわ。お姉様は水や石でも出来ると言っていたわ。ココちゃん、お水ちょうだい」


 「駄目っちゃよ。うちが飲むっちゃ」

 ココは違うコップに水を注ぎ、飲み干した。


 「ねぇパパ。うちの抜けた羽根が十枚になっとるきに、これで矢を作ってっちゃ」

 ココは羽根を取り出す。純白の美しい羽根だった。


 「前のはコルじいさんの羽根だったのだろ」

 ココは頷く。恐ろしく命中精度の高い矢だった。


 「ココの羽根ではどうなるんだい」

 ココは首を傾げる。


 「まぁいいや」

 アッシュールはドアを開けると、衛兵を呼んだ。羽根を渡し、矢を作ってくれるよう頼んだ。衛兵はわかりましたと返事をし、持ち場に戻った。


 夜になると、女中が夕食を運んできた。野菜のスープに焼いた串肉と生肉、稗の粥だ。水と葡萄酒が添えられていた。生肉はベラフェロ用だろう。


 夕食を取り終えると、アッシュールは泥の様に眠った。翌日も何もせず、宮殿で眠りながら過ごした。アッシュールは肉体的にも、精神的にも疲労しており、快適な睡眠が取れる宮殿は大変助かった。


 竜の村への遠征当日の朝、アッシュール達は宮殿の広場へ向かった。広場にはララクが既に準備を終え、槍を構えて待っていた。


 「俺たちも行くからよろしくな。竜の村に戻ろうと思うんだ。自分の家が建つまで、アッシュールの家を使わせて貰うぞ。ところで体調はどうだ。槍の傷はもういいのか」

 アッシュールは頷く。


 「義弟殿、頼まれていた矢です」

 アッシュールは後ろからルガングが声を掛けられる。兵が矢をアッシュールに渡す。横には近衛隊長が控えている。


 「さて、今回の遠征は司令官は私だが、指揮は義弟殿に執って貰います。同行はルージャさんと娘さん、ララクさんとジアンナさんでよろしいか。こちらは近衛隊長以下近衛隊十名、麦狩りの農民兵二十名です。装備は槍が良いのでしょうが、四名分しかありません。作戦は歩きながら話しましょう」


 アッシュールが話している間に、二頭の馬、タルボとカルボが兵に引かれてルージャに渡されている。アッシュールは荷物を二頭の馬にくくりつける。ララクとジアンナの荷物も積み込んだ。


 「準備はいいか! 出発!」

 ルガングの声と共にルガングは歩き始めた。タルボにルージャが騎乗し、荷物の多いカルボはココが騎乗している。アッシュールはカルボの手綱を持ち、歩いて行く。近衛隊長とルガングが騎乗している。他の兵は大きな荷物を背負い、歩いている。


 ルガングと近衛隊長、アッシュールが先頭で、兵達は後ろだ。最後部に馬に引かれた荷駄馬車だった。


 「パパ、世界の果てに行くつもりが、元に戻っちゃったね」

 「そうね。でもアッシュールの古里に行けるのだから文句は無いわ。むしろ楽しみね。墨婆さまにお参りをしたいわ」


 「世界の果ては遠いね。麦が無事だといいなぁ」

 アッシュールは旅だったはずが元に戻る不思議な現実を噛みしめていた。

燃えさかる飛竜の登場です。


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