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第7章 竜の村へ その2 王とキユネ

 「鍛冶場には行かない方が良いのじゃないか。良いことなんか、多分無いぞ」

 ララクは否定的な言葉を吐く。


 「いや、けじめです」

 アッシュールは首を振ると、アッシュールはララクとジアンナ、兵達に見守られながら宮殿を後にした。

 アッシュール達が鍛冶場に着き、中に入っていく。いつもは開けられている鍛冶場のドアが閉じられていた。


 「エンアン、いるかい」

 アッシュールがドアを叩く。


 「アッシュールさん、生きていたんですか。あんた死ねばいいじゃないですか」

 ドアの向こうから声がする。


 「エンアン」

 「もう来ないで下さい。顔を見ると、殺したくなるから」

 エンアンはアッシュールの声を遮り、拒絶の姿勢をみせる。


 「ちょっと、あんた人を殺そうとしておいてどういうつもり? どういうつもりなのよ! アッシュールはあんたのせいで人狼になったのよ! 私が居なかったらあんたは殺していたのよ! あんたも彼奴等と一緒じゃない! 人殺し!」

 ルージャが槍でドアを叩く。周囲に甲高い音が響き渡る。


 「ママ、パパが困っているっちゃよ。もう行こうっちゃ。行こうっちゃよ!」

 ココがルージャを止めようと必死に抱きついてくる。ルージャはようやく叫ぶのを止めた。


 「エンアン、すまなかった。元気で。生活費を置いておくから使ってくれ」

 アッシュールは懐から金が入った革袋をひとつ、ドアの前に置いた。


 「パパ、もういいよ。行こうっちゃ。ここにいたら駄目っちゃ」

 アッシュールは頷くと、鍛冶場を後にした。鍛冶場はもう一つの小さな竜の村だった。アッシュールは再び故郷を無くしたような感覚に襲われた。胸が押しつぶされそうになるのを堪え、宮殿への緩い坂道を登っていった。


 アッシュール達が鍛冶場に向かっていた頃、ルガングはキユネを連れて王の元へ向かっていた。

 キユネはルージャよりも背が心持ち低く、体も細かった。髪は王とルガングと同様、銀髪だった。美貌はルージャと並び劣らず。ルガングがキユネを連れて歩くと周囲の目がキユネに向けられた。


 「王よ、ルガングです」

 護衛がドアを開ける。王はベッドに横たわり、外を見ていた。


 「王よ、ご機嫌麗しゅう。お体はいかがですか」

 ルガングは膝まついて礼をする。


 「うむ。挨拶は無しじゃ。そのお方は新しいお后か」

 キユネはスカートを持ち、優雅に礼をした。


 「お人払いを」

 王は右手を軽く振ると、二名の護衛はドアの外に出た。


 「いわく付か、新しいお后は」

 「は。初代の赤い世界の妹、キユネ・フルーガスです。先ほど、竜の棟梁殿と地下洞窟にて身柄を保護しています。竜の棟梁の要請により妻としたいと思っています」

 王はキユネを見る。


 「ほう、美しいのう。飛ばざる者か。生きておったのか。どれ」

 王は立ち上がろうとするが、ルガングに止められる。


 「王よ、お体に触ります」

 「うむ。本当の竜を后に迎え入れるか。お主も剛毅よの。ルガングは后に竜の眷属を手にし、更に竜の棟梁とも血族となったのだ。聖堂どもが勝手に女神を崇拝しておるが、お主は聖堂をどうするのだ。ルガング、お主の子は王の血と竜の血を受け継いだ、聖堂の権威をものともしない子になるな」


 「は。棟梁の娘は竜の眷属で、翼の者です。聖堂の女神と姿形が酷似しているため、しばらくは捨て置きます。宮殿の中でも、棟梁の強さと妻のルージャ殿の美しさは評判になってます。エルニカという極悪人を排除するには棟梁に相手して貰うほかには無く、特別な存在というのが時期に広まってしまうでしょう。その時は聖堂など木っ端みじんに吹き飛ぶでしょう」


 「キユネと申したか。そなたは人の世の暦が始まるときより生きているのか」

 キユネは頭を垂れる。


 「はい。初代から、今の四代目まで千年近く生きております。しかし、棟梁殿から永遠に掘り続けよという初代の命を解除していただき、人として生きて子を産むよう言われております。私の中の竜の血の力が尽きたとき、竜ではなく、人の子を産めるでしょう」


 キユネは立ち上がると、大理石のテーブルに手を置いた。テーブルは温度を上げ、赤熱する。テーブルは益々赤く輝き、溶けて床に流れ落ちた。王は溶けたテーブルを驚きの驚きの顔で見る。


 「むう。本当に竜、いや初代の眷属なのだな。そなたは生きるも死ぬも、竜の子を産むも人の子供を産むのも棟梁の命令次第なのか」


 「はい。赤い世界の一族は、棟梁の命令は絶対です。竜の子を産めと言われれば、竜を産みましょう。お気を付けて下さい。王様も、ルガング様も眷属に過ぎませぬゆえ」


 「王よ、前に話した通り、三日後に竜の村へ兵を出します。近衛兵十、農民兵二十です。麦畑があるようなので占拠し、我が領土とします。近衛第二隊長を司令官として置きます。農民兵はそのまま開墾に当たらせようと思ってます。棟梁も同行してくれます。戦の指揮は棟梁に任せようと思っています」

 王は小さく頷いた。


 「棟梁との関係を考えながら行うがよい。棟梁が王位を望んだ場合を考えておけ。聖堂の大司教になっていただくのも良いかも知れぬぞ」



 アッシュールは宮殿に戻ってきた。帰路、アッシュールは口をきかず、下を向いて歩いていた。アッシュールは気持の整理が出来ず、鍛冶屋の夫婦、エンリムとシュアンナの死を受け入れ出来なかった。


 門を守る兵はアッシュールを見た途端、右足を打ち鳴らし、剣を引き抜き、顔の前に垂直に構える。王族にしかしない、最敬礼だ。


 「先ほどは素晴らしい戦いでした! ご尊敬申し上げます!」

 大声を上げる兵にココはびっくりして、ルージャに抱きついた。


 「ありがとう」

 アッシュールのグアオスグランを抜き、同様に敬礼を返す。

 部屋に戻る途中、ルガングとキユネに会った。


 「義弟殿、酷い顔ですぞ。真っ白だ。今日はゆっくりと休んで下さい。おい、二階にご案内しろ」

 ルガングが女中に指示する。

 キユネはしゃがみ込み、ココと視線を合わせる。


 「ココちゃん、またね」

 キユネはココの手を取り、にこりと笑う。


 「おねぇちゃん、またっちゃ!」


両親を殺されたエンアンはアッシュールを拒否。

王はキユネの複雑な状況を理解しています。


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